[1005] 肢体不自由児の腓腹筋における,筋線維長・羽状角の経年的変化
キーワード:肢体不自由児, 筋線維, 羽状角
【はじめに,目的】
脳性麻痺児の機能障害のひとつとして関節可動域制限があげられる。関節可動域制限は,年齢とともに進行し,粗大運動能力の制限因子となることが報告されている。関節可動域制限の原因については,関節・軟部組織・筋肉などの直接的因子と,疼痛・スパズム・癒着などの間接的因子があり,そのうち筋組織においては,筋線維径減少・筋節数減少により筋萎縮・筋短縮を呈するということが知られている。脳性麻痺児と健常児の筋構造を横断的に比較した先行研究では,同年代の健常児と比較して,脳性麻痺児は筋線維長が短縮しているという結果が報告されている。しかし経年的に肢体不自由児の筋構造の変化について,またそれに伴う関節可動域の変化について検討した研究は見当たらない。したがって本研究では,超音波を用いて肢体不自由児の下腿三頭筋における筋構造として筋線維長・羽状角の2項目を経年的に測定し,足関節背屈関節可動域の変化との関連を検討した。
【方法】
対象は,特別支援学校に通学する肢体不自由児36名(男児19名,女児17名。脳性麻痺児24名,染色体異常7名,発達遅延1名,その他4名。測定開始時の年齢11.7歳±3.0歳,GMFCSレベル1~5)とした。測定は,2011年6月から2013年2月の期間に計4回実施した。筋線維長・羽状角の測定は超音波画像解析装置(GE横河メディカルシステム製)を用い,測定姿勢は腹臥位の姿勢で膝関節伸展位,測定条件は,足関節底背屈0°,最大背屈位の2条件とした。超音波の測定位置は膝関節内側裂隙と内果を結んだ線上近位3分の1から3cm外側とした。羽状角は,筋膜と筋線維のなす角(θ)とし,筋線維長は推定式(筋線維長=筋厚/sinθ)から算出した。足関節背屈角度はゴニオメーターを用いて測定,またメジャーを用いて下腿長を測定した。
解析に使用したデータは,各時点の下腿長・足関節背屈角度・筋線維長・羽状角の値,また筋線維長・羽状角については,底背屈0°,最大背屈位の各条件の値(背屈0°の筋線維長:0MFL,最大背屈位での筋線維長:DFMFL,背屈0°の羽状角:0PA,最大背屈位での羽状角:DFPA)と,各時点の2条件間の差(DMFL=DFMFL-0MFL,DPA=0PA-DFPA)を算出した。統計では下腿長・足関節背屈角度・0MFL・DFMFL・0PA・DFPA・DMFL,DPAの経年変化を角度と測定時期の二要因による二元配置反復測定分散分析を用いて検討した。また,Bonferroni法を用いて多重比較を行った。また,DFMFL・DFPA・DMFL・DPAおよび足関節背屈可動域において,4回の測定で得られた値から測定期間に対する各変数の回帰直線を求め,その傾きの大きさを経年的な変化の程度の指標として算出し,それぞれの関連をPearsonの積率相関係数を用いて検討した。なお本研究の有意水準は5%とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は本学倫理委員会の承認を得て,本人とその家族の同意を得た上で測定を行った。
【結果】
経年変化として,下腿長は有意に増加(p<0.05),足関節背屈可動域は有意に減少していた(p<0.01)。また,筋線維長は経年的な変化がなく,羽状角は二元配置分散分析の測定時期の主効果が認められ,有意に低下していた(p<0.01)。DMFL,DPAは経年的な変化は認められなかったが,DPAの測定期間中における回帰直線の傾きのみ,関節可動域の低下と有意に相関していた(r=0.39,p<0.05)。
【考察】
本研究の結果から,肢体不自由児の内側腓腹筋における経年的な変化として,筋線維長は変化がなく,羽状角が有意に減少していることが示された。また,関節可動域の低下には足関節を底背屈0°から最大背屈位としたときの羽状角の角度差の変化のみが関連していた。
下腿長は有意に増加しているが筋線維長に変化がないという結果から,成長に伴う下腿長の増加に対して筋腹長を増加させるために,羽状角が減少することで代償したのではないかと考えられる。また,2条件間における羽状角の角度差(DPA)の変化が,背屈可動域低下と有意な関連を示していたことから,他動的伸長による羽状角の変化量の維持が,可動域の維持と関連することが示唆される。
【理学療法学研究としての意義】
脳性麻痺児をはじめとする肢体不自由児において,経年的な内側腓腹筋の構造学的変化を明らかにした。また,肢体不自由児における足関節背屈関節可動域制限進行の因子として,腓腹筋伸張時の羽状角変化量の減少が寄与している可能性を明らかにした。
脳性麻痺児の機能障害のひとつとして関節可動域制限があげられる。関節可動域制限は,年齢とともに進行し,粗大運動能力の制限因子となることが報告されている。関節可動域制限の原因については,関節・軟部組織・筋肉などの直接的因子と,疼痛・スパズム・癒着などの間接的因子があり,そのうち筋組織においては,筋線維径減少・筋節数減少により筋萎縮・筋短縮を呈するということが知られている。脳性麻痺児と健常児の筋構造を横断的に比較した先行研究では,同年代の健常児と比較して,脳性麻痺児は筋線維長が短縮しているという結果が報告されている。しかし経年的に肢体不自由児の筋構造の変化について,またそれに伴う関節可動域の変化について検討した研究は見当たらない。したがって本研究では,超音波を用いて肢体不自由児の下腿三頭筋における筋構造として筋線維長・羽状角の2項目を経年的に測定し,足関節背屈関節可動域の変化との関連を検討した。
【方法】
対象は,特別支援学校に通学する肢体不自由児36名(男児19名,女児17名。脳性麻痺児24名,染色体異常7名,発達遅延1名,その他4名。測定開始時の年齢11.7歳±3.0歳,GMFCSレベル1~5)とした。測定は,2011年6月から2013年2月の期間に計4回実施した。筋線維長・羽状角の測定は超音波画像解析装置(GE横河メディカルシステム製)を用い,測定姿勢は腹臥位の姿勢で膝関節伸展位,測定条件は,足関節底背屈0°,最大背屈位の2条件とした。超音波の測定位置は膝関節内側裂隙と内果を結んだ線上近位3分の1から3cm外側とした。羽状角は,筋膜と筋線維のなす角(θ)とし,筋線維長は推定式(筋線維長=筋厚/sinθ)から算出した。足関節背屈角度はゴニオメーターを用いて測定,またメジャーを用いて下腿長を測定した。
解析に使用したデータは,各時点の下腿長・足関節背屈角度・筋線維長・羽状角の値,また筋線維長・羽状角については,底背屈0°,最大背屈位の各条件の値(背屈0°の筋線維長:0MFL,最大背屈位での筋線維長:DFMFL,背屈0°の羽状角:0PA,最大背屈位での羽状角:DFPA)と,各時点の2条件間の差(DMFL=DFMFL-0MFL,DPA=0PA-DFPA)を算出した。統計では下腿長・足関節背屈角度・0MFL・DFMFL・0PA・DFPA・DMFL,DPAの経年変化を角度と測定時期の二要因による二元配置反復測定分散分析を用いて検討した。また,Bonferroni法を用いて多重比較を行った。また,DFMFL・DFPA・DMFL・DPAおよび足関節背屈可動域において,4回の測定で得られた値から測定期間に対する各変数の回帰直線を求め,その傾きの大きさを経年的な変化の程度の指標として算出し,それぞれの関連をPearsonの積率相関係数を用いて検討した。なお本研究の有意水準は5%とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は本学倫理委員会の承認を得て,本人とその家族の同意を得た上で測定を行った。
【結果】
経年変化として,下腿長は有意に増加(p<0.05),足関節背屈可動域は有意に減少していた(p<0.01)。また,筋線維長は経年的な変化がなく,羽状角は二元配置分散分析の測定時期の主効果が認められ,有意に低下していた(p<0.01)。DMFL,DPAは経年的な変化は認められなかったが,DPAの測定期間中における回帰直線の傾きのみ,関節可動域の低下と有意に相関していた(r=0.39,p<0.05)。
【考察】
本研究の結果から,肢体不自由児の内側腓腹筋における経年的な変化として,筋線維長は変化がなく,羽状角が有意に減少していることが示された。また,関節可動域の低下には足関節を底背屈0°から最大背屈位としたときの羽状角の角度差の変化のみが関連していた。
下腿長は有意に増加しているが筋線維長に変化がないという結果から,成長に伴う下腿長の増加に対して筋腹長を増加させるために,羽状角が減少することで代償したのではないかと考えられる。また,2条件間における羽状角の角度差(DPA)の変化が,背屈可動域低下と有意な関連を示していたことから,他動的伸長による羽状角の変化量の維持が,可動域の維持と関連することが示唆される。
【理学療法学研究としての意義】
脳性麻痺児をはじめとする肢体不自由児において,経年的な内側腓腹筋の構造学的変化を明らかにした。また,肢体不自由児における足関節背屈関節可動域制限進行の因子として,腓腹筋伸張時の羽状角変化量の減少が寄与している可能性を明らかにした。