第49回日本理学療法学術大会

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発表演題 口述 » 内部障害理学療法 口述

代謝2

Sat. May 31, 2014 1:55 PM - 2:45 PM 第5会場 (3F 303)

座長:平木幸治(聖マリアンナ医科大学病院リハビリテーション部), 忽那俊樹(北里大学東病院リハビリテーション部)

内部障害 口述

[0989] 血液透析患者の栄養障害リスクを予測するための身体機能評価指標の解明

河野健一1,5, 森山善文2, 矢部広樹3, 田岡正宏4, 佐藤隆4, 西田裕介5 (1.愛知医療学院短期大学リハビリテーション学科理学療法学専攻, 2.医療法人偕行会ウェルネスセンター, 3.医療法人偕行会名古屋共立病院, 4.医療法人偕行会名港共立クリニック, 5.聖隷クリストファー大学大学院リハビリテーション科学研究科)

Keywords:血液透析, 栄養障害, 機能評価

【はじめに,目的】血液透析(hemodialysis:HD)患者では,蛋白エネルギー消耗状態(protein energy wasting:PEW)にあり栄養障害が問題視されている(Fahal IH et al.2013)。PEWでは,タンパク質を中心としたエネルギー摂取の不足とともに,筋蛋白異化の亢進や筋蛋白合成障害が関与する(Correro JJ et al. 2013)とされており,栄養障害と骨格筋の機能異常による身体機能低下には強い関連があると仮説がたてられる。そこで本研究は,HD患者の栄養障害リスクを予測するための身体機能に関する評価指標を明らかにすることを目的とする。
【方法】外来通院中の維持期HD患者122例を対象とし,歩行が自立していない者はあらかじめ対象から除外した。栄養障害リスクは,Geriatric Nutritional Risk Index(GNRI)にて評価し,GNRI91以下を栄養障害リスク群,92以上をリスクなし群と定義した(Bouillanne et al. 2005)。栄養障害リスクを予測するための身体機能指標として,握力,歩行速度,Short Physical Performance Battery(SPPB),除脂肪体重を測定した。また,患者背景因子として,年齢,性別,HD期間,合併症(糖尿病,虚血性心疾患,脳血管疾患),腎性貧血(ヘモグロビン,総鉄結合能)を調査した。2群間での比較は対応のないt検定とχ2検定を用いた。そして,栄養障害リスクの有無を目的変数,身体機能指標を説明変数としたロジスティック回帰分析とReceiver Operating Characteristic curve(ROC曲線)から,栄養障害リスクと関連する身体機能指標とそのカットオフ値を算出した。統計学的解析はSPSS16.0J for windows使用し,危険率5%未満を有意水準とした。
【倫理的配慮,説明と同意】本研究はヘルシンキ宣言に準拠し,医療法人偕行会の臨床研究倫理審査委員会の承認を受けて実施した。
【結果】対象の122例は,栄養障害リスク群18例,リスクなし群104例に分類された。栄養障害リスク群は年齢,男性の割合,糖尿病患者の割合がリスクなし群よりも有意に高く,さらに握力が有意に低下していた。握力は,ロジスティック回帰分析において,年齢,性別,糖尿病の有無で調整した状態において,栄養障害リスクを予測するための独立した身体機能指標として抽出された。また,ROC曲線より求めた握力のカットオフ値は男性25.25kg,女性16.5kgであった。握力以外の身体機能指標は栄養障害リスクと関連が認められなかった。
【考察】握力がHD患者の栄養障害リスクを予測する指標として有用であることが明らかとなった。栄養障害を伴う骨格筋機能異常と身体機能低下は,サルコペニアとして近年数多く報告されている。サルコペニアの診断基準(Cruz-Jentoft AJ. European Working Group on Sarcopenia in Older People. 2010)にも握力は含まれており,カットオフ値は男性30kg,女性20kgとされ,本研究の結果よりも高値である。これは,HD患者では,蛋白質の透析液への喪失,慢性炎症状態,そして代謝性アシドーシスといった疾患特異的な問題に加え,身体活動量の低下や廃用症候群といった力学的問題による筋力低下が重度であるためと推察され,栄養障害にも影響を及ぼしていると考えられる。GNRIなど通常の栄養評価に加えて,握力測定を定期的に実施し,骨格筋機能の側面から栄養障害をスクリーニングしていくことが身体機能を保つ上でも重要と考えられる。
【理学療法学研究としての意義】握力から栄養障害リスクを予測できるという本研究の成果は,理学療法士がHD患者の栄養状態の評価や治療に積極的に関わるべきという根拠になるとともに,今後の取り組みに向けた一指針となりうる意義深い研究である。