[1040] トレンデレンブルグテストの客観性を考える
キーワード:トレンデレンブルグテスト, 客観性, 経験年数
【はじめに,目的】
トレンデレンブルグテスト(以下TRテスト)は,1890年代にドイツの外科医,Friedrich Trendelenburgによって考案されたテスト方法であり,対象者に片脚立位をとらせ,遊脚側の骨盤が水平位を保てずに落下する場合を陽性と判断するものであり,主に中殿筋の筋力低下を評価する指標として理学療法士(以下PT)の中では一般的に使用されるテストである。しかしながら,結果についての判断は評価者の主観的な判断に委ねられる部分が多く,客観的なデータに基づく陽性,陰性の判断との検討はこれまでなされていない。本研究の目的は,TRテスト実施時の動画を用い,PTが動画を見て陽性または陰性を判断した結果と,動画解析ソフトを用い客観的に骨盤の動きを測定して判断した結果の相違について検討を行うものである。
【方法】
対象は下肢に大きな既往のない健常成人10名とし,Philipらの方法(1985)を参考としTRテストを実施した。対象者の両上前腸骨棘にマーキングを行い,平行棒内にて静止立位姿勢をとした後,開始指示と同時に両上肢を旨の前で組み,片脚の膝を軽度後方に屈曲させ片脚立位姿勢をとらせた。テスト時間は30秒とした。一連のテストの実施について,デジタルカメラにて動画を撮影した。なお,撮影は高さ90cmにて行い,ズームを用いず対象者の全体が入るように調整した。また,カメラが常に水平であることを確認した。PT20名(経験年数1-3年:15名[少経験群],7-12年:5名[多経験群])を対象とし,対象者全例の動画を確認させ,TRテストの結果について陰性・陽性を判断させた。また,得られた動画について動画解析ソフト(Frame Dias,DKH社製)を用い,テスト時における遊脚側上前腸骨棘の位置を経時的に観察し,最下点の位置を求めることでテスト結果について客観的に判断した。理学療法士20名の判断によるテスト結果及び動画解析ソフトを用いたテスト結果の両者について相違について検討を行い,個人毎の正答率を求めた。さらに,経験年数の違いによる差異を検討するため,少経験群,多経験群の2群にてそれぞれ平均の正答率を求めた。またPTに対し,TRテストの定義についての確認を合わせて行い,正答率との関連を検討した。
【倫理的配慮,説明と同意】
研究の実施に先立ち,対象者並びに評価を行うPTについて,本研究の主旨について事前に十分な説明を行い,書面による同意を得た。
【結果】
画像解析の結果,10名の動画のうちTRテスト陰性は7画像,陽性は3画像であった。PTによる評価との検討の結果,正答率は65~100%であった。経験年数の違いによる検討では,少経験群の正答率は平均70%,多経験群の正答率は86%であった。またTRテストの定義について,体幹の傾斜について論じているものが2名おり,その正答率の平均は45%であった。
【考察】
TRテストはPTにとって一般的なテスト方法であり,臨床場面においても多く利用されている。今回の結果から,動画解析ソフトを用いた客観的な測定と比較しても概ね良好な結果が得られたことから,主観的ではあるものの,PTの評価技術には正確性があると考えられる。また経験年数が多いほどテスト結果を正確に判断できている傾向が認められ,より正確なテストの実施には習熟が必要であることが示唆された。一方,動画によっては判断の分かれる結果となったものもあった。PTによる評価は一部分ではなく全体的な印象からも行われており,TRテストの判断基準としては遊脚側の骨盤の落下であるが,体幹部や膝関節での代償といった影響を受けたために異なる結果となった可能性が考えられる。さらにTRテストの定義についてもPT間で異なる認識を持つ場合もあり,テスト結果の判断に大きく影響していると思われる。臨床上しばしば行われるテストであるが,結果については多くの解釈ができるテストであるゆえに定義が曖昧になっていることが考えられ,正確な定義の確認が重要であると考えられる。評価はPTにとって非常に重要であり,より正確な結果を求めていく必要がある。今後の課題として,体幹部や膝関節をはじめとする他部位の運動についても併せて検討し,どのような条件で評価が分かれる結果となりうるのかを検討することが重要である。
【理学療法学研究としての意義】
理学療法評価はPTにとって非常に重要な要素の一つであり,その正確性に加え客観性が重要である。本研究は臨床上多く使われるテスト方法について,その客観性について検討したものであり,理学療法士による評価が客観性を伴うものであることを示す一研究として意義があると考えられる。
トレンデレンブルグテスト(以下TRテスト)は,1890年代にドイツの外科医,Friedrich Trendelenburgによって考案されたテスト方法であり,対象者に片脚立位をとらせ,遊脚側の骨盤が水平位を保てずに落下する場合を陽性と判断するものであり,主に中殿筋の筋力低下を評価する指標として理学療法士(以下PT)の中では一般的に使用されるテストである。しかしながら,結果についての判断は評価者の主観的な判断に委ねられる部分が多く,客観的なデータに基づく陽性,陰性の判断との検討はこれまでなされていない。本研究の目的は,TRテスト実施時の動画を用い,PTが動画を見て陽性または陰性を判断した結果と,動画解析ソフトを用い客観的に骨盤の動きを測定して判断した結果の相違について検討を行うものである。
【方法】
対象は下肢に大きな既往のない健常成人10名とし,Philipらの方法(1985)を参考としTRテストを実施した。対象者の両上前腸骨棘にマーキングを行い,平行棒内にて静止立位姿勢をとした後,開始指示と同時に両上肢を旨の前で組み,片脚の膝を軽度後方に屈曲させ片脚立位姿勢をとらせた。テスト時間は30秒とした。一連のテストの実施について,デジタルカメラにて動画を撮影した。なお,撮影は高さ90cmにて行い,ズームを用いず対象者の全体が入るように調整した。また,カメラが常に水平であることを確認した。PT20名(経験年数1-3年:15名[少経験群],7-12年:5名[多経験群])を対象とし,対象者全例の動画を確認させ,TRテストの結果について陰性・陽性を判断させた。また,得られた動画について動画解析ソフト(Frame Dias,DKH社製)を用い,テスト時における遊脚側上前腸骨棘の位置を経時的に観察し,最下点の位置を求めることでテスト結果について客観的に判断した。理学療法士20名の判断によるテスト結果及び動画解析ソフトを用いたテスト結果の両者について相違について検討を行い,個人毎の正答率を求めた。さらに,経験年数の違いによる差異を検討するため,少経験群,多経験群の2群にてそれぞれ平均の正答率を求めた。またPTに対し,TRテストの定義についての確認を合わせて行い,正答率との関連を検討した。
【倫理的配慮,説明と同意】
研究の実施に先立ち,対象者並びに評価を行うPTについて,本研究の主旨について事前に十分な説明を行い,書面による同意を得た。
【結果】
画像解析の結果,10名の動画のうちTRテスト陰性は7画像,陽性は3画像であった。PTによる評価との検討の結果,正答率は65~100%であった。経験年数の違いによる検討では,少経験群の正答率は平均70%,多経験群の正答率は86%であった。またTRテストの定義について,体幹の傾斜について論じているものが2名おり,その正答率の平均は45%であった。
【考察】
TRテストはPTにとって一般的なテスト方法であり,臨床場面においても多く利用されている。今回の結果から,動画解析ソフトを用いた客観的な測定と比較しても概ね良好な結果が得られたことから,主観的ではあるものの,PTの評価技術には正確性があると考えられる。また経験年数が多いほどテスト結果を正確に判断できている傾向が認められ,より正確なテストの実施には習熟が必要であることが示唆された。一方,動画によっては判断の分かれる結果となったものもあった。PTによる評価は一部分ではなく全体的な印象からも行われており,TRテストの判断基準としては遊脚側の骨盤の落下であるが,体幹部や膝関節での代償といった影響を受けたために異なる結果となった可能性が考えられる。さらにTRテストの定義についてもPT間で異なる認識を持つ場合もあり,テスト結果の判断に大きく影響していると思われる。臨床上しばしば行われるテストであるが,結果については多くの解釈ができるテストであるゆえに定義が曖昧になっていることが考えられ,正確な定義の確認が重要であると考えられる。評価はPTにとって非常に重要であり,より正確な結果を求めていく必要がある。今後の課題として,体幹部や膝関節をはじめとする他部位の運動についても併せて検討し,どのような条件で評価が分かれる結果となりうるのかを検討することが重要である。
【理学療法学研究としての意義】
理学療法評価はPTにとって非常に重要な要素の一つであり,その正確性に加え客観性が重要である。本研究は臨床上多く使われるテスト方法について,その客観性について検討したものであり,理学療法士による評価が客観性を伴うものであることを示す一研究として意義があると考えられる。