[1016] 2つの筋張力推定法を用いた平行棒使用方法の違いによる立ち上がり動作時の膝関節圧迫力の検討
Keywords:立ち上がり, 関節間力, 筋張力
【はじめに,目的】
変形性膝関節症は整形外科疾患における代表的な疾患であり,関節軟骨の変性や骨棘形成が生じることにより,立ち上がり動作などの粗大運動時に荷重痛を呈する。そのため,理学療法士が関節への負荷を軽減した動作を理解することは動作指導において重要である。立ち上がり動作は,日常生活やリハビリテーションにおいて頻繁に行う動作のひとつであり,リハビリテーション場面においても平行棒を用いる立ち上がり練習が多く見受けられる。しかし,平行棒使用方法の違いによる膝関節圧迫力の定量的な検討は報告されていない。本研究では,機能別実効筋理論および筋疲労最小化理論の2つの手法から個々の筋張力を推定し,膝関節圧迫力の定量化を試みた。そして,平行棒使用方法の違いが膝関節圧迫力に及ぼす影響を明らかとすることを目的とした。
【方法】
対象者は健常成人男性5名とした。課題動作は椅子からの立ち上がり動作とし,課題動作時における平行棒使用方法を3条件設定した。条件設定は,平行棒を使用せずに立ち上がる条件(以下,Free),平行棒を下方へ押しながら立ち上がる条件(以下,Push),平行棒を対象者自身の方向へ引きながら立ち上がる条件(以下,Pull)の3つとした。平行棒の高さは被験者の立位時の大転子に設定し,椅子の高さは40cmに統一した。立ち上がりの速度は3条件間で一定とした。なお,被験脚は右脚とした。動作解析にはCCDカメラ11台を含む3次元動作解析装置,床反力計6台を使用し,反射マーカーは骨盤および右下肢の計13箇所に貼付した。筋骨格モデルは腸腰筋,広筋群,大腿直筋,大殿筋,大腿二頭筋短頭,ハムストリングの6筋による矢状面モデルとし,筋張力推定法は熊本らによる機能別実効筋理論を用いた手法(以下,HEM)と筋疲労最小化理論を用いた手法(以下,OPT)の2つとした。立ち上がり動作の3条件間において,体重にて正規化された膝関節圧迫力のピーク値およびピーク時の床反力後方成分を検討した。筋張力と膝関節圧迫力の推定および解析処理にはScilab-5.4.1を使用した。統計処理は,反復測定一元配置分散分析法を使用し,事後検定としてTukey-Kramer法を用いた。なお,有意水準は5%とした。また,2つの手法間における筋張力の一致度をみるためにPearsonの相関係数を用いた。
【倫理的配慮,説明と同意】
全対象者に対して,事前に本研究の目的,方法,研究への参加の任意性と同意撤回の自由,プライバシー保護について十分な説明を行い,書面にて研究参加への同意を得た。
【結果】
膝関節圧迫力ピーク値は,2つの手法ともにPushと比較してFreeおよびPullで有意に高値を示した(p<0.01)。HEMとOPTの膝関節圧迫力ピーク値はそれぞれFreeで27.6±4.5N/kg,23.5±4.7N/kg,Pushで10.3±2.5N/kg,9.2±2.0N/kg,Pullで24.3±2.7N/kg,22.6±2.9N/kgであった。床反力後方成分は,FreeおよびPushと比較してPullで有意に高値を示した(p<0.01)。
2つの手法間における腸腰筋,広筋群,大腿直筋,大殿筋,大腿二頭筋短頭,ハムストリングの筋張力の相関係数はそれぞれr=0.94,0.99,0.00,0.99,0.89,0.76であった。
【考察】
本研究の結果より,Pullの平行棒使用方法ではFreeとほぼ同等の膝関節圧迫力ピーク値を示すことが明らかとなった。Pullは床反力後方成分が他の条件よりも有意に高値であったことから,床反力による膝関節屈曲モーメントの増加が関与していると考えられる。関節の負担を示す指標として関節間力の他に関節モーメントが存在するが,関節モーメントは正味の力のモーメントのみを意味する。関節間力は関節角度によって圧迫力と剪断力に大別されることから,関節の負担をより詳細に把握できる有益な指標になりうると考える。
相関係数の結果に関して,OPTの筋疲労最小化理論は二関節筋および拮抗筋の反映が良好ではない報告に対し,HEMの機能別実効筋理論は二関節筋の機能を考慮していると報告されている。したがって,二関節筋の推定筋張力の違いが相関係数に影響を及ぼした可能性が考えられる。しかしながら,妥当性の証明に関しては表面筋電図などとの相関を検討する必要がある。
【理学療法学研究としての意義】
本研究の結果より,平行棒使用方法を変化させることで膝関節圧迫力を軽減できる可能性が示唆された。平行棒を用いた立ち上がり練習において,膝関節に疼痛を誘発しやすい対象者に対しては関節圧迫力の程度を調節する必要があり,平行棒を引かずに下方へ押すことを理学療法士が確認および指導することの重要性が示唆された。
変形性膝関節症は整形外科疾患における代表的な疾患であり,関節軟骨の変性や骨棘形成が生じることにより,立ち上がり動作などの粗大運動時に荷重痛を呈する。そのため,理学療法士が関節への負荷を軽減した動作を理解することは動作指導において重要である。立ち上がり動作は,日常生活やリハビリテーションにおいて頻繁に行う動作のひとつであり,リハビリテーション場面においても平行棒を用いる立ち上がり練習が多く見受けられる。しかし,平行棒使用方法の違いによる膝関節圧迫力の定量的な検討は報告されていない。本研究では,機能別実効筋理論および筋疲労最小化理論の2つの手法から個々の筋張力を推定し,膝関節圧迫力の定量化を試みた。そして,平行棒使用方法の違いが膝関節圧迫力に及ぼす影響を明らかとすることを目的とした。
【方法】
対象者は健常成人男性5名とした。課題動作は椅子からの立ち上がり動作とし,課題動作時における平行棒使用方法を3条件設定した。条件設定は,平行棒を使用せずに立ち上がる条件(以下,Free),平行棒を下方へ押しながら立ち上がる条件(以下,Push),平行棒を対象者自身の方向へ引きながら立ち上がる条件(以下,Pull)の3つとした。平行棒の高さは被験者の立位時の大転子に設定し,椅子の高さは40cmに統一した。立ち上がりの速度は3条件間で一定とした。なお,被験脚は右脚とした。動作解析にはCCDカメラ11台を含む3次元動作解析装置,床反力計6台を使用し,反射マーカーは骨盤および右下肢の計13箇所に貼付した。筋骨格モデルは腸腰筋,広筋群,大腿直筋,大殿筋,大腿二頭筋短頭,ハムストリングの6筋による矢状面モデルとし,筋張力推定法は熊本らによる機能別実効筋理論を用いた手法(以下,HEM)と筋疲労最小化理論を用いた手法(以下,OPT)の2つとした。立ち上がり動作の3条件間において,体重にて正規化された膝関節圧迫力のピーク値およびピーク時の床反力後方成分を検討した。筋張力と膝関節圧迫力の推定および解析処理にはScilab-5.4.1を使用した。統計処理は,反復測定一元配置分散分析法を使用し,事後検定としてTukey-Kramer法を用いた。なお,有意水準は5%とした。また,2つの手法間における筋張力の一致度をみるためにPearsonの相関係数を用いた。
【倫理的配慮,説明と同意】
全対象者に対して,事前に本研究の目的,方法,研究への参加の任意性と同意撤回の自由,プライバシー保護について十分な説明を行い,書面にて研究参加への同意を得た。
【結果】
膝関節圧迫力ピーク値は,2つの手法ともにPushと比較してFreeおよびPullで有意に高値を示した(p<0.01)。HEMとOPTの膝関節圧迫力ピーク値はそれぞれFreeで27.6±4.5N/kg,23.5±4.7N/kg,Pushで10.3±2.5N/kg,9.2±2.0N/kg,Pullで24.3±2.7N/kg,22.6±2.9N/kgであった。床反力後方成分は,FreeおよびPushと比較してPullで有意に高値を示した(p<0.01)。
2つの手法間における腸腰筋,広筋群,大腿直筋,大殿筋,大腿二頭筋短頭,ハムストリングの筋張力の相関係数はそれぞれr=0.94,0.99,0.00,0.99,0.89,0.76であった。
【考察】
本研究の結果より,Pullの平行棒使用方法ではFreeとほぼ同等の膝関節圧迫力ピーク値を示すことが明らかとなった。Pullは床反力後方成分が他の条件よりも有意に高値であったことから,床反力による膝関節屈曲モーメントの増加が関与していると考えられる。関節の負担を示す指標として関節間力の他に関節モーメントが存在するが,関節モーメントは正味の力のモーメントのみを意味する。関節間力は関節角度によって圧迫力と剪断力に大別されることから,関節の負担をより詳細に把握できる有益な指標になりうると考える。
相関係数の結果に関して,OPTの筋疲労最小化理論は二関節筋および拮抗筋の反映が良好ではない報告に対し,HEMの機能別実効筋理論は二関節筋の機能を考慮していると報告されている。したがって,二関節筋の推定筋張力の違いが相関係数に影響を及ぼした可能性が考えられる。しかしながら,妥当性の証明に関しては表面筋電図などとの相関を検討する必要がある。
【理学療法学研究としての意義】
本研究の結果より,平行棒使用方法を変化させることで膝関節圧迫力を軽減できる可能性が示唆された。平行棒を用いた立ち上がり練習において,膝関節に疼痛を誘発しやすい対象者に対しては関節圧迫力の程度を調節する必要があり,平行棒を引かずに下方へ押すことを理学療法士が確認および指導することの重要性が示唆された。