[1042] 人工膝関節全置換術後における立ち上がり機能に影響を及ぼす因子について
Keywords:TKA, 立ち上がり機能, 機能的因子
【目的】
人工膝関節全置換術(以下,TKA)は重篤な変形性膝関節症(以下,膝OA)患者に対して疼痛除去と運動機能の再建,ADL,QOL改善を目的として施行される。立ち上がり動作は多くの日常生活動作に関与する機能的な動作であり,Christiansenら(2010)は膝OAの病期の進行に伴って立ち上がり動作が制限されると報告しており,膝OA患者の立ち上がり機能に膝伸展筋力や疼痛が関連すると報告されている。これまで,TKA術後の立ち上がり機能に影響を与える因子について単相関から調査した報告はあるものの,多因子を用いた変数間の相互関連から立ち上がり機能に関連する因子を調査した報告は見当たらない。本研究の目的はTKA術後の立ち上がり機能に影響を与える因子について多因子から調査し,検討することである。
【方法】
対象はTKAを施行し,支え無しに立ち上がりが可能なTKA術後4週が経過した患者24名(男性:1名,女性:23名,平均年齢68.0歳,身長150.0cm,体重58.8kg,BMI24.9)とした。身体特性として,身長,体重,BMIを測定した。機能的因子として両側の膝の疼痛,ROM,筋力について測定した。疼痛は立ち上がり動作時の膝の痛みについてvisual analog scale(VAS)を用いて数値化した。ROMは膝屈曲および伸展についてゴニオメーターを用いて測定した。筋力はBiodex System 3を用いて,角速度180°/secにて膝屈曲および伸展の等速性peak torque値を算出し,各被験者の体重で除した値を使用した。立ち上がり機能を測定するためにFive Times Sit To Stand(以下,FTSTS)を実施した。座面の高さが43~49cmの椅子を用意し,背もたれに背中を付け,胸の前で腕を組んだ状態を開始肢位とし,「出来るだけ素早く」と指示し合図とともに5回の立ち座りを3回測定し平均値を算出した。FTSTSの値から,被験者を以下の2群に分類した。中央値(8.74秒)より,低値を示した12例を良好群,中央値より高値を示した12例を不良群とした。統計学的分析として両群間の各測定項目の比較に対応のないt検定,FTSTSを従属変数,両群間で有意差を認めた項目を独立変数としたロジスティック回帰分析を行った。有意水準は5%とした。
【説明と同意】
対象者にはヘルシンキ宣言に則り,検査実施前に研究についての十分な説明を行い,研究参加の同意ならびに結果の使用について了承を得た。
【結果】
2群間の比較で統計学的に有意差が認められた項目(良好群/不良群)は,非術側屈曲ROM(146±6.72/135±11.13),術側膝伸展筋力(0.4±0.07/0.34±0.05),術側膝屈曲筋力(0.31±0.14/0.2±0.05)(p<0.05)および非術側膝屈曲筋力(0.47±0.12/0.32±0.12)(p<0.01)だった。これら4項目を独立変数,FTSTSを従属変数としたロジスティック回帰分析の結果,立ち上がり機能を規定する因子として,非術側膝屈曲筋力が有意な項目(判別的中率83.3%,オッズ比3.246,p=0.003,95%信頼区間3.77-4.48)として選択された。
【考察】
本研究結果から,TKA術後4週において,非術側屈曲筋力は立ち上がり機能の有意な予測因子となった。Brownら(2010)はTKAを予定している膝OA患者の歩行や階段昇降に関与する因子について調査し,非術側の屈曲筋力が有意な予測因子だったことを報告しており,Miziner RLら(2005)は,術後3カ月の立ち上がり動作は筋力と有意な相関があると報告している。また,熊本ら(2008)は二関節筋であるハムストリングの筋活動が立ち上がり動作時の膝関節安定性の増大に関与すると報告しており,本研究結果と一致する。本研究結果より,TKA後4週では,非側術側屈曲筋力向上が立ち上がり機能に重要な因子である可能性が示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
立ち上がり動作は日常生活で頻度が高く,立ち上がりに関与する因子を同定することはADL指導や効果的なリハビリテーションを実施していくために重要であり,本研究結果は,有用な知見である。今後は,立ち上がり機能について,膝関節周囲筋筋力に対する介入研究を行い,移動動作能力改善を目的とした適切な理学療法を提供するための根拠を示していく必要がある。
人工膝関節全置換術(以下,TKA)は重篤な変形性膝関節症(以下,膝OA)患者に対して疼痛除去と運動機能の再建,ADL,QOL改善を目的として施行される。立ち上がり動作は多くの日常生活動作に関与する機能的な動作であり,Christiansenら(2010)は膝OAの病期の進行に伴って立ち上がり動作が制限されると報告しており,膝OA患者の立ち上がり機能に膝伸展筋力や疼痛が関連すると報告されている。これまで,TKA術後の立ち上がり機能に影響を与える因子について単相関から調査した報告はあるものの,多因子を用いた変数間の相互関連から立ち上がり機能に関連する因子を調査した報告は見当たらない。本研究の目的はTKA術後の立ち上がり機能に影響を与える因子について多因子から調査し,検討することである。
【方法】
対象はTKAを施行し,支え無しに立ち上がりが可能なTKA術後4週が経過した患者24名(男性:1名,女性:23名,平均年齢68.0歳,身長150.0cm,体重58.8kg,BMI24.9)とした。身体特性として,身長,体重,BMIを測定した。機能的因子として両側の膝の疼痛,ROM,筋力について測定した。疼痛は立ち上がり動作時の膝の痛みについてvisual analog scale(VAS)を用いて数値化した。ROMは膝屈曲および伸展についてゴニオメーターを用いて測定した。筋力はBiodex System 3を用いて,角速度180°/secにて膝屈曲および伸展の等速性peak torque値を算出し,各被験者の体重で除した値を使用した。立ち上がり機能を測定するためにFive Times Sit To Stand(以下,FTSTS)を実施した。座面の高さが43~49cmの椅子を用意し,背もたれに背中を付け,胸の前で腕を組んだ状態を開始肢位とし,「出来るだけ素早く」と指示し合図とともに5回の立ち座りを3回測定し平均値を算出した。FTSTSの値から,被験者を以下の2群に分類した。中央値(8.74秒)より,低値を示した12例を良好群,中央値より高値を示した12例を不良群とした。統計学的分析として両群間の各測定項目の比較に対応のないt検定,FTSTSを従属変数,両群間で有意差を認めた項目を独立変数としたロジスティック回帰分析を行った。有意水準は5%とした。
【説明と同意】
対象者にはヘルシンキ宣言に則り,検査実施前に研究についての十分な説明を行い,研究参加の同意ならびに結果の使用について了承を得た。
【結果】
2群間の比較で統計学的に有意差が認められた項目(良好群/不良群)は,非術側屈曲ROM(146±6.72/135±11.13),術側膝伸展筋力(0.4±0.07/0.34±0.05),術側膝屈曲筋力(0.31±0.14/0.2±0.05)(p<0.05)および非術側膝屈曲筋力(0.47±0.12/0.32±0.12)(p<0.01)だった。これら4項目を独立変数,FTSTSを従属変数としたロジスティック回帰分析の結果,立ち上がり機能を規定する因子として,非術側膝屈曲筋力が有意な項目(判別的中率83.3%,オッズ比3.246,p=0.003,95%信頼区間3.77-4.48)として選択された。
【考察】
本研究結果から,TKA術後4週において,非術側屈曲筋力は立ち上がり機能の有意な予測因子となった。Brownら(2010)はTKAを予定している膝OA患者の歩行や階段昇降に関与する因子について調査し,非術側の屈曲筋力が有意な予測因子だったことを報告しており,Miziner RLら(2005)は,術後3カ月の立ち上がり動作は筋力と有意な相関があると報告している。また,熊本ら(2008)は二関節筋であるハムストリングの筋活動が立ち上がり動作時の膝関節安定性の増大に関与すると報告しており,本研究結果と一致する。本研究結果より,TKA後4週では,非側術側屈曲筋力向上が立ち上がり機能に重要な因子である可能性が示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
立ち上がり動作は日常生活で頻度が高く,立ち上がりに関与する因子を同定することはADL指導や効果的なリハビリテーションを実施していくために重要であり,本研究結果は,有用な知見である。今後は,立ち上がり機能について,膝関節周囲筋筋力に対する介入研究を行い,移動動作能力改善を目的とした適切な理学療法を提供するための根拠を示していく必要がある。