[1044] 足部痛を伴った人工膝関節全置換術例の足部変形と足圧分布の特徴
キーワード:変形性膝関節症, 関節痛, 足圧分布
【はじめに,目的】高度の変形膝関節症(以下膝OA)に対しては人工膝関節全置換術(以下TKA)が広く行われている。しかし,手術前から足部痛を合併し,TKA後に膝部変形は改善した後に,足部痛が残存する例と消失する例をしばしば経験する。本研究では,TKA前後の足部痛,足の変形やアライメント,それに歩行時の足圧分布を比較して,高度の膝OAに合併していた足部痛の特徴を明らかにすることを目的とした。
【方法】TKAの予定となった片側性膝OA患者のうち,杖なしで20 m以上の歩行が可能であった22例(男性1例,女性21例,平均年齢78歳)を対象とした。すべての症例で術前,術後に足部痛の有無と部位,アーチ高率(足長に対する舟状骨の高さの比),大腿脛骨角(前額面上の大腿骨軸に対する脛骨軸のなす角度,FTA)を計測した。足圧分布解析システムF-scanを用い,3mの助走路を設けた10mの歩行路を快適速度歩行した時の足圧分布を測定した。足圧から踵部,足底中央部,中足骨部,母趾部,足趾部それぞれの部位の足圧の体重比(%PFP)を求めた。足圧中心軌跡からは,前後径の足長比(以下%Long)と,前額面での移動距離の足幅比(以下%Trans)を算出した。22例を術前の足部痛がみられた「足部痛あり群」と「足部痛なし群」に分け,さらに「足部痛あり群」を術後1年以上経過した時点での足部痛の有無により,「足部痛残存群」と「足部痛消失群」に細分した。術前,術後全体の統計学的分析には対応のあるt検定を用いた。足部残存群と足部痛消失群の術前後の比較にはMann-WhitneyのU検定を用いた。有意水準は5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】本研究はヘルシンキ宣言に従い,被験者には事前に本研究の目的,方法について十分な説明し,所定の書面にて研究参加の同意を得た。
【結果】術前,22例中10例(45%)が足部痛あり群,12例が足部痛なし群であった。足部痛は主に足関節領域に認められ,うち4例では足関節内側に限局しており,荷重時の痛みであった。足部痛あり群の全例で,足部痛なし群に比べアーチ高率は有意に低値で(11.7±2.3% vs 12.4±3.3%,p=0.0098)。術前の平均FTAは足部痛なし群に比べ足部痛あり群で有意に高値であった(182±3度vs 187.5±2度,p=0.0048)。足部痛あり群と足部痛なし群間で術前の%Long,%Trans,%PFPには差は見られなかった。術前から足部痛がなかった足部痛なし群の12例では%Long(46.7±12.4% vs 62.7±15.4%,p=0.0086),%Trans(13.5±8.6% vs 23.5±11.3%,p=0.023),踵部の%PFP(36.2±16.3 vs 62.4±11.0%,p=0.001)が有意に改善していた。足部痛あり群10例のうち4例では,術後に足部痛が残存しており,%Longと踵部,足底中央部の%PFPに有意な改善が見られたが,アーチ高率,%Trans,他部位の%PFPに変化が見られなかった。一方足部痛あり群のうち6例では,術後に足部痛が消失しており,術前に比べ術後でアーチ高率(11.8±2.1% vs 12.5±2.7%,p=0.0092),%Long(43.5±14.7% vs 60.2±16.3%,p=0.001),%Trans(12.5±11.4% vs 24.6±8.9%,p=0.0034),踵部の%PFP(50.7±18.5% vs 68.1±18.3%,p=0.0078)が有意に改善していた。術前の平均FTAは足部痛残存群と足部痛消失群で差が見られなかった。
【考察】足部痛を合併していた膝OA症例では,後脛骨筋不全の存在が疑われる足変形が全例に見られ,TKA後1年以上経過した時点では,約半数に足部変形と足部痛が残存し,残りの約半数では足部変形が改善し足部痛も消失していた。足圧分布のパターンも足部痛が残った例では膝OA特有のパターンが残存しており,足部痛が改善した群では正常近くまで改善していた。膝OAに合併している足部痛には後脛骨筋不全が関与しており,TKAにより膝のアライメントの矯正後に回復する可逆性の足部変形と,回復し難い不可逆性の足部変形が混在していると考えられた。
【理学療法学研究としての意義】膝OA患者では足部痛の合併に注意が必要であり,足部痛の背景として不可逆的な足部変形と可逆的な足部変形が混在していることが示された。今後はTKA術前後の治療で,足部痛にも配慮が必要と考えられ,理学療法学として有益な情報と思われる。
【方法】TKAの予定となった片側性膝OA患者のうち,杖なしで20 m以上の歩行が可能であった22例(男性1例,女性21例,平均年齢78歳)を対象とした。すべての症例で術前,術後に足部痛の有無と部位,アーチ高率(足長に対する舟状骨の高さの比),大腿脛骨角(前額面上の大腿骨軸に対する脛骨軸のなす角度,FTA)を計測した。足圧分布解析システムF-scanを用い,3mの助走路を設けた10mの歩行路を快適速度歩行した時の足圧分布を測定した。足圧から踵部,足底中央部,中足骨部,母趾部,足趾部それぞれの部位の足圧の体重比(%PFP)を求めた。足圧中心軌跡からは,前後径の足長比(以下%Long)と,前額面での移動距離の足幅比(以下%Trans)を算出した。22例を術前の足部痛がみられた「足部痛あり群」と「足部痛なし群」に分け,さらに「足部痛あり群」を術後1年以上経過した時点での足部痛の有無により,「足部痛残存群」と「足部痛消失群」に細分した。術前,術後全体の統計学的分析には対応のあるt検定を用いた。足部残存群と足部痛消失群の術前後の比較にはMann-WhitneyのU検定を用いた。有意水準は5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】本研究はヘルシンキ宣言に従い,被験者には事前に本研究の目的,方法について十分な説明し,所定の書面にて研究参加の同意を得た。
【結果】術前,22例中10例(45%)が足部痛あり群,12例が足部痛なし群であった。足部痛は主に足関節領域に認められ,うち4例では足関節内側に限局しており,荷重時の痛みであった。足部痛あり群の全例で,足部痛なし群に比べアーチ高率は有意に低値で(11.7±2.3% vs 12.4±3.3%,p=0.0098)。術前の平均FTAは足部痛なし群に比べ足部痛あり群で有意に高値であった(182±3度vs 187.5±2度,p=0.0048)。足部痛あり群と足部痛なし群間で術前の%Long,%Trans,%PFPには差は見られなかった。術前から足部痛がなかった足部痛なし群の12例では%Long(46.7±12.4% vs 62.7±15.4%,p=0.0086),%Trans(13.5±8.6% vs 23.5±11.3%,p=0.023),踵部の%PFP(36.2±16.3 vs 62.4±11.0%,p=0.001)が有意に改善していた。足部痛あり群10例のうち4例では,術後に足部痛が残存しており,%Longと踵部,足底中央部の%PFPに有意な改善が見られたが,アーチ高率,%Trans,他部位の%PFPに変化が見られなかった。一方足部痛あり群のうち6例では,術後に足部痛が消失しており,術前に比べ術後でアーチ高率(11.8±2.1% vs 12.5±2.7%,p=0.0092),%Long(43.5±14.7% vs 60.2±16.3%,p=0.001),%Trans(12.5±11.4% vs 24.6±8.9%,p=0.0034),踵部の%PFP(50.7±18.5% vs 68.1±18.3%,p=0.0078)が有意に改善していた。術前の平均FTAは足部痛残存群と足部痛消失群で差が見られなかった。
【考察】足部痛を合併していた膝OA症例では,後脛骨筋不全の存在が疑われる足変形が全例に見られ,TKA後1年以上経過した時点では,約半数に足部変形と足部痛が残存し,残りの約半数では足部変形が改善し足部痛も消失していた。足圧分布のパターンも足部痛が残った例では膝OA特有のパターンが残存しており,足部痛が改善した群では正常近くまで改善していた。膝OAに合併している足部痛には後脛骨筋不全が関与しており,TKAにより膝のアライメントの矯正後に回復する可逆性の足部変形と,回復し難い不可逆性の足部変形が混在していると考えられた。
【理学療法学研究としての意義】膝OA患者では足部痛の合併に注意が必要であり,足部痛の背景として不可逆的な足部変形と可逆的な足部変形が混在していることが示された。今後はTKA術前後の治療で,足部痛にも配慮が必要と考えられ,理学療法学として有益な情報と思われる。