第49回日本理学療法学術大会

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人体構造・機能情報学5

2014年5月31日(土) 13:55 〜 14:45 ポスター会場 (基礎)

座長:坂本淳哉(長崎大学病院リハビリテーション部)

基礎 ポスター

[1022] 骨格筋間連結が膝伸筋の短縮速度に及ぼす影響について

石井禎基1, 笹井宣昌3, 山本洋之1, 山中悠紀1, 水野智仁1, 近本大以晴1, 森下愛1, 土屋禎三2 (1.姫路獨協大学医療保健学部理学療法学科, 2.神戸大学大学院理学研究科生物学専攻, 3.鈴鹿医療科学大学保健衛生学部理学療法学科)

キーワード:膝伸筋, 筋間連結, 短縮速度

【はじめに】複数の骨格筋は,結合組織(広義の筋膜)により互いに連結(以下,筋間連結)している。我々は,その骨格筋同士の筋間連結が膝伸筋の筋出力にどのような影響を与えるのかを調べるために,力学的実験(in vivo)を行っている。第46~48回の本大会において筋間連結の程度と膝伸筋収縮張力との関係について報告し,筋間連結が膝伸筋の筋出力を効率よく発揮させ,身体パフォーマンスに重要な役割を担っていること示した。本研究では,筋間連結が筋出力に及ぼす影響をさらに詳しく調べるために,筋の機械的収縮特性の1つである短縮速度を測定する実験を行った。
【方法】実験には15匹のウシガエル(Rana catesbeiana)(体長:134±6 mm)の膝伸筋である大腿三頭筋(ヒトの大腿四頭筋にあたり前大腿直筋および内・外側広筋の3筋からなる)の内・外側広筋を膝伸筋標本として用いた。ウレタンを用いて腹腔内投与により麻酔した後,坐骨神経を尾骨部分から露出させ,さらに大腿部を覆っている筋膜をできるだけ温存しながら内・外側広筋の支配神経分枝だけを残して,他筋への分枝をすべて切断した。カエルを実験バスに固定し,大腿三頭筋腱に取り付けたフックを張力計に固定をした。標本の筋長を適宜変えて十分な強度の電気刺激(60 Hz,0.5 s)を坐骨神経に与えて標本の等尺性強縮張力測定後,最大張力を示した筋長を静止長とした。その静止長において等尺性強縮させた後,標本の荷重を様々に変えて等張性収縮させた時の短縮速度を測定した。標本は,その上面を前大腿直筋,下面を股関節内転筋群およびハムストリングスと筋間連結をしている。実験は,(1)標本上下の筋間連結を温存した条件(以下,連結条件)(N=5),(2)標本上面の前大腿直筋を切離した条件(以下,上面切離)(N=5),(3)標本下面の筋群を切離した条件(以下,下面切離)(N=5)の3条件で行った。実験データはHillの式により近似してそれぞれの荷重-速度関係を作成した後,短縮速度および外へ働きかける作用(短縮速度と荷重の積で算出した仕事率)を比較し検討した。荷重(等張性収縮張力)データは各標本の等尺性強縮張力,そして筋の長さ変化データは大腿骨長(大腿骨頭-膝関節面)でそれぞれ除して正規化した。実験中はSpO2を確認しながら呼吸管理を行った。実験はすべて20±0.5ºCの温度条件下で行った。
【倫理的配慮】本研究に際して,事前に本学の動物実験委員会の承認(許可番号:H25-09号)を得た後,実験動物に苦痛を与えないようにして実験を行った。
【結果】「連結条件」の荷重-速度関係について,短縮速度は荷重0.7-1.0で増加率が大きくやや上に凸の曲線を呈し,全荷重範囲において他の条件よりも速かった。「上面切離」および「下面切離」ではやや下に凸の一般的な双曲線を示した。「連結条件」,「上面切離」,「下面切離」の最大短縮速度は,それぞれ約2.27,約1.69,約2.17であった。また,最大仕事率は,それぞれ約0.73(荷重が標本の等尺性強縮張力の約0.57の時),約0.35(荷重が約0.46の時),約0.47(荷重が約0.46の時)であり,「連結条件」の仕事率は全荷重範囲において他の条件より大きかった。
【考察】本研究では,筋間連結が膝伸筋出力に与える影響について検討するために3条件における筋の短縮速度の測定を行った。その結果,「連結条件」の短縮速度は全荷重範囲において他の条件よりも速かった。これは,筋間連結が膝伸筋の収縮速度を増大させる役割があることを示し,特に,「上面切離」の最大短縮速度が最も遅かったことから,標本の上面にある筋との筋間連結がその短縮速度に大きく関与していることが明らかとなった。また,「連結条件」の仕事率も他の条件よりも全荷重範囲で大きく,「上面切離」,「下面切離」の最大仕事率は,膝伸筋の等尺性強縮張力の約50%の荷重で最大になるのに対して,「連結条件」では約60%で最大になった。以上の結果は,膝伸筋の筋出力にとって筋間連結が重要な役割を担っていることを示唆している。膝伸筋標本(内・外側広筋)は大きな羽状角をもつ羽状筋である事実から推察すると,筋間連結が膝伸筋内部構造の筋束長および羽状角に作用し,効率的な筋出力を生み出していると考えられる。
【理学療法学研究としての意義】本研究結果は,筋間連結の機能的役割の1つを示した基礎的な事実であり,理学療法臨床場面で考察する上で基礎となるものと考える。