[1000] 小・中学野球選手のためのOCD推定システムの開発
キーワード:スクリーニングテスト, 野球肘, 障害予防
【はじめに,目的】
成長期の野球選手において野球肘の有病率は高く予防すべき重要課題である。その中でも離断性骨軟骨炎(以下,OCD)は特に予後が悪く,症状が出現した時にはすでに病態が進行していることが多いため,早期発見することが重要である。OCDを早期発見するためにはエコーを用いた検診が有効であり,近年検診が行われる地域が増えている。しかし,現状では現場に出られる医師数には限界があり,エコー機器のコストも考慮すると,数十万人といわれる少年野球選手全体にエコー検診を普及させるのは難しい。もし,エコー検査の前段階に簡便に行えるスクリーニング検査があれば,無症候性のOCDを初期段階で効率的に見つけ出せる可能性が高まる。
本研究の目的は,問診・理学検査・投球フォームチェックを行うことによって,その選手のOCDの存在確率を推定し,二次検診が必要かどうかを判定できるスクリーニングシステム(以下OCD推定システム)を開発することである。
【方法】
調査集団は千葉県理学療法士会・スポーツ健康増進支援部主催の「投球障害予防教室」に参加した小中学生221名とした。この教室では問診・理学検査20項目・投球フォームチェック5項目の他に医師による両肘のエコー検査が行われた。OCDが疑われた選手は病院での二次検査に進み,そこでOCDか否かの確定診断がなされた。上記の記録をデータベース化し,OCDの確定診断がついた選手と有意に関連性のある因子を抽出した。
この抽出された因子をベイズ理論で解析することによって,これらの因子から選手一人一人のOCDの存在確率を推定するシステムを構築した。推定されたOCDの存在確率と実際のデータを照合し,分割表を用いてシステムの妥当性を評価した。
【倫理的配慮,説明と同意】
ヘルシンキ条約に基づき,事前に各チームの監督,保護者に対して検診の目的,内容について説明し同意を得た。また,「プライバシーの保護」「同意の自由」「参加の自由意志」を説明し,協力・同意を得られなかったとしても,不利益は生じないことを記載し当日文書にて配布した。
【結果】
221名中17名(7.7%)の選手が,エコー上で骨頭異常を認め二次検診を受けた。結果,4名(1.8%)の選手がOCDと確定診断された。
OCDに関連性の高かった問診項目は「野球肘の既往があること」「野球肩の既往がないこと」であり,理学検査項目は「肘の伸展制限があること」「肘と肘をつけた状態で上肢を鼻の高さまで上げられないこと(以下 広背筋テスト)」「非投球側での片足立ちが3秒間安定できないこと」,投球フォームチェックでは「投球フォームでの肩肩肘ラインが乱れていること(以下 肘下がり)」であった。
これらの因子から選手一人一人のOCDの存在確率をベイズ理論を用いて推定した。推定したOCD存在確率のcut off値を15%に設定し,二次検査が必要か否かを判別し,実データと照らし合わせたところ,感度100%,特異度96.8%,陽性的中率36.4%,陰性的中率100%,正診率96.8%と高精度に判別できた。
【考察】
本システムは,OCDの危険因子を持った選手を抽出し,その存在確率を推定することによって,危険性の高い選手にエコー検査を積極的に受けるように促すシステムである。このシステムでは問診や理学検査を利用するため,現場の指導者でも簡便に使うことができ,普及させやすいのが特徴である。こうしたシステムを用いることで,選手や指導者のOCDに対する予防意識を高められるという効果が期待される。
本研究でOCDと関連性の高かったフィジカルチェック項目は,投球フォームでの肘下がりや非投球側の下肢の不安定性,肩甲帯・胸椎の柔軟性を評価するものが含まれている。こうした機能の低下はOCDに対する危険因子の可能性があると考えられた。
今後普遍性を高めるために,他団体とも連携し縦断的かつ横断的観察を進めていく予定である。
【理学療法学研究としての意義】
OCD推定システムを開発し発展させることで,理学療法士がOCDの予防に貢献できる道筋を開ける。今後,より簡便なシステムを確立し,無症候性のOCDを高精度にスクリーニングできれば,より多くの少年野球選手を障害から守ることが可能になる。
成長期の野球選手において野球肘の有病率は高く予防すべき重要課題である。その中でも離断性骨軟骨炎(以下,OCD)は特に予後が悪く,症状が出現した時にはすでに病態が進行していることが多いため,早期発見することが重要である。OCDを早期発見するためにはエコーを用いた検診が有効であり,近年検診が行われる地域が増えている。しかし,現状では現場に出られる医師数には限界があり,エコー機器のコストも考慮すると,数十万人といわれる少年野球選手全体にエコー検診を普及させるのは難しい。もし,エコー検査の前段階に簡便に行えるスクリーニング検査があれば,無症候性のOCDを初期段階で効率的に見つけ出せる可能性が高まる。
本研究の目的は,問診・理学検査・投球フォームチェックを行うことによって,その選手のOCDの存在確率を推定し,二次検診が必要かどうかを判定できるスクリーニングシステム(以下OCD推定システム)を開発することである。
【方法】
調査集団は千葉県理学療法士会・スポーツ健康増進支援部主催の「投球障害予防教室」に参加した小中学生221名とした。この教室では問診・理学検査20項目・投球フォームチェック5項目の他に医師による両肘のエコー検査が行われた。OCDが疑われた選手は病院での二次検査に進み,そこでOCDか否かの確定診断がなされた。上記の記録をデータベース化し,OCDの確定診断がついた選手と有意に関連性のある因子を抽出した。
この抽出された因子をベイズ理論で解析することによって,これらの因子から選手一人一人のOCDの存在確率を推定するシステムを構築した。推定されたOCDの存在確率と実際のデータを照合し,分割表を用いてシステムの妥当性を評価した。
【倫理的配慮,説明と同意】
ヘルシンキ条約に基づき,事前に各チームの監督,保護者に対して検診の目的,内容について説明し同意を得た。また,「プライバシーの保護」「同意の自由」「参加の自由意志」を説明し,協力・同意を得られなかったとしても,不利益は生じないことを記載し当日文書にて配布した。
【結果】
221名中17名(7.7%)の選手が,エコー上で骨頭異常を認め二次検診を受けた。結果,4名(1.8%)の選手がOCDと確定診断された。
OCDに関連性の高かった問診項目は「野球肘の既往があること」「野球肩の既往がないこと」であり,理学検査項目は「肘の伸展制限があること」「肘と肘をつけた状態で上肢を鼻の高さまで上げられないこと(以下 広背筋テスト)」「非投球側での片足立ちが3秒間安定できないこと」,投球フォームチェックでは「投球フォームでの肩肩肘ラインが乱れていること(以下 肘下がり)」であった。
これらの因子から選手一人一人のOCDの存在確率をベイズ理論を用いて推定した。推定したOCD存在確率のcut off値を15%に設定し,二次検査が必要か否かを判別し,実データと照らし合わせたところ,感度100%,特異度96.8%,陽性的中率36.4%,陰性的中率100%,正診率96.8%と高精度に判別できた。
【考察】
本システムは,OCDの危険因子を持った選手を抽出し,その存在確率を推定することによって,危険性の高い選手にエコー検査を積極的に受けるように促すシステムである。このシステムでは問診や理学検査を利用するため,現場の指導者でも簡便に使うことができ,普及させやすいのが特徴である。こうしたシステムを用いることで,選手や指導者のOCDに対する予防意識を高められるという効果が期待される。
本研究でOCDと関連性の高かったフィジカルチェック項目は,投球フォームでの肘下がりや非投球側の下肢の不安定性,肩甲帯・胸椎の柔軟性を評価するものが含まれている。こうした機能の低下はOCDに対する危険因子の可能性があると考えられた。
今後普遍性を高めるために,他団体とも連携し縦断的かつ横断的観察を進めていく予定である。
【理学療法学研究としての意義】
OCD推定システムを開発し発展させることで,理学療法士がOCDの予防に貢献できる道筋を開ける。今後,より簡便なシステムを確立し,無症候性のOCDを高精度にスクリーニングできれば,より多くの少年野球選手を障害から守ることが可能になる。