第49回日本理学療法学術大会

Presentation information

発表演題 ポスター » 基礎理学療法 ポスター

身体運動学13

Sat. May 31, 2014 1:55 PM - 2:45 PM ポスター会場 (基礎)

座長:武田涼子(東北文化学園大学医療福祉学部リハビリテーション学科理学療法学専攻)

基礎 ポスター

[1014] 壁からの距離が静的立位姿勢保持中の足圧中心に及ぼす影響

遠藤博, 豊田和典 (JAとりで総合医療センター)

Keywords:重心動揺検査, 立位, 静的バランス

【はじめに,目的】
環境から個体が受ける入力システムでは,前庭覚,視覚,触覚・固有受容器性感覚の3つの求心路が重要とされ,視覚の役割は外界と自己の位置関係に関する情報をもたらすことである。静止立位は足圧中心(Center of pressure:COP)により評価でき,立位保持中のCOPパラメータと入力システムについて,深部感覚と単位面積軌跡長,前庭迷路と面積系の報告がある。また視覚特有のCOPパラメータとして,前後方向単位軌跡長が水澤らにより報告されているが,視覚条件については言及されていない。本研究の目的は,視覚条件が立位保持中のCOPに及ぼす影響を検討し,視覚特有のパラメータを明らかにすること,立ち位置によるパラメータへの影響を検討することとした。
【方法】
健常成人22名(男性11名,女性11名,平均27.8±3.8歳,身長165.2±9.8cm,体重58.8±13.8kg)を対象とした。重心動揺計(アニマ社製GRAVICODER GS-31P)を使用し,静止立位の重心動揺を各30秒計測した。立ち位置の条件は,約9m2の個室に前壁から0.5m左右の壁の中央(以下,位置1),前壁から1.0m左の壁から0.5m(以下,位置2),前壁から1.0m左右の壁の中央(以下,位置3),前壁から1.0m右の壁から0.5m(以下,位置4),前壁から1.5m左右の壁の中央(以下,位置5)の5箇所とした。開眼での静止立位中は,固視点を凝視させ,立ち位置はランダム,開眼・閉眼の順番とした。開閉眼でCOPパラメータに差異があるか検討するため,差の検定を行った。ShapiroWilk検定によって正規性を判断し,正規分布に従う場合は対応のあるt検定,従わない場合にはWilcoxonの符号付き順位和検定を適用した。従属変数を開眼,閉眼とし,立ち位置ごとのCOPパラメータ(単位軌跡長,単位面積軌跡長,外周面積,矩形面積,実行値面積)を独立変数とした多重ロジスティック回帰分析(変数増加法:尤度比)も行なった。多重共線性に配慮し,外周面積,矩形面積,実行値面積は互いに相関係数r>0.9であったため,外周面積を代表として実施した。統計処理にはSPSSを使用し,有意水準は5%とし,それぞれ効果量(effect size:ES)も求めた。
【倫理的配慮,説明と同意】
対象者には研究内容を口頭にて十分説明を行い,同意を得た。
【結果】
開閉眼で有意差を認めたパラメータは,位置1の全て,位置2・3・4の単位軌跡長,外周面積,矩形面積,位置5の単位軌跡長,単位面積軌跡長であった。効果量はいずれもES(r)>0.5,ES(d)>0.5であった。単位軌跡長は,全ての位置で閉眼より短く,外周・矩形面積は,位置1,2,3,4で小さく,実行値面積は位置1で小さく,単位面積軌跡長は位置1で長く,位置5で短かった。閉眼条件間での立ち位置による違いはなかった。多重ロジスティック回帰分析の結果モデルχ2検定の結果は各位置ともP<0.05であり,共通して単位軌跡長を有意な変数として選択し,位置5については加えて単位面積軌跡長も選択した。単位軌跡長が選ばれた位置1では,オッズ比423.943,Hosmer-Lemeshow検定p=0.629,判別的中率は77.3%であった。位置2では,オッズ比21.213,p=0.517,判別的中率は65.9%であった。位置3では,オッズ比11.121,p=0.996,判別的中率は68.2%であった。位置4では,オッズ比9.293,p=0.354,判別的中率は61.4%であった。位置5では,単位軌跡長のオッズ比23.557,単位面積軌跡長のオッズ比1.146,p=0.432,判別的中率は68.2%であった。
【考察】
動揺速度を表す単位軌跡長は,いずれの位置でも開閉眼で有意差を認め,効果量も大きく,またロジスティック回帰分析の結果,視覚特有のパラメータとして選択された。単位面積軌跡長は,位置1,位置5で有意差を認め,ロジスティック回帰分析でも選択された。先行研究では,単位面積軌跡長について触れていないが,視覚情報の消失によって動揺速度は変化するものの動揺の大きさは変化しないという点で水澤らと同様の結果であった。
閉眼と比較し,前壁から近い位置1では,単位軌跡長が短く,動揺面積も小さいが,前の壁から離れた位置2,3,4では,位置1と比べて実行値面積に差を認めず,更に離れた位置5では外周・矩形面積でも差を認めなかった。前壁から遠ざかるほど実行値面積,外周面積,矩形面積の動揺面積の大きさに閉眼と差を認めなくなることから,前壁に近いほど目標が近いことで立ち直りを繰り返して動揺面積の小さい立位保持を行い,前壁から離れ目標が遠ざかるため,動揺面積が大きくなり閉眼のパラメータとの差が少なくなったと考えた。
【理学療法学研究としての意義】
前壁に配慮することで,静止立位の練習の難易度を変えられることを示唆している。今後はバランス障害を有する方を対象として比較検討することで,一般化することができる。