第49回日本理学療法学術大会

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発表演題 口述 » 基礎理学療法 口述

生体評価学3

Sat. May 31, 2014 1:55 PM - 2:45 PM 第4会場 (3F 302)

座長:松原貴子(日本福祉大学健康科学部)

基礎 口述

[0980] 深部筋とサルコペニア診断基準の関連性について

伊集院万人, 宮本弘太郎, 穐山博人, 山元竜二, 花房豊宜, 鹿島克郎 (独立行政法人国立病院機構指宿医療センター)

Keywords:サルコペニア簡易基準案, 大腰筋断面積, 地域高齢者

【はじめに,目的】
EWGSOP(欧州ワーキンググループ)においてサルコペニアは,進行性,全身性に認める筋肉量減少と筋力低下であり,身体機能障害などを伴うと定義されている。診断基準は,二重エネルギーX線吸収測定法や体組成計などを用いた四肢筋量の基礎研究を基に検討されている。しかし,臨床において四肢筋量が少なくとも日常生活動作の再獲得や在宅復帰が可能となる例を多く経験する。この現象は,高齢になっても深部筋が,身体能力に多大な影響を及ぼす遅筋,姿勢保持筋として複雑な神経経路と共に利用できているからではないだろうか。サルコペニアと深部筋量の関連性についての報告は,ほぼ皆無である。今回,人体最大の深部筋である大腰筋断面積の筋量と実測した日本人版サルコペニア基準案を用いて深部筋とサルコペニア診断基準の関連性を検討する。
【方法】
指宿医療センター(地方の高齢過疎地域)で診療上腹部CTを施行した外来患者500名を本研究の分析対象者とした。腹部CTにおける大腰筋水平断は,東芝社製AquilionCXを用いて第5腰椎椎体上縁を水平断した画像構成で行った。画像をPCに取り込み,Aze社製ワークステーション:バーチャルプレイスでピクセル数をカウントし,FOVとマトリクトから決定する1ピクセルの面積から大腰筋の横断面積を算出した。大腰筋断面積と年齢の関連性を検討し,男女の有意差を比較した。
次いでその中から基本情報,測定値(年齢,性別,身長,体重,BMI,普通歩行速度2回の平均値,握力2回の最大値,下腿周計,大腰筋断面積3回算出の平均値)が全て得られた110名で更に大腰筋と身長,体重,BMI,歩行速度,握力,下腿周計の関連性を検討した。下方らの日本人版サルコペニア簡易基準案を用いて通常歩行速度1m/s未満もしくは最大握力が男性25kg未満,女性20kg未満を伴ったBMI18.5未満,もしくは下腿周計30cm未満をサルコペニア群と定義し,正常群,虚弱群,サルコペニア群に対象者を振り分け,有意差を比較した。
統計学的分析として基本情報,測定値は正規分布を示していたのでSPSSを用い回帰分析で関連性を検討し,独立した標本のt検定,一元配置の分散分析で有意差を比較した。有意水準は5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は,指宿医療センター倫理員会の承認を得て実施した。また,対象者には書面と口頭にて研究の目的・趣旨を説明し,研究に対する参加の同意を得た。
【結果】
全対象者500名(男性:290名,女性:210名)は,大腰筋断面積2057.1±643.11mm2,年齢72.1±11.3歳。測定した項目が全て得られた110名(男性:67名,女性:43名)は,大腰筋断面積2076.44±606.23mm2,身長157.4±9.0cm,体重56.2±10.7kg,BMI22.6±3.3kg/m2,歩行速度9.5±2.5m/s,握力26.3±9.0kg,下腿周計33.0±3.1cm。サルコペニア簡易診断基準内訳は,正常群68名,虚弱群21名,サルコペニア群21名であった。
全対称者において大腰筋断面積と年齢では,関連性が認められ(R2=0.12,p<0.05),大腰筋断面積は,男女で有意差が認められた(F=32.19,p<0.05)。
全測定項目が実施出来た110名では,大腰筋断面積と身長(R2=0.36,p<0.05),体重(R2=0.43,p<0.05),BMI(R2=0.13,p<0.05),歩行速度(R2=0.42,p<0.05),握力(R2=0.52,p<0.05),下腿周計(R2=0.26,p<0.05)で各々関連性が認められた。また,正常群,虚弱群,サルコペニアの3群において有意差が認められた(F=11.07,p<0.05)。
【考察】
今回の結果は,大腰筋量が加齢に関連している事,サルコペニア簡易診断基準で多く用いられる握力,歩行速度,下腿周計にも関連する事を示唆していると考える。サルコペニア基準において筋力低下,身体機能低下を起こす事が示唆された深部筋と従来の評価で使われている四肢筋量のどちらがよりサルコペニアに関連しているかを示せていないと考える。サルコペニアにおける筋肉量減少の診断に深部筋も加味していく事がサルコペニアに対する運動療法効果や予後予測を示す為に重要である。
今後は,横断的な四肢筋量と深部筋量の関連性や理学療法の介入有無,転帰関係を評価した深部筋の客観的な筋肉量との関連性の検討が必要である。
【理学療法学研究としての意義】
サルコペニアは生活障害や生活機能と密接な関係を持つが,その定義や評価・判定基準に対する報告が散見するほどしかない。人体構造や機能評価に基づいた運動療法で治療介入する理学療法士にとって,身近な画像診断との関連に対する結果は,動作再獲得予測に対し有用であると考える。