[1037] 当院理学療法部門における卒後教育の新たな取り組み
Keywords:卒後教育, OSCE, 臨床能力
【はじめに,目的】
近年,卒前の理学療法教育において客観的臨床能力試験(以下:OSCE)が注目されている。OSCEの利点は,対象者の知識や理解力だけでなく基本的な技能や情意をある基準のもとで評価・標準化できることであり,最近では卒後教育として運用している病院施設もある。一方で当院のPT部門の従来の卒後教育では指導者(以下:SV)の経験則による主観的な評価をもとに指導が行われており,指導するポイントが統一されていないことや,新人の能力を示す標準化された指標がないことが問題となっていた。そこで今回,当院の経験3年目までの新人PT(以下:新人)に対しOSCEを実施して当院の新人の臨床能力の特性を把握するとともに,客観的な評価指標を用いた教育方法が指導者と新人に及ぼす影響について調査したので以下に報告する。
【方法】
OSCEの対象は当院PT部門に所属する3年目以下のPTで,新卒者1名,2年目2名,3年目1名とした。OSCEは2013年7月から1ヶ月毎に全4回試行し,第1回と第3回は中枢疾患想定,第2回は整形疾患想定,第4回は第3回と同課題の補習とした。いずれも臨床で重要な起居・歩行介助を主課題とし,新人に規定時間内に解答させた。新人1名に対し模擬患者(以下:SP)1名,採点者数名という構成で試験を実施し,SPと採点者にはSVを含む経験4年以上のPTを配置した。採点者が使用する評価表は当院独自に考案し,身だしなみや問診,リスク管理を中心とした9項目からなる「患者への配慮・管理」領域と,PTの基本的技術10項目からなる「介助・誘導」領域を設定した。採点基準は優・良・可・不可の4段階を順に3・2・1・0点に配点し,複数の採点者から得られた得点の平均値を算出した。試験終了後即時に採点者とSPが新人に対しフィードバックを行い,後日改めてSVは担当する新人にOSCEの成績データを呈示して指導をした。全試験終了後,OSCEに参加したPT20名に対してアンケート調査を行い,18名から回答を得た。
【倫理的配慮,説明と同意】
本報告は当院倫理審査委員会の承認を得て実施した。また,新人のOSCEの成績データとPTからのアンケート結果を扱うことに関して対象者に説明し同意を得た。
【結果】
OSCEの結果より,「患者への配慮・管理」領域における得点の平均値の推移は,第1回1.74(±0.49),第2回1.93(±0.15),第3回1.56(±0.40),第4回1.70(±0.13)であった。「介助・誘導」領域は第1回0.70(±0.57),第2回1.30(±0.40),第3回1.29(±0.57),第4回1.23(±0.27)であった。PTへのアンケート調査では「OSCEは新人の臨床能力における強みを評価できる」と答えたのは56%であるのに対し「新人の弱みを評価できる」は72%であった。「OSCEは新人の臨床能力を客観的に評価できる」と答えたのは72%,「OSCEは新人教育の手段の一つとして有効」と答えたのは77%であった。また,記述回答でOSCEのメリットを問うと,「指導者にとって評価・指導・情報共有に有用」,「新人にとって具体的な現場のシミュレーションができる」という意見が多く,デメリットは「新人の精神的プレッシャー」や「多数の助言による混乱」,「関わるスタッフの労力」が多数を占めた。
【考察】
当院の新人は,「患者への配慮・管理」領域の得点が想定疾患によって変動したことから,多様な疾患に関する知識とそれに応じた行動が不得手である傾向が示された。また「介助・誘導」領域の得点は全般的に低く,基本的なPTの技能を重点的に指導する必要性が示された。OSCEの結果から新人全体の傾向が掴める上,対象者の個別のデータの細項目の得点を参照して具体的な「弱み」を検出することが可能であるため,SVは臨床現場で弱点強化型の指導を行うようになった。さらに新人はOSCEを通じて自己の弱点を認識し,自主練習をするようになった。OSCEが新人教育方法として有効であると認識された理由は,新人を統一基準で評価することで指導者は客観的に指導ポイントを選択でき,より具体的な指導ができる事であると考えられる。ただし今後のOSCE運用の課題として,3年分の新人を同じ試験で扱うことや試験環境における精神面への配慮は再検討の余地がある。また指導者には複数のPTから与えられる多様な助言を整理して新人へ伝える能力や,減点法の評価だけでなく新人の「強み」を見出す視点が必要であると思われた。
【理学療法学研究としての意義】
卒後教育におけるOSCEは統一された方法論が確立していないが,当報告のような臨床現場からの実績報告が集積することでOSCEを活用した新人教育方法の再考に繋がると考えている。
近年,卒前の理学療法教育において客観的臨床能力試験(以下:OSCE)が注目されている。OSCEの利点は,対象者の知識や理解力だけでなく基本的な技能や情意をある基準のもとで評価・標準化できることであり,最近では卒後教育として運用している病院施設もある。一方で当院のPT部門の従来の卒後教育では指導者(以下:SV)の経験則による主観的な評価をもとに指導が行われており,指導するポイントが統一されていないことや,新人の能力を示す標準化された指標がないことが問題となっていた。そこで今回,当院の経験3年目までの新人PT(以下:新人)に対しOSCEを実施して当院の新人の臨床能力の特性を把握するとともに,客観的な評価指標を用いた教育方法が指導者と新人に及ぼす影響について調査したので以下に報告する。
【方法】
OSCEの対象は当院PT部門に所属する3年目以下のPTで,新卒者1名,2年目2名,3年目1名とした。OSCEは2013年7月から1ヶ月毎に全4回試行し,第1回と第3回は中枢疾患想定,第2回は整形疾患想定,第4回は第3回と同課題の補習とした。いずれも臨床で重要な起居・歩行介助を主課題とし,新人に規定時間内に解答させた。新人1名に対し模擬患者(以下:SP)1名,採点者数名という構成で試験を実施し,SPと採点者にはSVを含む経験4年以上のPTを配置した。採点者が使用する評価表は当院独自に考案し,身だしなみや問診,リスク管理を中心とした9項目からなる「患者への配慮・管理」領域と,PTの基本的技術10項目からなる「介助・誘導」領域を設定した。採点基準は優・良・可・不可の4段階を順に3・2・1・0点に配点し,複数の採点者から得られた得点の平均値を算出した。試験終了後即時に採点者とSPが新人に対しフィードバックを行い,後日改めてSVは担当する新人にOSCEの成績データを呈示して指導をした。全試験終了後,OSCEに参加したPT20名に対してアンケート調査を行い,18名から回答を得た。
【倫理的配慮,説明と同意】
本報告は当院倫理審査委員会の承認を得て実施した。また,新人のOSCEの成績データとPTからのアンケート結果を扱うことに関して対象者に説明し同意を得た。
【結果】
OSCEの結果より,「患者への配慮・管理」領域における得点の平均値の推移は,第1回1.74(±0.49),第2回1.93(±0.15),第3回1.56(±0.40),第4回1.70(±0.13)であった。「介助・誘導」領域は第1回0.70(±0.57),第2回1.30(±0.40),第3回1.29(±0.57),第4回1.23(±0.27)であった。PTへのアンケート調査では「OSCEは新人の臨床能力における強みを評価できる」と答えたのは56%であるのに対し「新人の弱みを評価できる」は72%であった。「OSCEは新人の臨床能力を客観的に評価できる」と答えたのは72%,「OSCEは新人教育の手段の一つとして有効」と答えたのは77%であった。また,記述回答でOSCEのメリットを問うと,「指導者にとって評価・指導・情報共有に有用」,「新人にとって具体的な現場のシミュレーションができる」という意見が多く,デメリットは「新人の精神的プレッシャー」や「多数の助言による混乱」,「関わるスタッフの労力」が多数を占めた。
【考察】
当院の新人は,「患者への配慮・管理」領域の得点が想定疾患によって変動したことから,多様な疾患に関する知識とそれに応じた行動が不得手である傾向が示された。また「介助・誘導」領域の得点は全般的に低く,基本的なPTの技能を重点的に指導する必要性が示された。OSCEの結果から新人全体の傾向が掴める上,対象者の個別のデータの細項目の得点を参照して具体的な「弱み」を検出することが可能であるため,SVは臨床現場で弱点強化型の指導を行うようになった。さらに新人はOSCEを通じて自己の弱点を認識し,自主練習をするようになった。OSCEが新人教育方法として有効であると認識された理由は,新人を統一基準で評価することで指導者は客観的に指導ポイントを選択でき,より具体的な指導ができる事であると考えられる。ただし今後のOSCE運用の課題として,3年分の新人を同じ試験で扱うことや試験環境における精神面への配慮は再検討の余地がある。また指導者には複数のPTから与えられる多様な助言を整理して新人へ伝える能力や,減点法の評価だけでなく新人の「強み」を見出す視点が必要であると思われた。
【理学療法学研究としての意義】
卒後教育におけるOSCEは統一された方法論が確立していないが,当報告のような臨床現場からの実績報告が集積することでOSCEを活用した新人教育方法の再考に繋がると考えている。