[1031] 当院通所リハビリテーションを利用されている要支援者の,運動・社会機能の経時的変化について
Keywords:通所リハビリテーション, 運動機能, 経時的変化
【はじめに,目的】
急速な少子高齢化により介護保険給付が増大する中,より効率的な介護サービスの計画と実践がリハビリテーション専門職及び事業所に対し強く求められている。特に要支援者に対する介護予防サービスに関しては,今後市町村への運営主体の移行が検討されており,事業の継続にはその実績と必要性をより明確に示していかなければならない。
当院通所リハビリテーション事業所(以下,通所リハ)では,要支援及び要介護高齢者の運動機能や日常生活能力の維持・向上,社会参加の促進等に向けた支援を行っている。提供サービスは,個別指導,集団体操,パワーリハビリ,温泉プールでの運動などがあり,ニーズに応じてプログラムを組み合わせて提供している。
また,通所リハの効果判定や利用者へのフィードバックを目的に,定期的に運動・社会機能の評価を行っているが,その経時的変化は十分に把握できていない。そこで今回,H24~25年度に利用のあった要支援者の評価データを基に,1年間の運動・社会機能の変化を分析する。同時に通所リハの役割の一つである生活範囲の拡大に向けた介入の再考のため,生活範囲の関連因子についても分析し,実績調査とより効果的なサービス提供の考察を目的とする。
【方法】
通所リハでは運動機能評価として,BMI,6分間歩行,10m普通・最速歩行速度,timed up and go test(TUG),片脚立位,握力を3ヶ月毎に測定している。また生活範囲とQOLの評価としてlife space assessment(LSA),The MOS Short-Form 8-Item Health Survey(SF-8)を1年毎に実施している。
今回はH24年4月~H25年6月に通所リハを利用していた要支援者の各評価データを分析対象とし,運動機能評価は一元配置反復測定分散分析にて,生活範囲とQOLの評価はpaired t testにて1年間の変化を観察する。
また,生活範囲の指標であるLSAと他項目との相関分析をspearmanの順位相関係数にて行った後,相関の見られた項目を説明変数,LSAを目的変数として重回帰分析(ステップワイズ法)を行い関連因子の分析を行う。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は当院倫理委員会の承認を得て行い,研究の内容は対象者に文書にて説明した。
【結果】
通所リハ利用者の内,25名(男性14名,女性11名)が分析対象となった。平均年齢は69.8±9.0歳,要支援1が13名,要支援2が12名であった。1年間の運動機能の評価は,6分間歩行,TUGで有意に向上が見られ(p>0.05),他項目では維持されていた。
生活範囲とQOLの評価は,H24年度ではLSAは83.0±30点,SF-8の上位尺度である身体的健康感(PCS)は42.8±8.2,精神的健康感(MCS)は48.8±5.4,H25年度ではLSAは82.8±24点,PCSは44.2±4.9,MCSは49.5±5.0であり,いずれも1年間での有意な変化はなかった。
またLSAの関連因子分析では,重回帰分析の結果H24年度では片脚立位(β=0.57)とBMI(β=0.45)が選択され(R2=0.58),H25年度では6分間歩行(β=0.49)と片脚立位(β=0.38)が選択された(R2=0.68)。
【考察】
今回1年間の調査期間内において,対象者の運動機能の低下はなく,概ね維持されていた。中でも6分間歩行,TUGに関しては向上が見られ,自主訓練や温泉プールでの継続的な運動が持久力,歩行能力の維持・向上に繋がった可能性が推察された。LSAに関して,対象者の平均値は日本理学療法士協会の示す要支援者の基準値と比較すると30点以上高く(一般高齢者レベル),比較的広い生活範囲を持つ集団と考えられた。SF-8に関しては日本国民標準値50に対し,MCSはほぼ標準値であることに比べPCSはやや低い値であることから,特に身体能力の対しての自己効力感が低下していると考えられた。
生活範囲にはバランス能力や歩行持久力,栄養状態の関連がみられた。生活範囲の維持・向上には栄養管理と共にバランス,持久力向上のためのトレーニングや自主運動の指導が重要である可能性が推察された。
また,生活範囲が比較的広いにも関わらず自身の身体能力を低く捉えている要因として,対象者の健康意識が高い,もしくは身体能力向上に対するニーズが高い可能性が推察された。要支援者の高い目標に対して,より細やかな評価・分析を行った上でのゴール設定と介入が,通所リハ及びリハビリテーション専門職の役割として求められているのではないかと考える。
【理学療法学研究としての意義】
通所リハでの継続的な運動により,運動機能の維持または向上が図れる可能性が推察された。しかし,今回の調査期間では生活範囲やQOLの向上にまでは至らなかった。通所リハの役割は単に運動機能の向上だけでなく,社会参加のための生活範囲やIADLの向上,そしてQOLの向上に繋げることが重要である。今後はそれらに関わる要因のさらに細かい分析を行い,向上に寄与できる取り組みの考察が必要と考える。
急速な少子高齢化により介護保険給付が増大する中,より効率的な介護サービスの計画と実践がリハビリテーション専門職及び事業所に対し強く求められている。特に要支援者に対する介護予防サービスに関しては,今後市町村への運営主体の移行が検討されており,事業の継続にはその実績と必要性をより明確に示していかなければならない。
当院通所リハビリテーション事業所(以下,通所リハ)では,要支援及び要介護高齢者の運動機能や日常生活能力の維持・向上,社会参加の促進等に向けた支援を行っている。提供サービスは,個別指導,集団体操,パワーリハビリ,温泉プールでの運動などがあり,ニーズに応じてプログラムを組み合わせて提供している。
また,通所リハの効果判定や利用者へのフィードバックを目的に,定期的に運動・社会機能の評価を行っているが,その経時的変化は十分に把握できていない。そこで今回,H24~25年度に利用のあった要支援者の評価データを基に,1年間の運動・社会機能の変化を分析する。同時に通所リハの役割の一つである生活範囲の拡大に向けた介入の再考のため,生活範囲の関連因子についても分析し,実績調査とより効果的なサービス提供の考察を目的とする。
【方法】
通所リハでは運動機能評価として,BMI,6分間歩行,10m普通・最速歩行速度,timed up and go test(TUG),片脚立位,握力を3ヶ月毎に測定している。また生活範囲とQOLの評価としてlife space assessment(LSA),The MOS Short-Form 8-Item Health Survey(SF-8)を1年毎に実施している。
今回はH24年4月~H25年6月に通所リハを利用していた要支援者の各評価データを分析対象とし,運動機能評価は一元配置反復測定分散分析にて,生活範囲とQOLの評価はpaired t testにて1年間の変化を観察する。
また,生活範囲の指標であるLSAと他項目との相関分析をspearmanの順位相関係数にて行った後,相関の見られた項目を説明変数,LSAを目的変数として重回帰分析(ステップワイズ法)を行い関連因子の分析を行う。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は当院倫理委員会の承認を得て行い,研究の内容は対象者に文書にて説明した。
【結果】
通所リハ利用者の内,25名(男性14名,女性11名)が分析対象となった。平均年齢は69.8±9.0歳,要支援1が13名,要支援2が12名であった。1年間の運動機能の評価は,6分間歩行,TUGで有意に向上が見られ(p>0.05),他項目では維持されていた。
生活範囲とQOLの評価は,H24年度ではLSAは83.0±30点,SF-8の上位尺度である身体的健康感(PCS)は42.8±8.2,精神的健康感(MCS)は48.8±5.4,H25年度ではLSAは82.8±24点,PCSは44.2±4.9,MCSは49.5±5.0であり,いずれも1年間での有意な変化はなかった。
またLSAの関連因子分析では,重回帰分析の結果H24年度では片脚立位(β=0.57)とBMI(β=0.45)が選択され(R2=0.58),H25年度では6分間歩行(β=0.49)と片脚立位(β=0.38)が選択された(R2=0.68)。
【考察】
今回1年間の調査期間内において,対象者の運動機能の低下はなく,概ね維持されていた。中でも6分間歩行,TUGに関しては向上が見られ,自主訓練や温泉プールでの継続的な運動が持久力,歩行能力の維持・向上に繋がった可能性が推察された。LSAに関して,対象者の平均値は日本理学療法士協会の示す要支援者の基準値と比較すると30点以上高く(一般高齢者レベル),比較的広い生活範囲を持つ集団と考えられた。SF-8に関しては日本国民標準値50に対し,MCSはほぼ標準値であることに比べPCSはやや低い値であることから,特に身体能力の対しての自己効力感が低下していると考えられた。
生活範囲にはバランス能力や歩行持久力,栄養状態の関連がみられた。生活範囲の維持・向上には栄養管理と共にバランス,持久力向上のためのトレーニングや自主運動の指導が重要である可能性が推察された。
また,生活範囲が比較的広いにも関わらず自身の身体能力を低く捉えている要因として,対象者の健康意識が高い,もしくは身体能力向上に対するニーズが高い可能性が推察された。要支援者の高い目標に対して,より細やかな評価・分析を行った上でのゴール設定と介入が,通所リハ及びリハビリテーション専門職の役割として求められているのではないかと考える。
【理学療法学研究としての意義】
通所リハでの継続的な運動により,運動機能の維持または向上が図れる可能性が推察された。しかし,今回の調査期間では生活範囲やQOLの向上にまでは至らなかった。通所リハの役割は単に運動機能の向上だけでなく,社会参加のための生活範囲やIADLの向上,そしてQOLの向上に繋げることが重要である。今後はそれらに関わる要因のさらに細かい分析を行い,向上に寄与できる取り組みの考察が必要と考える。