[0984] アクティグラフを用いた腸蠕動音の客観的評価の試み
Keywords:腸蠕動, 妥当性, 音センサー
【はじめに,目的】
理学療法では,便秘の症状を有しているケースが対象となることはよく経験する。腹痛や満腹感等の臨床上問題となる場合投薬が行われる事も多い。一方で運動療法としては腹部周囲の筋活動が重要とされているが,それが果たして腸の蠕動運動を改善しているのか科学的な検証はほとんどされていない。そこで理学療法が腸の蠕動運動そのものにどのような影響を与えるかを明らかにするために,ピエゾ素子を利用した音センサーを用いて腸の蠕動運動の客観的評価を行なう事を考案した。今回はこの音センサーが腸の蠕動運動の指標となるか確認する基礎実験を行なった。なお本研究は平成25年度研究費助成事業による支援を受けて行っている研究成果の一部である。
【方法】
健常成人10名を対象とし,米国AMI社製マイクロミニ音型アクティグラフを用いた。本機器はピエゾ素子を内蔵した小型音センサーであり,本体周囲の局所的な振動を敏感に検知する機能を有している。腸蠕動を測定するにあたり,心音と呼吸音が身体から発生する音源として腸の蠕動音に最も影響を与えると考えられる。そこで同一被験者において①心音②呼吸音③腸蠕動音を同時に測定した。測定部位は心音を左第2肋骨と胸骨境界部,呼吸音を右胸郭側面第5・6肋骨部,腸音を臍の左下部とした。センサー部を両面テープで皮膚に直接貼り付け,防音用のスポンジ材で覆い,テーピングテープで固定した。測定はギャッジアップ45程度の安静臥位とし,測定中は会話や体動を禁止し,外部からの音の影響しないように密室で測定した。同時に室内の騒音を騒音計DT8852で観察し,音が生じたら記録が残るようにした。呼吸は自然呼吸とし,測定前1時間は運動をしないようにした。測定時間は30分間とし,測定開始後と測定終了前の5分を除外することで,準備に関わる騒音を排除した。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は所属大学の倫理審査委員会の承認を得,被験者には実験前に研究の目的,方法,危険性,参加は任意であることを十分に説明したあと,同意を得て行った。
【結果】
測定結果を心音,呼吸音,腸蠕動音の3群間で対応のある分散分析を行ったところ有意差が確認された(P<0.05)。さらに多重比較を行ったところ全ての群間で有意差が見られ,腸蠕動音の測定には心音も呼吸音も影響していないことが確認できた。さらにグラフからそれぞれの特徴を見ると,心音は身体から発する音としては非常に大きく,概ね一定のリズムで検出された。呼吸音はセンサーで検知される場合とされない場合があり個人差が顕著であった。いずれも標準偏差の値は小さくばらつきが少なかった。一方腸音は心音とも呼吸音とも全く異なるパターンで,40~90dbの範囲で不規則に検出された。標準偏差も他に比べて大きかった。室内騒音計の結果から大きな音は検出されなかった。
【考察】
身体から発する音の測定にあたっては,センサー表面を腹部に密着させ,同時にスポンジ素材で覆うことでより鋭敏に音を検出できる可能性が高いと思われる。心音は絶えず大きな音が検知され続け,ばらつきも少なく鼓動音を検知したと考えられる。しかし,本センサーは結果を1分単位で出力する特性上心電図のような詳細なパターンは判定できなかった。心音に関しては,臨床上有益な所見は期待できないといえる。呼吸音は本来一定のパターンで検知されるはずであるが,被験者間の個体差が見られた。深呼吸のようにある程度随意的に強弱を調整できるので,無意識では多少のばらつきはむしろ妥当であると言える。また,数名は40db以下でセンサーに検知されなかった。聴診器での経験でも頷けるが,呼吸音の大きさには個体差が顕著に見られるものと思われる。個体差に影響する因子があるかなど,興味深いところである。腸音の結果は心音や呼吸音とは明らかに異なるパターンを示し,不規則で大きさもばらつく事が分かった。日頃経験的にも分かるが,腸の蠕動は間歇的であるし,小さい音は本人でも気づかない。一方で大きい音は聴診器無しで他者に聞こえる場合もある。今回の結果はこのような腸蠕動音の特性を示しているものと考えられる。以上の結果からマイクロミニ音型アクティグラフを使って,腸管周辺の音を評価することで腸蠕動運動を間接的に評価していると考えられ,このセンサーの機能特性が腸蠕動音の測定に適していることが分かった。
【理学療法学研究としての意義】
本研究によりマイクロミニ音型アクティグラフが腸蠕動運動の客観的評価機器として実用的であることが確認できた。今後はこの評価方法を使って,排便に支障の有る例と無い例の比較や,CASと腸蠕動運動との相関,腸蠕動運動の改善に効果的な介入方法の検討などを行うことが出来るようになった。
理学療法では,便秘の症状を有しているケースが対象となることはよく経験する。腹痛や満腹感等の臨床上問題となる場合投薬が行われる事も多い。一方で運動療法としては腹部周囲の筋活動が重要とされているが,それが果たして腸の蠕動運動を改善しているのか科学的な検証はほとんどされていない。そこで理学療法が腸の蠕動運動そのものにどのような影響を与えるかを明らかにするために,ピエゾ素子を利用した音センサーを用いて腸の蠕動運動の客観的評価を行なう事を考案した。今回はこの音センサーが腸の蠕動運動の指標となるか確認する基礎実験を行なった。なお本研究は平成25年度研究費助成事業による支援を受けて行っている研究成果の一部である。
【方法】
健常成人10名を対象とし,米国AMI社製マイクロミニ音型アクティグラフを用いた。本機器はピエゾ素子を内蔵した小型音センサーであり,本体周囲の局所的な振動を敏感に検知する機能を有している。腸蠕動を測定するにあたり,心音と呼吸音が身体から発生する音源として腸の蠕動音に最も影響を与えると考えられる。そこで同一被験者において①心音②呼吸音③腸蠕動音を同時に測定した。測定部位は心音を左第2肋骨と胸骨境界部,呼吸音を右胸郭側面第5・6肋骨部,腸音を臍の左下部とした。センサー部を両面テープで皮膚に直接貼り付け,防音用のスポンジ材で覆い,テーピングテープで固定した。測定はギャッジアップ45程度の安静臥位とし,測定中は会話や体動を禁止し,外部からの音の影響しないように密室で測定した。同時に室内の騒音を騒音計DT8852で観察し,音が生じたら記録が残るようにした。呼吸は自然呼吸とし,測定前1時間は運動をしないようにした。測定時間は30分間とし,測定開始後と測定終了前の5分を除外することで,準備に関わる騒音を排除した。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は所属大学の倫理審査委員会の承認を得,被験者には実験前に研究の目的,方法,危険性,参加は任意であることを十分に説明したあと,同意を得て行った。
【結果】
測定結果を心音,呼吸音,腸蠕動音の3群間で対応のある分散分析を行ったところ有意差が確認された(P<0.05)。さらに多重比較を行ったところ全ての群間で有意差が見られ,腸蠕動音の測定には心音も呼吸音も影響していないことが確認できた。さらにグラフからそれぞれの特徴を見ると,心音は身体から発する音としては非常に大きく,概ね一定のリズムで検出された。呼吸音はセンサーで検知される場合とされない場合があり個人差が顕著であった。いずれも標準偏差の値は小さくばらつきが少なかった。一方腸音は心音とも呼吸音とも全く異なるパターンで,40~90dbの範囲で不規則に検出された。標準偏差も他に比べて大きかった。室内騒音計の結果から大きな音は検出されなかった。
【考察】
身体から発する音の測定にあたっては,センサー表面を腹部に密着させ,同時にスポンジ素材で覆うことでより鋭敏に音を検出できる可能性が高いと思われる。心音は絶えず大きな音が検知され続け,ばらつきも少なく鼓動音を検知したと考えられる。しかし,本センサーは結果を1分単位で出力する特性上心電図のような詳細なパターンは判定できなかった。心音に関しては,臨床上有益な所見は期待できないといえる。呼吸音は本来一定のパターンで検知されるはずであるが,被験者間の個体差が見られた。深呼吸のようにある程度随意的に強弱を調整できるので,無意識では多少のばらつきはむしろ妥当であると言える。また,数名は40db以下でセンサーに検知されなかった。聴診器での経験でも頷けるが,呼吸音の大きさには個体差が顕著に見られるものと思われる。個体差に影響する因子があるかなど,興味深いところである。腸音の結果は心音や呼吸音とは明らかに異なるパターンを示し,不規則で大きさもばらつく事が分かった。日頃経験的にも分かるが,腸の蠕動は間歇的であるし,小さい音は本人でも気づかない。一方で大きい音は聴診器無しで他者に聞こえる場合もある。今回の結果はこのような腸蠕動音の特性を示しているものと考えられる。以上の結果からマイクロミニ音型アクティグラフを使って,腸管周辺の音を評価することで腸蠕動運動を間接的に評価していると考えられ,このセンサーの機能特性が腸蠕動音の測定に適していることが分かった。
【理学療法学研究としての意義】
本研究によりマイクロミニ音型アクティグラフが腸蠕動運動の客観的評価機器として実用的であることが確認できた。今後はこの評価方法を使って,排便に支障の有る例と無い例の比較や,CASと腸蠕動運動との相関,腸蠕動運動の改善に効果的な介入方法の検討などを行うことが出来るようになった。