[0982] 腰部多裂筋横断面積に影響を及ぼす因子
Keywords:多裂筋, 性差, 超音波画像診断
【はじめに,目的】
厚生労働省の国民生活基礎調査によると,腰痛の有訴者率は高く10年連続で第1位もしくは第2位を独占しており,腰痛の治療および予防方法の確立が必要不可欠であるといえる。
近年では,体幹深層筋の機能不全が腰痛発症に関与しており,このうち深部に位置する多裂筋は姿勢保持や腰椎のコントロール,さらに障害予防に重要であると報告されている。Hide(1996)やMayerら(1989)は腰痛症患者における多裂筋の構造的変化について有意な萎縮,脂肪組織への置換を報告し,腰痛症患者の多裂筋の筋量および筋活動量の低下,多関節筋の代償的な筋活動が明らかにされつつある。
多裂筋の評価方法には,非侵襲的な方法として超音波画像診断装置を用いた研究が行われている。一般に,ヒトの筋断面積は身長や体重などの体格が影響する。体格を考慮した場合,下肢の筋断面積は男女の差異が小さくなるのに対して,上肢の筋断面積は体格を考慮しても男女差が残るとされている。しかし,体幹にある多裂筋に関して体格を考慮したうえで性差を検討している報告はない。そこで,本研究では超音波画像診断装置を用いて健常成人の多裂筋横断面積を測定し,性差に影響を及ぼす因子を明らかにする。さらに,多裂筋横断面積の性差を補正する方法を検討する。
【方法】
対象は腰痛症状を呈していない健常成人63名(男性30名,女性33名)とした。身体組成として,身長,体重,Body Mass Index(以下,BMI)を測定した。多裂筋横断面積の計測には超音波画像診断装置(ALOKA社製SSD-650CL),3.5MHzリニア式プローブ,Bモードを使用し,その操作に慣れた1名を検者とした。測定肢位は腹臥位にて腰椎前後弯中間位とした。測定部位は,第5腰椎棘突起より2cm外側でプローブは脊柱と垂直に設置し,短軸撮影にて右多裂筋横断面積を測定した。測定中は,通常呼吸を行うよう指示し,測定は安静呼気時の多裂筋横断面積を2回測定し,その平均を代表値とした。
統計解析には,男女間の比較には対応のないt検定を用いた。多裂筋横断面積と体格(身長,体重,BMI)の関係を明らかにするためにSpearmanの順位相関係数を用いた。さらに,多裂筋横断面積を従属変数とし,身長,体重,BMIを独立変数とした重回帰分析(ステップワイズ法)を行った。なお,解析にはSPSS17.0を用い,有意水準は両側5%とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究はヘルシンキ宣言に沿ったものであり,対象者には事前に研究の目的と内容を説明し,研究同意の撤回が常に可能であることを伝えたうえで,紙面による了承を得た。
【結果】
体格の指標である身長と体重には有意な性差を認め,いずれも男性の値が女性を上回っていた(p<0.05)。多裂筋横断面積においても,男性が女性より有意に高い値を示した(p<0.01)。多裂筋横断面積を体重で除した値(以下,体重比)および身長で除した値(以下,身長比)では,男女間に有意差は認められなかった。
横断面積は身長,体重と有意な中等度の相関を認めた。また,横断面積とBMIでは有意な弱い相関を認めた。重回帰分析(ステップワイズ法)では,体重のみが採択された。
【考察】
健常成人の男女を対象に多裂筋横断面積を測定した結果,男女間において多裂筋の横断面積に有意差を認めた。しかし,体重または身長因子を除外することで,男女間の有意差はなくなった。また,多裂筋横断面積は身長および体重に有意な相関がみられた。筋断面積を性別で比較する場合,従来,身長や体重を体格の代表値とし,筋断面積をそれらで除して比較されている。しかし,多裂筋横断面積を従属変数として体格因子を独立変数としてステップワイズ重回帰分析を行った結果,採択された変数は体重であり,体重は多裂筋横断面積と関連の強い因子であるといえる。横断面積を用いる場合,体格による影響を考慮する必要があるが,体重と横断面積が高い相関を認めたことから,体重比を用いることで,体格による個人差を除外できるのではないかと考える。
【理学療法学研究としての意義】
評価基準として超音波画像診断装置を用い横断面積を測定する場合には,測定値を体重で補正することで性差による影響を減少させることが示唆された。さらに,多裂筋横断面積体重比は,男女の統一した基準として臨床応用することが可能であると示唆された。
厚生労働省の国民生活基礎調査によると,腰痛の有訴者率は高く10年連続で第1位もしくは第2位を独占しており,腰痛の治療および予防方法の確立が必要不可欠であるといえる。
近年では,体幹深層筋の機能不全が腰痛発症に関与しており,このうち深部に位置する多裂筋は姿勢保持や腰椎のコントロール,さらに障害予防に重要であると報告されている。Hide(1996)やMayerら(1989)は腰痛症患者における多裂筋の構造的変化について有意な萎縮,脂肪組織への置換を報告し,腰痛症患者の多裂筋の筋量および筋活動量の低下,多関節筋の代償的な筋活動が明らかにされつつある。
多裂筋の評価方法には,非侵襲的な方法として超音波画像診断装置を用いた研究が行われている。一般に,ヒトの筋断面積は身長や体重などの体格が影響する。体格を考慮した場合,下肢の筋断面積は男女の差異が小さくなるのに対して,上肢の筋断面積は体格を考慮しても男女差が残るとされている。しかし,体幹にある多裂筋に関して体格を考慮したうえで性差を検討している報告はない。そこで,本研究では超音波画像診断装置を用いて健常成人の多裂筋横断面積を測定し,性差に影響を及ぼす因子を明らかにする。さらに,多裂筋横断面積の性差を補正する方法を検討する。
【方法】
対象は腰痛症状を呈していない健常成人63名(男性30名,女性33名)とした。身体組成として,身長,体重,Body Mass Index(以下,BMI)を測定した。多裂筋横断面積の計測には超音波画像診断装置(ALOKA社製SSD-650CL),3.5MHzリニア式プローブ,Bモードを使用し,その操作に慣れた1名を検者とした。測定肢位は腹臥位にて腰椎前後弯中間位とした。測定部位は,第5腰椎棘突起より2cm外側でプローブは脊柱と垂直に設置し,短軸撮影にて右多裂筋横断面積を測定した。測定中は,通常呼吸を行うよう指示し,測定は安静呼気時の多裂筋横断面積を2回測定し,その平均を代表値とした。
統計解析には,男女間の比較には対応のないt検定を用いた。多裂筋横断面積と体格(身長,体重,BMI)の関係を明らかにするためにSpearmanの順位相関係数を用いた。さらに,多裂筋横断面積を従属変数とし,身長,体重,BMIを独立変数とした重回帰分析(ステップワイズ法)を行った。なお,解析にはSPSS17.0を用い,有意水準は両側5%とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究はヘルシンキ宣言に沿ったものであり,対象者には事前に研究の目的と内容を説明し,研究同意の撤回が常に可能であることを伝えたうえで,紙面による了承を得た。
【結果】
体格の指標である身長と体重には有意な性差を認め,いずれも男性の値が女性を上回っていた(p<0.05)。多裂筋横断面積においても,男性が女性より有意に高い値を示した(p<0.01)。多裂筋横断面積を体重で除した値(以下,体重比)および身長で除した値(以下,身長比)では,男女間に有意差は認められなかった。
横断面積は身長,体重と有意な中等度の相関を認めた。また,横断面積とBMIでは有意な弱い相関を認めた。重回帰分析(ステップワイズ法)では,体重のみが採択された。
【考察】
健常成人の男女を対象に多裂筋横断面積を測定した結果,男女間において多裂筋の横断面積に有意差を認めた。しかし,体重または身長因子を除外することで,男女間の有意差はなくなった。また,多裂筋横断面積は身長および体重に有意な相関がみられた。筋断面積を性別で比較する場合,従来,身長や体重を体格の代表値とし,筋断面積をそれらで除して比較されている。しかし,多裂筋横断面積を従属変数として体格因子を独立変数としてステップワイズ重回帰分析を行った結果,採択された変数は体重であり,体重は多裂筋横断面積と関連の強い因子であるといえる。横断面積を用いる場合,体格による影響を考慮する必要があるが,体重と横断面積が高い相関を認めたことから,体重比を用いることで,体格による個人差を除外できるのではないかと考える。
【理学療法学研究としての意義】
評価基準として超音波画像診断装置を用い横断面積を測定する場合には,測定値を体重で補正することで性差による影響を減少させることが示唆された。さらに,多裂筋横断面積体重比は,男女の統一した基準として臨床応用することが可能であると示唆された。