第49回日本理学療法学術大会

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発表演題 ポスター » 運動器理学療法 ポスター

骨・関節23

2014年5月31日(土) 13:55 〜 14:45 ポスター会場 (運動器)

座長:境隆弘(大阪保健医療大学保健医療学部リハビリテーション学科理学療法学専攻)

運動器 ポスター

[1047] 大腿四頭筋エクササイズによる下肢静脈血流量の変化

比嘉俊文, 島袋雄樹, 大嶺啓, 濱崎直人 (沖縄リハビリテーションセンター病院)

キーワード:大腿四頭筋, 静脈還流, 血流動態

【はじめに,目的】大腿四頭筋エクササイズは変形性膝関節症患者をはじめ,下肢筋力増強運動としてエビデンスの高い治療の1つである。運動方法も簡便であり,セルフエクササイズとしても適しているといえる。梶山らは,大腿四頭筋等尺性収縮は大腿静脈血流を増加させると報告しており,深部静脈血栓症の予防として効果的と述べている。このことから,大腿四頭筋エクササイズは,筋力増強効果だけではなく,循環促進効果も有することが示唆されている。また,臨床上,膝痛を有する膝関節腫脹の症状軽減にも有効であることを経験している。しかし,先行研究では筋力増強運動時やストレッチ時の血流量の変化の報告はあるものの,循環血流量に着目した効果検証の報告は散見されない。本研究の目的は,下肢静脈血流量の増大に効果的な大腿四頭筋エクササイズの手法を検討することである。
【方法】対象は健常成人10名(男性10名,平均年齢27.2歳±3.3SD)とし,右下肢を被験肢とした。下肢静脈血流量の測定方法は,大腿静脈の血流速度,血管径をそれぞれ超音波診断装置(TOSHIBA社,Viamo SSA-640A)のドップラー法とBモード法で測定し,血流量を算出した[血流量=血流速度×(血管径/2)²×π×60]。今回検討する大腿四頭筋エクササイズは,大腿四頭筋等尺性収縮と,120bpmのリズムで収縮弛緩を繰り返す律動性収縮とした。収縮運動はともに直径15cmの軟性ボールを膝窩に置き,膝関節軽度屈曲位から伸展させる方法で実施した。測定手順は,まず仰臥位にて安静時大腿静脈血流量を測定した。次に等尺性収縮5秒間,律動性収縮5秒間の2条件の運動中の大腿静脈血流量の最大量を測定した。なお,2条件のエクササイズの順序は被験者毎にランダムに選択し実施した。安静時,等尺性収縮時,律動性収縮時の群間差は一元配置分散分析を行い,その後の検定としてTukey法を用いた多重比較検定を行った。有意水準は5%未満とした。検定には統計解析ソフト(SPSS15.0J)を用いた。
【倫理的配慮,説明と同意】被験者には本研究の趣旨を十分に説明し,同意を得て実施した。
【結果】安静時,等尺性収縮,律動性収縮間の有意な群間差を認めた(F=16.63,p<.01)。大腿静脈血流量は全例において等尺性収縮,律動性収縮は大腿静脈血流量を増加させる。安静時と比較して律動性収縮はオッズ比2.98±0.31 SEと特に有意な差を認め(p<.01),等尺性収縮もオッズ比1.97±0.19 SEと有意な差を認めた(p<.05)。さらに,律動性収縮は等尺性収縮と比較して有意な差を認めた(p<.05)。
【考察】本研究の結果から,大腿静脈血流量は等尺性収縮に比べ,律動性収縮が有意に増加させることがわかった。大腿四頭筋エクササイズとしての等尺性収縮,律動性収縮はどちらも大腿静脈血流量を増加させるが,律動性収縮がより効果的な運動といえる。このことは,持続的な収縮よりも収縮-弛緩のリズムを繰り返すことが血流量増加につながる可能性を示唆している。北村は,運動肢への血流量は運動強度とともに比例して増加し,最大運動強度の約70%を超えると低下するとしている。また,平野らは,膝疾患患者は筋収縮中の血流増加が少ないと報告しており,大腿四頭筋の過剰な活動は血流量の増加を阻害することが示唆される。下肢の腫脹や浮腫,阻血性疼痛に対して,律動性収縮を行うことで大腿静脈血流量を増加させ,症状軽減につながる可能性が示唆された。さらに,梶山らは,大腿四頭筋等尺性収縮は大腿静脈血流を増加させると報告しており,深部静脈血栓症の予防として効果的と述べている。今回の結果から,大腿四頭筋律動性収縮が深部静脈血栓の予防としてより最適な運動である可能性がある。今後は,症例を対象とした研究を重ねていくことで,静脈血流量増加を図るアプローチとして筋の律動性収縮の可能性を示していきたいと考える。
【理学療法学研究としての意義】腫脹,浮腫,痛みに対する理学療法において,血流動態を考えることは重要と考える。今回,大腿静脈血流量の増加を目的とした効果的な大腿四頭筋エクササイズは律動性収縮である可能性が示唆された。症例を対象とした効果検証を重ね,今後エビデンスを蓄積していくためにも,本研究から得られた結果はその一助となりうる。