第49回日本理学療法学術大会

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発表演題 口述 » 運動器理学療法 口述

骨・関節8

Sat. May 31, 2014 1:55 PM - 2:45 PM 第11会場 (5F 501)

座長:建内宏重(京都大学大学院医学研究科人間健康科学系専攻)

運動器 口述

[0999] 当院における人工股関節全置換術(THA)術後3週プログラムの運用に際しての課題

溝口靖亮1, 浦川宰1, 小澤亜紀子1, 山副孝文1, 名嘉寛之1, 田村恵利奈1, 松本幸大1, 三浦早織1, 備康平1, 金潤澤2, 田中伸哉2, 間嶋滿1 (1.埼玉医科大学病院リハビリテーション科, 2.埼玉医科大学病院整形外科)

Keywords:人工股関節全置換術, 入院期間, 下肢機能

【目的】
近年,診断群分類包括評価の導入により急性期病院での入院期間は短縮の傾向にある。それに伴い,当院でもTHA術後の理学療法プログラムを4週から3週に変更し対応している。本研究の目的は3週プログラムを適用し,期限内に退院できた群と退院できなかった群との術後入院期間や下肢機能・動作能力を比較し,3週プログラムの運用に際しての課題を検討することである。
【方法】
対象:2011年5月から2013年9月に変形性股関節症に対し片側初回THA(全例前側方侵入)を施行され,理学療法(PT)を実施した78例のうち,下記測定項目を評価でき自宅退院した44例44股を対象とした。
対象例を,3週プログラムを適用し,3週(21日)で退院した達成群,3週(21日)で退院できなかった非達成群の2群に分類した。
※除外基準:RA,ION,THA再置換例,重篤な合併症を有した例を除外した。
※3週プログラムの内容:ドレーン抜去後から全荷重許可あり,この時点から術後PTが開始される。その後可及的に杖歩行を開始し,応用歩行動作(階段昇降・屋外歩行)・ADL動作練習を行い,術後3週(21日)で自宅退院としている。
検討項目:
1)3週プログラムの達成率を調査した。
2-1)基本的項目として,性別,年齢,BMI,術側・非術側病期,他関節疾患の有無,術後合併症の有無,術前の術側・非術側JOA Hip scoreを調査し,2群間で比較した。
2-2)測定項目として,安静時・歩行時術側股関節疼痛,術側・非術側の股関節屈曲・伸展・外転ROM,股関節屈曲・外転,膝関節伸展の等尺性筋力,片脚立位時間,TUG,10m歩行時間を退院時に測定し,2群間で比較した。
2-3)術後入院期間を構成する要素として,①術後から杖歩行獲得までの期間,②杖歩行獲得から階段昇降動作獲得までの期間,③階段昇降動作獲得から屋外歩行獲得までの期間,④屋外歩行獲得から退院までの期間を調査し,各期間の日数を2群間で比較した。
なお,統計学的検討には,χ2-test,Mann-Whitney,t-testを使用し,危険率5%未満を有意とした。
【説明と同意】
本研究の趣旨と目的を説明し,参加の同意を得られた患者を対象とした。
【結果】
1)3週プログラムの達成率:34.1%(達成群15例,非達成群29例)。
達成群と非達成群の比較(平均値;達成群/非達成群):
2-1)基本的項目は術後合併症の有無(有:0例/10例。p<0.05)において非達成群で合併症を有する症例が多い傾向であり,DVT9例,貧血1例であった。
2-2)測定項目は2群間で有意差を認めなかった。
2-3)術後入院期間を構成する要素については,術後から杖歩行獲得までの期間(12.5日/16.7日),屋外歩行から退院までの期間(2.4日/6.6日),術後入院期間(22.0日/29.7日)で有意差を認め,いずれも非達成群で日数を要していた。その他の期間で有意差を認めなかった。
「術後から杖歩行獲得までの期間遅延の要因」としては,DVTに対するヘパリン投与による杖歩行練習開始時期の遅延(6例:13.6%),動作に対する心理的な不安(2例;4.5%),動作手順の理解不足(2例;4.5%),他関節痛(2例;4.5%)による杖歩行動作獲得の遅延が挙げられた[患者要因]。
「屋外歩行から退院までの期間遅延の要因」としては,家族の受け入れ準備・退院時付き添い者の都合による退院遅延(11例;25.0%),医師の退院指示の遅延(4例;9.1%)が挙げられた[社会的要因・医療者側の要因]。
【考察】
本研究の結果,非達成群において長い術後入院期間を要したものの,退院時下肢機能・動作能力については達成群と同等であったことが明らかとなった。術後入院期間遅延の原因は術後から杖歩行獲得までの期間と屋外歩行獲得から退院までの期間に長い日数を要したことであった。前者に関しては今後,DVTによるヘパリン投与後から速やかに杖歩行練習へ移行できるよう運動療法を進める工夫が必要であり,心理的な不安や動作手順の理解不足に対しては杖歩行獲得に至るまでの手順を段階的に進めるような心理面への配慮や動作手順の理解力を高める工夫が必要である。後者に関しては今後,社会的要因に対しては患者家族にプログラムの説明を十分に行うこと,医療者側の要因に対してはPT・医師・看護師の連携を深め,プログラムの進行状況を報告する頻度を増やすなどの医療者間で情報を共有する工夫が必要である。今後,これらの課題に対応していくことで,結果として非達成群の術後入院期間の短縮につながるのではないかと考える。
【理学療法学研究としての意義】
3週プログラムを適用し,期限内に退院できた群と退院できなかった群の比較を行い,各群の術後入院期間や下肢機能・動作能力が明らかとなった。この結果は3週プログラムの運用に際しての課題を克服し,3週プログラムの達成率の向上ならびに非達成群における術後入院期間を短縮する一助となりえる。