[1002] 投球動作と比較した正座投げにおける体幹の運動特性
Keywords:正座投げ, 体軸内回旋, 運動特性
【はじめに,目的】
上肢投球障害の治療や予防には,体幹回旋運動を効果的に行うことが重要であるとされる。我々は正座の姿勢で投球を行わせる正座投げを投球障害の評価やエクササイズに実施しているが,その運動特性は渉猟し得た範囲では明らかにされていない。そこで今回,デジタルカメラによる水平面画像の動作分析を用いて,一般的な投球動作(以下,通常投球)との比較により,正座投げにおける体幹の運動特性を明らかにすることを目的として以下の分析を行った。
【方法】
対象は,野球経験者10名(年齢:27.7±3.7歳,身長:174.3±4.5cm,体重:66.8±6.0kg,野球歴:12±2.7年)とした。正座投げと通常投球をそれぞれ3球ずつ実施し,前方の的に正確に当たった動作を分析対象とした。投球動作は水平面画像(鏡像)をデジタルカメラ(CASIO社製EX-FC150)のハイスピードモードで撮影(240Hz)した。身体指標は両端に反射マーカーを貼付した棒を,両上前腸骨棘を結ぶ骨盤ラインおよび両肩甲骨上角を結ぶ肩甲帯ラインに配置した。動作分析ソフト(東総システム社製ToMoCo-lite)上にて,投球方向と平行な線に対して骨盤ライン,肩甲帯ラインそれぞれのなす角を骨盤帯角度,肩甲帯角度と定義した。角度は,それぞれ非投球側のマーカーを軸に各ラインが投球方向に進むに従って正の値として算出した。また,肩甲帯角度と骨盤帯角度の差を体軸内回旋角度とした。分析項目は,肩最大外旋位(以下MER)からball release(以下BR)までの肩甲帯と骨盤帯,体軸内回旋の回旋角度と変位量(回旋量)とした。各パラメータは,MERからBRまでを100%として正規化した。統計学的分析は,対応のあるt検定(p<0.05)を使用した。
【倫理的配慮,説明と同意】
対象者にはヘルシンキ宣言に則り,本研究の主旨と目的を説明し同意を得た。
【結果】
MERにおいて,肩甲帯角度は正座投げ(76.7±7.0°)と通常投球(75.0±7.0°)で有意な差は無く,骨盤帯角度も正座投げ(88.3±3.3°)と通常投球(83.0±7.4°)で有意な差は無かった。一方,BRにおいて,肩甲帯角度は正座投げ(117.5±9.6°)が通常投球(125.2±12.2°)と比べ有意に小さく(p<0.05),骨盤帯角度も正座投げ(96.0±11.0°)は通常投球(101.3±8.1°)と比べ有意に小さかった(p<0.05)。そして,体軸内回旋角度はMER,BRともに正座投げと通常投球の間に有意差はなかった。
正座投げの肩甲帯回旋量(40.4±4.9°)は,通常投球(50.5±6.4°)と比較して有意に小さく(p<0.05),正座投げの骨盤帯回旋量(4.5±2.8°)は通常投球(19.3±6.4)と比較して有意に小さかった(p<0.05)。そして,正座投げの体軸内回旋量(36.0±6.1°)は,通常投球(31.1±9.0°)よりも有意に大きかった(p<0.05)。
【考察】
正座投げは骨盤の回旋が制動される動作であり,通常投球と比較してMERからBRまでの肩甲帯と骨盤帯の角度と回旋量は小さかったものの,その差である体軸内回旋量が有意に大きい結果が得られた。臨床においても,正座投げエクササイズの実施後に通常投球をさせると体軸内回旋量が増大する症例を経験することから,正座投げは体軸内回旋量を効果的に誘導できる動作であると示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
投球動作は下肢から体幹,上肢にかけての運動連鎖で成立しており,上肢投球障害に対するアプローチは多様である。本研究にて,上肢投球障害に対する理学療法アプローチの一方法である正座投げが体軸内回旋量を多く必要とする動作特性が明らかになったことにより,正座投げは理学療法として有用であると考える。また,近年の動作解析装置の発展により,実験室的研究では投球動作のバイオメカニクスに関する詳細が報告されつつあるが,臨床での動作の評価や理学療法アプローチの効果判定は未だ主観に寄るところが多い。本研究は2次元ではあるが,臨床においては鏡を工夫して使用することにより,デジタルカメラ画像も動作の評価に有用であることを示唆している。
上肢投球障害の治療や予防には,体幹回旋運動を効果的に行うことが重要であるとされる。我々は正座の姿勢で投球を行わせる正座投げを投球障害の評価やエクササイズに実施しているが,その運動特性は渉猟し得た範囲では明らかにされていない。そこで今回,デジタルカメラによる水平面画像の動作分析を用いて,一般的な投球動作(以下,通常投球)との比較により,正座投げにおける体幹の運動特性を明らかにすることを目的として以下の分析を行った。
【方法】
対象は,野球経験者10名(年齢:27.7±3.7歳,身長:174.3±4.5cm,体重:66.8±6.0kg,野球歴:12±2.7年)とした。正座投げと通常投球をそれぞれ3球ずつ実施し,前方の的に正確に当たった動作を分析対象とした。投球動作は水平面画像(鏡像)をデジタルカメラ(CASIO社製EX-FC150)のハイスピードモードで撮影(240Hz)した。身体指標は両端に反射マーカーを貼付した棒を,両上前腸骨棘を結ぶ骨盤ラインおよび両肩甲骨上角を結ぶ肩甲帯ラインに配置した。動作分析ソフト(東総システム社製ToMoCo-lite)上にて,投球方向と平行な線に対して骨盤ライン,肩甲帯ラインそれぞれのなす角を骨盤帯角度,肩甲帯角度と定義した。角度は,それぞれ非投球側のマーカーを軸に各ラインが投球方向に進むに従って正の値として算出した。また,肩甲帯角度と骨盤帯角度の差を体軸内回旋角度とした。分析項目は,肩最大外旋位(以下MER)からball release(以下BR)までの肩甲帯と骨盤帯,体軸内回旋の回旋角度と変位量(回旋量)とした。各パラメータは,MERからBRまでを100%として正規化した。統計学的分析は,対応のあるt検定(p<0.05)を使用した。
【倫理的配慮,説明と同意】
対象者にはヘルシンキ宣言に則り,本研究の主旨と目的を説明し同意を得た。
【結果】
MERにおいて,肩甲帯角度は正座投げ(76.7±7.0°)と通常投球(75.0±7.0°)で有意な差は無く,骨盤帯角度も正座投げ(88.3±3.3°)と通常投球(83.0±7.4°)で有意な差は無かった。一方,BRにおいて,肩甲帯角度は正座投げ(117.5±9.6°)が通常投球(125.2±12.2°)と比べ有意に小さく(p<0.05),骨盤帯角度も正座投げ(96.0±11.0°)は通常投球(101.3±8.1°)と比べ有意に小さかった(p<0.05)。そして,体軸内回旋角度はMER,BRともに正座投げと通常投球の間に有意差はなかった。
正座投げの肩甲帯回旋量(40.4±4.9°)は,通常投球(50.5±6.4°)と比較して有意に小さく(p<0.05),正座投げの骨盤帯回旋量(4.5±2.8°)は通常投球(19.3±6.4)と比較して有意に小さかった(p<0.05)。そして,正座投げの体軸内回旋量(36.0±6.1°)は,通常投球(31.1±9.0°)よりも有意に大きかった(p<0.05)。
【考察】
正座投げは骨盤の回旋が制動される動作であり,通常投球と比較してMERからBRまでの肩甲帯と骨盤帯の角度と回旋量は小さかったものの,その差である体軸内回旋量が有意に大きい結果が得られた。臨床においても,正座投げエクササイズの実施後に通常投球をさせると体軸内回旋量が増大する症例を経験することから,正座投げは体軸内回旋量を効果的に誘導できる動作であると示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
投球動作は下肢から体幹,上肢にかけての運動連鎖で成立しており,上肢投球障害に対するアプローチは多様である。本研究にて,上肢投球障害に対する理学療法アプローチの一方法である正座投げが体軸内回旋量を多く必要とする動作特性が明らかになったことにより,正座投げは理学療法として有用であると考える。また,近年の動作解析装置の発展により,実験室的研究では投球動作のバイオメカニクスに関する詳細が報告されつつあるが,臨床での動作の評価や理学療法アプローチの効果判定は未だ主観に寄るところが多い。本研究は2次元ではあるが,臨床においては鏡を工夫して使用することにより,デジタルカメラ画像も動作の評価に有用であることを示唆している。