第49回日本理学療法学術大会

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身体運動学14

2014年5月31日(土) 13:55 〜 14:45 ポスター会場 (基礎)

座長:早川和秀(共立蒲原総合病院リハビリテーション科)

基礎 ポスター

[1018] Calf raiseにおける等尺性収縮を再現する最適条件は?

久田智之1, 佐藤貴徳1, 前沢智美2, 三津橋佳奈3, 工藤慎太郎4 (1.老人保健施設和合の里リハビリテーション科, 2.四軒家整形外科クリニックリハビリテーション科, 3.伊東整形外科リハビリテーション科, 4.国際医学技術専門学校理学療法学科)

キーワード:calf raise, 下腿三頭筋, 等尺性収縮

【はじめに,目的】
歩行においてterminal stanceでは下腿三頭筋(TS)が活動することで,MTP関節を支点とした前方への推進力を生み出す。そのため,TSは臨床上重要になり,Perryらは正常歩行を行うためには片脚でのcalf raise(CR)が30回以上必要になることを述べている。一方,歩行における踵離地のTSの動態に関して,FukunagaらやKawakamiらは立脚相後半において等尺性収縮(IC)を示し,腱が伸長され,その弾性エネルギーが踵を持ち上げる力となると説明している。
動作改善を促す運動療法を展開するには運動学習理論の応用が必要になる。Schmidtは運動の転移を促すには運動課題間の類似性が重要になると述べている。そのため,歩行において効率的な踵離地を促すためには歩行時のTSの動態を再現する必要があると考える。つまり,CRにおいてICを再現することは歩行の改善に繋がるのではないかと考えた。我々は先行研究において,CR時のTSの動態は筋の粘性よりも弾性が関与していることを報告している。本研究の目的は,CRにてICを再現する最適な条件を検証するとこととした。
【方法】
対象は下肢に疾患のない健常成人22名(平均年齢22.9±5.1歳)とした。超音波画像診断装置(My Lab 25,株式会社日立メディコ社製)にて測定はBモード,プローブには12MHzのリニアプローブを使用した。撮影部位は腓腹筋内側頭の最大膨隆部とした。CRの動画撮影にはビデオカメラを使用した。エコーとビデオカメラを同期し,エコーから腓腹筋内側頭の筋厚と羽状角を測定後,筋線維束長を算出し,ビデオカメラから足関節角度を測定した。課題は前足部を台にのせた背屈位を開始肢位とした。試行頻度を固定するためにメトロノームを使用した。試行条件を(a)60bpmで6cmの台を使用,(b)60bpmで3cmの台を使用,(c)90bpmで6cmの台を使用の3条件を設定し,筋の粘性と弾性を変化させた。足関節角度の変化から,開始肢位から踵を持ち上げ最大底屈位までを挙上相,最大底屈位から底背屈0°までを下降相,底背屈0°から最大背屈位までを背屈相と分類した。3相ごとの運動範囲,角速度を条件(a)~(c)で比較した。さらに各相における筋線維束長の変化を比較検討し,各相における筋収縮の動態を決定した。また,各課題において(i)IC時の筋線維束長の変化を示す指標として,回帰直線の傾きと(ii)CRの1周期内でICが出現している時間の割合を比較検討した。統計学的手法には対応のあるt検定,一元配置分散分析を用い,多重比較検定にはBonferroni法を用いた。有意水準は5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
対象者には,本研究の趣旨,対象者の権利を口頭にて説明し,紙面上にて同意を得た。
【結果】
運動範囲は(a)と(b)間,(a)と(c)間のすべての相間において,角速度は(a)と(c)間のすべての相間で有意差を認めた(p<0.05)。筋線維束長の変化は,求心性収縮(CC)を正,遠心性収縮(EC)を負の数値で表し,全ての課題で挙上相,下降相,背屈相間にp<0.001と有意差を認めた。挙上相はCCを,下降相はECを示し,背屈相では筋線維束長の変化があまり見られないICが生じた。(i)において(a)と(b)間,(a)と(c)間ともに有意差を認めなかった。(ii)において(a)と(b)間にて有意差を認めたが,(a)と(c)間では有意差を認めなかった(p<0.05)。
【考察】
今回,CRの開始肢位の背屈位の角度を変化させ,筋の弾性の違いによりICの動態がどのように変化するか,また,筋の弾性の高い状態での筋の粘性の影響を検証した。
(i)より筋線維束長の傾きに有意差を認めなかったことから,すべての条件で同様な動態のICが出現していることが確認できた。
(ii)より(a)と(b)における結果より背屈角度を大きくすることにより長い期間ICが出現した。また,運動範囲は異なる範囲でありながら角速度には有意差を認めていない。つまり,粘性の要素を考慮しなくてよい条件で弾性の影響を受けて動態の違いが表れている。したがって,背屈相をつくり,筋の弾性を高めるほどICは再現されることが示された。(a)と(c)における結果は角速度のみ変化させたかったが,運動範囲も減少した。つまり,十分な課題設定ができなかった。先行研究においても,60bpmが安定して行える頻度の限界と述べている。そのため,条件(c)は難易度が高すぎると考えた。
【理学療法学研究としての意義】
本研究によりCRにおけるICを再現する最適条件が検証された。背屈域を有するCRを実施することにより歩行中のTSの動態に近い筋収縮を適切に学習することができ,歩行改善や歩行速度の向上といった効果が期待できるのではないかと考える。またTSは歩行以外にジャンプやランニング等の動作時にもICを示すことが知られており,スポーツ選手のトレーニングにも有用と考えている。