[1030] 介護保険サービス利用下の高齢者における栄養状態とサルコペニアの関連性についての検討
キーワード:サルコペニア, MNA, BIA法
【はじめに,目的】
近年高齢化社会を迎える中で,加齢に伴い出現するといわれるサルコペニアを予防・改善することが高齢者の生活の質を維持する為に重要であるといわれている。サルコペニアはその複雑な発生機序から明確な定義は存在しておらず,どの程度の方がサルコペニアを呈しているかが明確に示されていなかった。2010年にEuropean Working Group Sarcopenia in Older People(以下EWGSOP)がサルコペニアに対する操作的定義を発表しており,その定義を用いてサルコペニア判定を行なった報告が散見され始めている。本研究はEWGSOPの定義を用いたサルコペニア判定と簡易栄養状態評価表(Mini Nutritional Assessment:以下MNA)を用いた栄養評価を実施し,栄養状態とサルコペニアとの関連性についての検討を行なうことを目的とする。
【方法】
介護保険サービス利用下の65歳以上の男女計37名(男性17名,女性20名)を対象とした。明らかな身体障害を呈しており,歩行困難な方,重度の認知症を呈しており指示理解困難な方,重度の心疾患を呈している方,ペースメーカーや人工関節などの体内埋め込み機器・器具を有している方は対象から除外した。骨格筋量をBioelectrical Impedance Analysis法,筋力を握力,運動機能を3m Timed up & Go testにて測定した。栄養評価についてはMNAを用いて行なった。サルコペニア判定方法については,骨格筋量のみの低下を「前サルコペニア」,骨格筋量低下に併せ,筋力あるいは運動機能のどちらか一方が低下している場合を「サルコペニア」,3項目ともに低下している場合を「重度サルコペニア」と判定した。また本研究においてはサルコペニア・重度サルコペニアと判定された場合を「サルコペニア群」,前サルコペニアと骨格筋量低下なしと判定された場合を「標準群」と分類した。栄養状態判定においてはMNA点数において0~17点を「低栄養」,18~23.5点を「at risk」,24~30点を「良好」と判定した。統計解析は,サルコペニア群と標準群のMNA結果の比較においてはstudent T検定を用いた。サルコペニア群と標準群のMNA各項目間の比較においてはMann Whitney U検定を用いた。
【倫理的配慮,説明と同意】
対象者に対し,本研究の目的や方法を十分に説明し,紙面にて同意を得た。尚,本研究は所属機関倫理委員会の承認を得て実施した。
【結果】
サルコペニア判定結果は骨格筋量低下なし27名,前サルコペニア0名,サルコペニア2名,重度サルコペニア8名となった。サルコペニア群と健常群におけるMNA点数はサルコペニア群平均が21.45点,標準群平均が25.15点であり有意差を認めた。サルコペニア群と健常群におけるMNA各項目における比較においては,「G:生活は自立していますか」「Q:上腕の中央の周囲長」「R:ふくらはぎの周囲長」の結果に有意差を認めた。また,MNAにおいて,「低栄養」と判定された2名はいずれもサルコペニアと判定された(100%)。「at risk」と判定された14名の内6名(43%)がサルコペニアと判定された。「良好」と判定された21名の内2名(10%)がサルコペニアと判定された。
【考察】
骨格筋量の低下はタンパク質の合成と分解のバランスが負になった結果生じるといわれており,栄養状態と密接な関連が示唆されていた。本研究においても,サルコペニア群と健常群におけるMNA結果においてサルコペニア群に有意な低下を認めており,栄養状態との関連性が示唆された。しかし,MNA中の「K:どんなタンパク質を,どのくらい摂っていますか?」という項目におけるサルコペニア群と健常群における有意差は認められておらず,特に有意差を認めた項目は「G:生活は自立していますか」「Q:上腕の中央の周囲長」「R:ふくらはぎの周囲長」であった。これらの項目はそれぞれサルコペニアの操作的定義における「骨格筋量」「筋力」「運動機能」と密接に関係があるといわれており,このことが本研究においてのサルコペニア群と健常群のMNA結果の違いに影響を与えたものと推測される。このように,MNA自体にサルコペニアの概念を含む評価項目が含まれているために,MNAの点数が低い対象者については高い確率でサルコペニアを呈していることが推測され,MNAの結果からサルコペニアを想起し,介入することの必要性が示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
本研究により,理学療法士によるサルコペニアと栄養状態に対する評価の必要性の認識が得られることで,サルコペニアに対して早期からの予防・改善を行なうことが可能となると考える。
近年高齢化社会を迎える中で,加齢に伴い出現するといわれるサルコペニアを予防・改善することが高齢者の生活の質を維持する為に重要であるといわれている。サルコペニアはその複雑な発生機序から明確な定義は存在しておらず,どの程度の方がサルコペニアを呈しているかが明確に示されていなかった。2010年にEuropean Working Group Sarcopenia in Older People(以下EWGSOP)がサルコペニアに対する操作的定義を発表しており,その定義を用いてサルコペニア判定を行なった報告が散見され始めている。本研究はEWGSOPの定義を用いたサルコペニア判定と簡易栄養状態評価表(Mini Nutritional Assessment:以下MNA)を用いた栄養評価を実施し,栄養状態とサルコペニアとの関連性についての検討を行なうことを目的とする。
【方法】
介護保険サービス利用下の65歳以上の男女計37名(男性17名,女性20名)を対象とした。明らかな身体障害を呈しており,歩行困難な方,重度の認知症を呈しており指示理解困難な方,重度の心疾患を呈している方,ペースメーカーや人工関節などの体内埋め込み機器・器具を有している方は対象から除外した。骨格筋量をBioelectrical Impedance Analysis法,筋力を握力,運動機能を3m Timed up & Go testにて測定した。栄養評価についてはMNAを用いて行なった。サルコペニア判定方法については,骨格筋量のみの低下を「前サルコペニア」,骨格筋量低下に併せ,筋力あるいは運動機能のどちらか一方が低下している場合を「サルコペニア」,3項目ともに低下している場合を「重度サルコペニア」と判定した。また本研究においてはサルコペニア・重度サルコペニアと判定された場合を「サルコペニア群」,前サルコペニアと骨格筋量低下なしと判定された場合を「標準群」と分類した。栄養状態判定においてはMNA点数において0~17点を「低栄養」,18~23.5点を「at risk」,24~30点を「良好」と判定した。統計解析は,サルコペニア群と標準群のMNA結果の比較においてはstudent T検定を用いた。サルコペニア群と標準群のMNA各項目間の比較においてはMann Whitney U検定を用いた。
【倫理的配慮,説明と同意】
対象者に対し,本研究の目的や方法を十分に説明し,紙面にて同意を得た。尚,本研究は所属機関倫理委員会の承認を得て実施した。
【結果】
サルコペニア判定結果は骨格筋量低下なし27名,前サルコペニア0名,サルコペニア2名,重度サルコペニア8名となった。サルコペニア群と健常群におけるMNA点数はサルコペニア群平均が21.45点,標準群平均が25.15点であり有意差を認めた。サルコペニア群と健常群におけるMNA各項目における比較においては,「G:生活は自立していますか」「Q:上腕の中央の周囲長」「R:ふくらはぎの周囲長」の結果に有意差を認めた。また,MNAにおいて,「低栄養」と判定された2名はいずれもサルコペニアと判定された(100%)。「at risk」と判定された14名の内6名(43%)がサルコペニアと判定された。「良好」と判定された21名の内2名(10%)がサルコペニアと判定された。
【考察】
骨格筋量の低下はタンパク質の合成と分解のバランスが負になった結果生じるといわれており,栄養状態と密接な関連が示唆されていた。本研究においても,サルコペニア群と健常群におけるMNA結果においてサルコペニア群に有意な低下を認めており,栄養状態との関連性が示唆された。しかし,MNA中の「K:どんなタンパク質を,どのくらい摂っていますか?」という項目におけるサルコペニア群と健常群における有意差は認められておらず,特に有意差を認めた項目は「G:生活は自立していますか」「Q:上腕の中央の周囲長」「R:ふくらはぎの周囲長」であった。これらの項目はそれぞれサルコペニアの操作的定義における「骨格筋量」「筋力」「運動機能」と密接に関係があるといわれており,このことが本研究においてのサルコペニア群と健常群のMNA結果の違いに影響を与えたものと推測される。このように,MNA自体にサルコペニアの概念を含む評価項目が含まれているために,MNAの点数が低い対象者については高い確率でサルコペニアを呈していることが推測され,MNAの結果からサルコペニアを想起し,介入することの必要性が示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
本研究により,理学療法士によるサルコペニアと栄養状態に対する評価の必要性の認識が得られることで,サルコペニアに対して早期からの予防・改善を行なうことが可能となると考える。