[0988] 罹病期間の短い現役有職者を対象にした糖尿病教室において,終了1年後までの定期的郵送アンケートの効果について
キーワード:2型糖尿病, 患者教育, アンケート
【はじめに】
療養行動の獲得にはライフスタイルの変更が必要である。合併症予防の観点からできるだけ早期の教育と行動変容が望まれるが,自由な時間が少ない有職者で,また,合併症の自覚症状が少ない段階でのライフスタイル変更は非常に困難とされている。現在,教育入院の効果として,教育前後での自己効力感(Self-efficacy以下SE)の向上より自己管理能力・良好な血糖コントロール獲得の報告は多数みられる。しかし,ライフスタイル変更に対し障害が多い現役世代を対象とした報告は少なく,さらに,教育後の効果継続の手段について限定して述べた報告はほとんど見当たらない。当院では,有識者で入院の時間が取れない人,また,罹病期間も比較的短く合併症も少ない人を対象にした1ヶ月の自宅実践を挟んだ2回の1泊2日入院の糖尿病教室(以下教室)を実施している。我々は,教室後の運動療法継続と血糖コントロール維持を目的に,終了3・6・12・18.・24・30・36ヶ月後にアンケートを郵送している。アンケートの内容は教室後何か月目になるかのお知らせと自由記入(何でも書いて下さい)欄,そして,運動の現状把握とその他調査項目になっている。調査項目は運動習慣への行動変化stage(以下stage)・SE(運動SE:野村らの方法)・1週間当たり1回20分以上継続する運動の種類と頻度(以下運動頻度)・HbA1c(JDS値)とした。また,参加者には教室終了時に今後アンケートを通して支援を継続していくことを伝えておいた。今回,教室終了1年後までのアンケートの回収率と,そのデータより,教室終了後のアンケートによる運動療法継続・血糖コントロール維持効果について検討した。
【対象と方法】
対象は,2009年4月から2012年9月に教室に参加した2型糖尿病患者73名(平均年齢53.19±9.14歳,男性53名,女性20名,罹病期間4.46±4.64年)を対象に,教室終了3・6・12ヶ月後のアンケートの手紙の回収率を検討した。さらに,これよりデータのとれた40名(平均年齢56.7±8.25歳,男性29名,女性11名,罹病期間平均4±4.41年)を対象に,教室参加前(SEは教室終了直後)と3・6・12ヶ月後各時期の差について,stage・SE・運動頻度はWilcoxon符号付順位和検定を用いて,HbA1cは対応のあるt検定を用いて比較検討した。いずれも統計処理にはJMP9.02(SAS)を用い有意水準は5%とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究はヘルシンキ宣言に沿って実施した。対象者には事前に研究の概要を十分説明し同意を得た。
【結果】
アンケートの手紙の回収率は,3ヶ月目23名(31.5%),6ヶ月目24名(32.8%),12ヶ月目13名(18.6%)であった。1年後までに1回以上回答があった人は40名(54.8%)であり,この回答があった40名中28名(70%)が,当院以外の非専門病院がかかりつけの患者であった(当院では教室参加のみ)。また,回答が得られた40名のstage・運動頻度は教室前と比較して,3・6・12ヶ月後いずれも有意(p<0.001)に上昇していた。SEは教室終了直後の値が3・6・12ヶ月後も維持されていた。HbA1cは教室前後で有意(p<0.001)改善した値が3.6.12ヶ月後まで維持されていた。さらに,自由記載欄には,運動が継続できた喜びの言葉と近況報告の他に,退院後も繋がりがあることへの感謝の言葉・療養生活そのものに対する様々な思いが記されてあった。
【考察】
一般的なアンケート調査の回収率は約13~18%程度との報告がある。今回,3・6・12の各月の回収率や1年後まで1回以上回答の回収率がどれも高かったこと,さらに,自由欄への患者自身の思いの記載内容,各調査項目の結果より,アンケートが教室体験の記憶再生のみならず,患者自身の頑張りを認めてもらいたい欲求を満たす場になり,その先の望ましい療養行動の継続(行動変容)のきっかけになっていたのではと考えられた。さらに,回答のあった人の内28名(70%)が,当院以外の非専門病院がかかりつけの患者(当院では教室参加のみ)であり,教育を受けた医療者や専門の医療機関とのつながりを保とうとする思いもあったのではと考えられた。今回,stage・SE・運動頻度・HbA1c全てにおいて,教室終了1年後まで保たれていた改善は,その一部に継続したアンケートの効果が示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
糖尿病治療の重要な柱の一つは患者教育であり,その中で理学療法士が運動の専門家としての立場より行う教育効果は患者にとって非常に高いものがあると考えられる。また,働き盛りの年代の合併症予防は医療費削減の意味からも重要な課題であり,本研究で得られた終了後の定期的アンケートの効果はその内容や方法の検討より,さらに高い効果を期待できる可能性があると考えられる。
療養行動の獲得にはライフスタイルの変更が必要である。合併症予防の観点からできるだけ早期の教育と行動変容が望まれるが,自由な時間が少ない有職者で,また,合併症の自覚症状が少ない段階でのライフスタイル変更は非常に困難とされている。現在,教育入院の効果として,教育前後での自己効力感(Self-efficacy以下SE)の向上より自己管理能力・良好な血糖コントロール獲得の報告は多数みられる。しかし,ライフスタイル変更に対し障害が多い現役世代を対象とした報告は少なく,さらに,教育後の効果継続の手段について限定して述べた報告はほとんど見当たらない。当院では,有識者で入院の時間が取れない人,また,罹病期間も比較的短く合併症も少ない人を対象にした1ヶ月の自宅実践を挟んだ2回の1泊2日入院の糖尿病教室(以下教室)を実施している。我々は,教室後の運動療法継続と血糖コントロール維持を目的に,終了3・6・12・18.・24・30・36ヶ月後にアンケートを郵送している。アンケートの内容は教室後何か月目になるかのお知らせと自由記入(何でも書いて下さい)欄,そして,運動の現状把握とその他調査項目になっている。調査項目は運動習慣への行動変化stage(以下stage)・SE(運動SE:野村らの方法)・1週間当たり1回20分以上継続する運動の種類と頻度(以下運動頻度)・HbA1c(JDS値)とした。また,参加者には教室終了時に今後アンケートを通して支援を継続していくことを伝えておいた。今回,教室終了1年後までのアンケートの回収率と,そのデータより,教室終了後のアンケートによる運動療法継続・血糖コントロール維持効果について検討した。
【対象と方法】
対象は,2009年4月から2012年9月に教室に参加した2型糖尿病患者73名(平均年齢53.19±9.14歳,男性53名,女性20名,罹病期間4.46±4.64年)を対象に,教室終了3・6・12ヶ月後のアンケートの手紙の回収率を検討した。さらに,これよりデータのとれた40名(平均年齢56.7±8.25歳,男性29名,女性11名,罹病期間平均4±4.41年)を対象に,教室参加前(SEは教室終了直後)と3・6・12ヶ月後各時期の差について,stage・SE・運動頻度はWilcoxon符号付順位和検定を用いて,HbA1cは対応のあるt検定を用いて比較検討した。いずれも統計処理にはJMP9.02(SAS)を用い有意水準は5%とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究はヘルシンキ宣言に沿って実施した。対象者には事前に研究の概要を十分説明し同意を得た。
【結果】
アンケートの手紙の回収率は,3ヶ月目23名(31.5%),6ヶ月目24名(32.8%),12ヶ月目13名(18.6%)であった。1年後までに1回以上回答があった人は40名(54.8%)であり,この回答があった40名中28名(70%)が,当院以外の非専門病院がかかりつけの患者であった(当院では教室参加のみ)。また,回答が得られた40名のstage・運動頻度は教室前と比較して,3・6・12ヶ月後いずれも有意(p<0.001)に上昇していた。SEは教室終了直後の値が3・6・12ヶ月後も維持されていた。HbA1cは教室前後で有意(p<0.001)改善した値が3.6.12ヶ月後まで維持されていた。さらに,自由記載欄には,運動が継続できた喜びの言葉と近況報告の他に,退院後も繋がりがあることへの感謝の言葉・療養生活そのものに対する様々な思いが記されてあった。
【考察】
一般的なアンケート調査の回収率は約13~18%程度との報告がある。今回,3・6・12の各月の回収率や1年後まで1回以上回答の回収率がどれも高かったこと,さらに,自由欄への患者自身の思いの記載内容,各調査項目の結果より,アンケートが教室体験の記憶再生のみならず,患者自身の頑張りを認めてもらいたい欲求を満たす場になり,その先の望ましい療養行動の継続(行動変容)のきっかけになっていたのではと考えられた。さらに,回答のあった人の内28名(70%)が,当院以外の非専門病院がかかりつけの患者(当院では教室参加のみ)であり,教育を受けた医療者や専門の医療機関とのつながりを保とうとする思いもあったのではと考えられた。今回,stage・SE・運動頻度・HbA1c全てにおいて,教室終了1年後まで保たれていた改善は,その一部に継続したアンケートの効果が示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
糖尿病治療の重要な柱の一つは患者教育であり,その中で理学療法士が運動の専門家としての立場より行う教育効果は患者にとって非常に高いものがあると考えられる。また,働き盛りの年代の合併症予防は医療費削減の意味からも重要な課題であり,本研究で得られた終了後の定期的アンケートの効果はその内容や方法の検討より,さらに高い効果を期待できる可能性があると考えられる。