第49回日本理学療法学術大会

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脊髄損傷理学療法

2014年5月31日(土) 13:00 〜 13:50 ポスター会場 (神経)

座長:藤縄光留(神奈川リハビリテーション病院リハビリテーション局理学療法科)

神経 ポスター

[0974] 脊髄損傷者におけるプッシュアップ方法による筋活動の違い

坂元諒1, 島袋尚紀1, 向井公一2, 植田耕造1, 羽田晋也1 (1.星ヶ丘厚生年金病院リハビリテーション部, 2.四條畷学園大学リハビリテーション学部)

キーワード:プッシュアップ, 脊髄損傷, 筋活動

【はじめに,目的】
プッシュアップは,脊髄損傷患者において褥瘡予防・移乗・移動動作等を行う上で重要な基本動作である。プッシュアップ練習では,殿部挙上感覚を得る為にプッシュアップバーを使用することが多いと思われる。先行研究では,殿部挙上時(Rayes,1995)や高い位置へ後方移乗(Gagnon,2005)した際の上肢筋活動を報告したものはあるが,バーを使用した際の筋活動を報告したものは見当たらない。
今回,バー使用の有無による違いを上肢筋活動,動作観察から分析し若干の知見を得たので検討を加え報告する。
【方法】
対象は,受傷後1年以上を経過し在宅生活を行っている第12胸髄損傷の男性2名(症例A・B)で,両者共ASIA impairment scaleはA,車いす生活は床から車いすへの移乗も含め自立していた。
プッシュアップは,プラットホーム上端座位で上肢支持の位置は任意とし,バーを使用しない方法(条件①)と10cmのバーを使用した方法(条件②)の順番で行った。被験者には「出来る限りお尻を高く上げ,ゆっくり下してください」と口頭指示を行った。
上肢筋活動の測定は,表面筋電図(酒井医療社製,MyoSystem1200)を用い,記録筋は左側の三角筋前部線維(AD),中部線維(MD),後部線維(PD),上腕三頭筋(TB)の計4筋とした。データは,サンプリング周波数1kHzでビデオカメラと同期して測定し,上肢移動期(I期),殿部浮上期(II期),殿部最高期(III期),殿部下降期(IV期)に区分した。得られた筋電図は全波整流,20~500Hzでbandpass filterを実施後,root mean square値を算出した。各期における平均筋活動は,等尺性収縮での最大筋力発揮時の最大筋活動で除し,%MVCとして算出した。殿部挙上距離はS2上に貼付したマーカーの垂直移動距離とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
症例A・Bには本発表に関して趣旨を説明し同意を得た。また,本発表においては個人情報を特定できる内容は含まれていない。
【結果】
症例AとBでは上肢筋活動と動作パターンに異なる結果を得た。
各期(以下I→II→III→IVの順)における各筋の%MVC(%)は,症例Aの条件①でAD(36.2→35.7→27.8→21.3),MD(20.1→21.0→17.1→16.3),PD(11.7→12.0→10.8→9.7),TB(38.7→37.3→38.6→39.8),条件②でAD(0.7→5.3→10.0→5.0),MD(1.5→4.0→6.3→5.0),PD(1.2→2.8→4.1→3.6),TB(24.2→52.7→32.0→48.1)であった。症例Bの条件①でAD(47.7→130.5→94.6→34.0),MD(38.2→72.5→59.5→23.8),PD(8.2→42.5→31.6→4.2),TB(38.8→31.2→25.0→25.4),条件②でAD(36.8→50.3→41.1→32.0),MD(18.0→40.8→35.0→9.8),PD(3.5→8.6→8.7→2.9),TB(66.0→37.6→27.6→43.3)であった。
殿部離床距離は,症例Aの条件①で12.5cm,条件②で10.0cm,症例Bの条件①で14.0cm,条件②で16.5cmであった。
動作観察より症例A,B共に条件①では,大転子より前方に肘関節伸展位で上肢を着き,I期で頸部屈曲・体幹前傾,II・III期でさらに体幹前傾を伴いながら肩関節屈曲,肩甲骨外転で押し上げていた。症例Aの条件②では,肩甲骨挙上,肘関節軽度屈曲位でバーを大転子の側方に着き,I期で軽度の体幹前傾,II期で肘関節伸展による殿部の挙上を行い,条件①に比べ肩関節屈曲は減少していた。症例Bの条件②では,肘関節屈曲位でバーを大転子より前方に設置し,I期で肘関節屈曲位を保持しながら頸部屈曲・体幹前傾,II・III期で肘関節伸展,肩関節屈曲,肩甲骨外転と連動的に行っていた。
【考察】
殿部離床距離が低下した症例Aと増加した症例Bでは,筋活動量の変化に大きな違いがあった。症例AのAD,MD,PDにおいて条件②で大幅な筋活動の減少を認めた一方で,TBにおいてII・IV期で筋活動の増加を認めた。条件②では,バーを大転子の側方につき肩関節屈曲を行わずに肘関節伸展のみで殿部を挙上させていることから,殿部の拳上・下降を主としてTBの活動で行うことで三角筋の筋活動が顕著に減少したと考える。症例BのAD,MD,PDにおいて条件①はII期で,条件②はIII期で最高値を示したが値に大きな差はなかった。TBにおいて条件②のI期で最高値を示した後,II期,III期と段階的に減少していた。これは条件②で,バーを大転子より前方に置くことでI期において肘関節屈曲・体幹前傾とし,II・III期で肘関節伸展に加え体幹前傾,肩関節屈曲,肩甲骨外転を行っていたことから,TBを殿部を挙上させるためだけでなくI期で活動させることで,その後の体幹前傾,肩関節屈曲,肩甲骨外転が行いやすくなり,三角筋の筋活動減少の割合が少なくなったと考える。
【理学療法学研究としての意義】
バーを使用した際は三角筋の筋活動は減少するが,肘関節伸展,体幹前傾,肩関節屈曲,肩甲骨外転を連動的に行うことで,その程度を軽減させることが示唆された。