[0997] 人工股関節置換術後の身体活動量と運動機能との関連性
キーワード:人工股関節置換術, 身体活動量, 運動機能
【はじめに,目的】
人工股関節置換術(THA)は,疼痛や歩行能力を改善し身体活動量を増大させ,より質の高い生活を送るために施行される。しかし一方では,THA後患者の60%以上が脱臼予防などのために歩行や家事動作を自ら制限し,約半数が健康のために推奨されている身体活動量に満たないと報告されている。THA後の身体活動量は,運動機能の影響を受けることが予測されるが,術後早期から運動機能と身体活動量の関連性を検討した報告はない。術後時期により身体活動量に影響する運動機能が異なる可能性があり,それによって我々が考慮すべき点が変わる可能性がある。そこで,本研究の目的をTHA後患者の身体活動量の推移と各時期の関連因子を検討することとした。
【方法】
対象は当院にて人工股関節置換術を施行された患者23名(年齢63.4±7.1歳,Body mass index 23.1±3.3kg/m2,女性22名,男性1名)とした。評価時期を術前,術後1ヶ月,3ヶ月とし,身体活動量の評価にはLife Space Assessment(LSA)を用いた。身体機能評価として,関節可動域,股関節外転筋力,膝関節伸展筋力,10m歩行時間,歩行時痛,Timed Up & Go Test(TUG),Harris Hip Score(HHS)を用い,患者立脚型評価として,日本整形外科学会股関節疾患評価質問表(JHEQ)を用いた。統計学的解析には,LSAの時期による比較は一元配置分散分析およびBonferroniの多重比較検定を用いた。また,各時期のLSAと身体機能およびJHEQの関連性の検討にはPearsonの相関係数およびSpearmanの順位相関係数を用いた。有意水準は5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
被験者には本研究の十分な説明を口頭および文書にて行い,書面にて同意を得た。
【結果】
術後1ヶ月のLSA(平均54.7±20.2点)は術前(79.3±24.9点),術後3ヶ月(85.9±20.6点)に比べ有意に低値を示した。なお,術前と術後3ヶ月には有意な差は認めなかった。各時期のLSAと各評価項目の相関係数に関しては,術前および術後1か月のLSAと各評価項目に有意な相関関係は認めなかった。術後3ヶ月のLSAは,非術側膝関節伸展筋力(r=0.47,p<0.05),10m歩行時間(r=-0.434,p<0.05),TUG(r=-0.53,p<0.01),HHS(r=0.46,p<0.05)と有意な相関関係を認めた。なお,術側膝関節伸展筋力(r=0.51,p<0.05)および非術側膝伸展筋力(r=-0.59,p<0.01)とTUGの間にも有意な相関関係を認めた。
【考察】
本研究より,術後1ヶ月のLSAは術前や術後3ヶ月に比べ有意に低値を示し,術後3ヶ月で術前とほぼ同程度まで改善した結果となった。藤田は,THA後6週頃までの生活活動は脱臼予防や歩容の悪さなどにより制限されると述べており,本研究においてLSAが有意に低下した術後1ヶ月時点においても,患者自らが活動を制限している可能性が考えられる。LSAと各評価項目との相関関係に関しては,術前および術後1ヶ月のLSAと各評価項目には有意な相関関係を認めなかった。術前の身体活動量には就労状況が影響していると報告されており,本研究においても身体活動量が就労状況や家庭環境などの身体機能以外の要素により影響を受けた可能性が考えられる。術後3ヶ月のLSAはTUG,10m歩行時間,HHS,非術側膝関節伸展筋力と有意な相関関係を示した。TUGは総合的な歩行バランスの指標であり,高齢者において外出頻度との関連性が報告されている。そのため,THA後患者においても身体活動量とTUGに有意な相関関係を認めたと考える。また,術後3ヶ月の術側および非術側膝関節伸展筋力ともTUGと有意な相関関係を示したが,非術側膝関節伸展筋力のみがLSAと有意な相関関係を示した。THA後は術側膝関節伸展筋力の回復が遅延し,非術側に依存した歩行となる。先行研究において歩行能力とLSAの関連性が報告されており,非術側膝関節伸展筋力は歩行能力に影響を与えるため,結果的にLSAと相関関係を認めたと考える。また,HHSには疼痛や関節可動域などの身体機能のみならず階段昇降,連続歩行距離,公共交通機関の利用などの項目も含まれており,TUGに反映されるような基本的な移動能力だけでなく,公共交通機関の利用などの応用的な日常生活動作能力も術後3ヶ月のLSAに関連すると考えられる。
【理学療法学研究としての意義】
本研究はTHA後3ヶ月の身体活動量に必要とされる身体機能として10m歩行時間やTUGのみならず,非術側膝関節伸展筋力や応用的な日常生活動作能力にも着目する必要があることを示唆した意義ある研究である。
人工股関節置換術(THA)は,疼痛や歩行能力を改善し身体活動量を増大させ,より質の高い生活を送るために施行される。しかし一方では,THA後患者の60%以上が脱臼予防などのために歩行や家事動作を自ら制限し,約半数が健康のために推奨されている身体活動量に満たないと報告されている。THA後の身体活動量は,運動機能の影響を受けることが予測されるが,術後早期から運動機能と身体活動量の関連性を検討した報告はない。術後時期により身体活動量に影響する運動機能が異なる可能性があり,それによって我々が考慮すべき点が変わる可能性がある。そこで,本研究の目的をTHA後患者の身体活動量の推移と各時期の関連因子を検討することとした。
【方法】
対象は当院にて人工股関節置換術を施行された患者23名(年齢63.4±7.1歳,Body mass index 23.1±3.3kg/m2,女性22名,男性1名)とした。評価時期を術前,術後1ヶ月,3ヶ月とし,身体活動量の評価にはLife Space Assessment(LSA)を用いた。身体機能評価として,関節可動域,股関節外転筋力,膝関節伸展筋力,10m歩行時間,歩行時痛,Timed Up & Go Test(TUG),Harris Hip Score(HHS)を用い,患者立脚型評価として,日本整形外科学会股関節疾患評価質問表(JHEQ)を用いた。統計学的解析には,LSAの時期による比較は一元配置分散分析およびBonferroniの多重比較検定を用いた。また,各時期のLSAと身体機能およびJHEQの関連性の検討にはPearsonの相関係数およびSpearmanの順位相関係数を用いた。有意水準は5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
被験者には本研究の十分な説明を口頭および文書にて行い,書面にて同意を得た。
【結果】
術後1ヶ月のLSA(平均54.7±20.2点)は術前(79.3±24.9点),術後3ヶ月(85.9±20.6点)に比べ有意に低値を示した。なお,術前と術後3ヶ月には有意な差は認めなかった。各時期のLSAと各評価項目の相関係数に関しては,術前および術後1か月のLSAと各評価項目に有意な相関関係は認めなかった。術後3ヶ月のLSAは,非術側膝関節伸展筋力(r=0.47,p<0.05),10m歩行時間(r=-0.434,p<0.05),TUG(r=-0.53,p<0.01),HHS(r=0.46,p<0.05)と有意な相関関係を認めた。なお,術側膝関節伸展筋力(r=0.51,p<0.05)および非術側膝伸展筋力(r=-0.59,p<0.01)とTUGの間にも有意な相関関係を認めた。
【考察】
本研究より,術後1ヶ月のLSAは術前や術後3ヶ月に比べ有意に低値を示し,術後3ヶ月で術前とほぼ同程度まで改善した結果となった。藤田は,THA後6週頃までの生活活動は脱臼予防や歩容の悪さなどにより制限されると述べており,本研究においてLSAが有意に低下した術後1ヶ月時点においても,患者自らが活動を制限している可能性が考えられる。LSAと各評価項目との相関関係に関しては,術前および術後1ヶ月のLSAと各評価項目には有意な相関関係を認めなかった。術前の身体活動量には就労状況が影響していると報告されており,本研究においても身体活動量が就労状況や家庭環境などの身体機能以外の要素により影響を受けた可能性が考えられる。術後3ヶ月のLSAはTUG,10m歩行時間,HHS,非術側膝関節伸展筋力と有意な相関関係を示した。TUGは総合的な歩行バランスの指標であり,高齢者において外出頻度との関連性が報告されている。そのため,THA後患者においても身体活動量とTUGに有意な相関関係を認めたと考える。また,術後3ヶ月の術側および非術側膝関節伸展筋力ともTUGと有意な相関関係を示したが,非術側膝関節伸展筋力のみがLSAと有意な相関関係を示した。THA後は術側膝関節伸展筋力の回復が遅延し,非術側に依存した歩行となる。先行研究において歩行能力とLSAの関連性が報告されており,非術側膝関節伸展筋力は歩行能力に影響を与えるため,結果的にLSAと相関関係を認めたと考える。また,HHSには疼痛や関節可動域などの身体機能のみならず階段昇降,連続歩行距離,公共交通機関の利用などの項目も含まれており,TUGに反映されるような基本的な移動能力だけでなく,公共交通機関の利用などの応用的な日常生活動作能力も術後3ヶ月のLSAに関連すると考えられる。
【理学療法学研究としての意義】
本研究はTHA後3ヶ月の身体活動量に必要とされる身体機能として10m歩行時間やTUGのみならず,非術側膝関節伸展筋力や応用的な日常生活動作能力にも着目する必要があることを示唆した意義ある研究である。