第49回日本理学療法学術大会

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発表演題 ポスター » 神経理学療法 ポスター

脊髄損傷理学療法

Sat. May 31, 2014 1:00 PM - 1:50 PM ポスター会場 (神経)

座長:藤縄光留(神奈川リハビリテーション病院リハビリテーション局理学療法科)

神経 ポスター

[0973] 脊椎疾患術後の内転筋痙縮に対する経皮的電気刺激と標準的理学療法の併用治療の効果

中原彩希, 中村潤二, 生野公貴, 徳久謙太郎 (医療法人友紘会西大和リハビリテーション病院)

Keywords:脊椎疾患, 痙縮, 電気刺激

【はじめに,目的】
脊椎疾患後の多くに痙縮が生じ,歩行に悪影響を認める。痙縮治療は薬物療法や外科的療法等あるが,副作用や侵襲性が問題となる。一方,経皮的電気刺激(以下TENS)は非侵襲的治療法であり,反復的TENSの実施が痙縮抑制効果を高めるとされる。今回,我々は脊椎疾患術後に股関節内転筋痙縮による歩行困難な症例を経験した。痙直型両側麻痺児の股関節内転筋痙縮に対し,神経筋電気刺激と歩行練習の併用が短期及び長期的改善を示した報告はあるが,脊椎疾患又は股関節内転筋痙縮を対象とした報告は少ない。そこで,本研究は頚椎性脊髄症と腰部脊柱管狭窄症を合併した1症例を対象に,TENS及び標準的理学療法の併用による股関節内転筋の痙縮抑制や歩行能力の即時的及び持ち越し効果について検討する。
【方法】
対象は70代女性,X年に頚椎性脊髄症に対し椎弓形成術,Y(X+20)年に腰部脊柱管狭窄症に対し椎弓形成術を施行後,当院回復期病棟に入院となった。本介入は入院日から約1ヵ月後に開始した。介入前歩行の実用性低下は両遊脚初期の股関節内転増加によるクリアランス低下であり,1か月間の理学療法では痙縮及び歩行の改善を認めなかった。介入前評価は,股関節内転筋痙縮はModified Ashworth Scale(MAS)にて右3,左2,股関節外転筋力は徒手筋力計(アニマ社製)のベルト固定法にて右7.4kgf,左8.2kgfであった。本研究はシングルケースデザインのABA型を用い,A期とA2期は標準的理学療法,B期はTENSと標準的理学療法の併用とした。介入頻度は各々1週(6日/週),1日60分とした。標準的理学療法は関節可動域練習,筋力増強練習,歩行練習等を実施した。電気刺激はトリオ300(伊藤超短波社製)を用いた。電気刺激のパルス幅は250μsec,周波数は100Hz,刺激強度は運動閾値以下で疼痛が生じない最大強度で両側中殿筋に理学療法実施中に60分間刺激した。評価は両股関節内転筋にMAS,両股関節外転筋力,内省報告とした。歩行評価はzebris WIN FDMシステム(zebris社製)を用い歩隔,ステップ長,歩行速度を測定した。評価内容は歩行器を用い,2mの測定機器の前後に各々2mの補助歩行路を設け,8歩行周期を測定し平均値を算出した。評価はMASのみ各介入前後,その他は介入前,A期後,B期後,A2期後に実施した。解析は,即時的効果の検討に各期間のMASの介入前後の変化量平均を算出し,持ち越し効果は各期間のCeleration Line(CL)を引き,その傾きを目視にて検討した。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究の主旨を説明し,手記にて同意を得た後に開始した。尚,本研究は主治医と施設長の承認を得た。
【結果】
MASの介入前後の変化量平均は右下肢でA期0.5±0.5,B期1.17±0.4,A2期0.83±0.4,左下肢でA期0.33±0.5,B期0.5±0.5,A2期0.5±0.5であった。CLの傾きはA期とA2期は近似し,B期では増加し改善傾向を認めた。外転筋力の介入前と全期の比較では,両下肢とも±1.0kgf内の変化であり改善しなかった。歩隔は介入前10±4cm,A期後9±4cm,B期後9±4cm,A2期後8±4cmであった。ステップ長は右下肢で介入前27±5cm,A期後27±4cm,B期後42±3cm,A2期後34±2cm,左下肢で介入前29±5cm,A期後28±4cm,B期後43±3cm,A2期後43±5cmであった。歩行速度は介入前0.82km/h±0.18,A期後0.65km/h±0.10,B期後1.61km/h±0.09,A2期後1.20km/h±0.13であった。内省報告はB期に「足が軽く,前に出し易い」と報告があり,TENS実施中の不快感や痛みの増悪を認めず,受け入れ良好であった。
【考察】
本研究のMASの変化量平均はB期で最も改善し,股関節内転筋の痙縮抑制の即時的効果を認めたが,CLの傾きはA期とA2期は近似する結果を示し,持ち越し効果を認めなかった。Samiらは股関節内転筋の拮抗筋の中殿筋に神経筋電気刺激することで,相反抑制が生じ股関節内転筋痙縮は軽減すると報告し,本研究結果もTENS併用により相反抑制が生じ,即時的に痙縮が軽減したと考える。歩行では歩隔の変化を認めず,B期にステップ長や歩行速度の大幅な改善を認めた。本症例は特に遊脚期の股関節内転増加による歩行の実用性低下を認め,股関節内転筋の痙縮抑制が遊脚期の改善に関与し,歩行能力改善に至った可能性がある。また,痙縮が抑制された状態での反復的な歩行練習は,運動学習を促通し,A2期以降にも歩行能力の改善が維持したと考える。しかし,今後は症例数の増加,歩行評価に3次元動作解析装置を用いる等の検討が必要である。
【理学療法学研究としての意義】
本研究は1症例だが,TENSの反復的介入は内転筋痙縮の抑制を認め,歩行の即時的及び持ち越し効果を示した。またTENSの受け入れは良好であり,非侵襲的に痙縮をコントロールしながら理学療法と併用できる為,臨床有用性の高い治療法となる可能性がある。