第49回日本理学療法学術大会

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発表演題 ポスター » 基礎理学療法 ポスター

身体運動学14

Sat. May 31, 2014 1:55 PM - 2:45 PM ポスター会場 (基礎)

座長:早川和秀(共立蒲原総合病院リハビリテーション科)

基礎 ポスター

[1019] デジタルカメラとフリーソフトを用いた簡易運動計測システムの実用性の検討

水野智仁, 山中悠紀, 山本洋之, 村上仁之, 石井禎基 (姫路獨協大学)

Keywords:簡易運動計測, 立ち上がり動作, フリーソフト

【はじめに】近年,動画撮影機能をもつ安価なデジタルカメラの普及によって簡易の運動計測や汎用の画像解析ソフトウェアを用いた解析が注目されており,リハビリテーション領域でもさまざまな運動計測システムが提案されている。計測した動画を解析し関節角度などの運動学的な指標を得るためには一定の作業時間を要することから,臨床での利用を考えると必要な情報量を確保しながら解析にかかる時間を軽減させることが重要となる。ただ,先行研究の多くは適用用途や測定精度の検証を中心としたもので,簡易の運動計測システムを実用性の点から検証した報告はまだまだ少ない。本研究では市販のデジタルカメラとフリーソフトを使用して簡易の運動計測システムを構築し,無償の画像解析ソフトを用いて解析者が手動で処理するマーキング作業時間と精度を有償の動作解析用ソフトウェアと比較することで,その実用性を検証した。
【方法】運動計測には市販のデジタルカメラ(ハイスピードエクシリム,CASIO),直径28mmの円形ゴム製マット(黒色)に直径20mmのゴム製半球(蛍光黄色)を組み合わせた自作のカラーマーカーを用いた。精度検証の基準には直角が得られる30cm曲尺(シンワ測定)を用い,鉤手の中心,長枝距離20cm,短枝距離10cmnの位置にマーカーを貼付して使用した。被験者が曲尺を把持したまま40cm台から立ち上がり,右側方160cm,高さ80cmの位置に三脚で固定したカメラを用いてHS 120モード(サンプリング周波数120Hz)で3秒間の計測を行った。記録された映像(MOV形式)はフリーソフト(Barababy)を用いて静止画像(BMP形式640×480)に分割した。フリーソフト(BMP_measure)を用いた手動のマーキング作業(手動解析)は解析未経験の本学大学生3名が疲労や慣れの影響を排除するため40Hzに間引きした3分間のデータを用いて1週間隔で3回行い,座標値を取得するとともに解析に要した時間を記録した。有償の動画解析数値化システム(PV Studio 2D,エル・エー・ビー)による自動のマーキング作業(自動解析)ではマーカー自動追尾機能を用いて120Hzでの座標値を算出した。Excel関数を用いて2種類の解析方法で得られた座標値から関節角度を計算し,基準値との誤差を求めた。また,同じ実験系を用いて20cmと40cm台からの立ち上がり動作の計測を行った。被験者の右側の肩峰,大転子,外側上顆,外果に貼付したマーカーから2種類の解析方法で算出した股関節,膝関節,足関節角度の比較を行うとともに,Schenkmanらの先行研究を参考に経時的データ分析から立ち上がり動作の各相を算出し,解析方法の違いによる差を検証した。
【倫理的配慮,説明と同意】本研究は所属施設倫理委員会の承認を得て行われ,対象者には実験に先立って紙面と口頭で十分な説明を行い研究参加への同意を得た。
【結果】精度検証において手動解析(40Hz)に要した時間は30.5±4.1分(15.3秒/画像)で,得られた角度は89.4±1.2°,自動解析(120Hz)で得られた角度は90.8±1.2°であった。立ち上がり動作の計測において,手動解析と自動解析の2種類の解析方法で算出した股・膝・足関節の関節角度の差は2°以内であった。また,解析方法の違いによる立ち上がり動作の第2相,第3相の開始時間の差は20cm台からの立ち上がりで16.7msec,40cm台からの立ちあがりで8.3msecであった。
【考察】本研究では簡易の運動計測システムを構築し,フリーソフトを用いた手動解析に要する時間と精度を有償のソフトウェアと比較することで,その実用性を検証した結果,30分程度の作業時間によって自動解析によって得られた角度と2°以内の精度でデータ取得が可能であることが示された。さらに,経時的データの分析によって立ち上がり動作の各相の同定が可能で,その時期もほぼ同じであったことから,40Hzのデータを用いた手動解析が立ちあがり動作の経時的な分析に応用できることが確認された。コンピュータを用いた一連続作業時間は30分程度を目安とすることが多く,実用性を考慮するとフリーソフトを使用した運動計測システムが臨床での動作分析に活用できる可能性が十分に考えられるため,今後のその他の動作への応用についても検討する必要がある。
【理学療法学研究としての意義】簡易の運動計測システムの実用性を精度と解析時間から示した本研究結果は臨床での運動計測システム利用の発展に資する意義がある。