[1048] 発声時の声の高さが側腹筋筋厚に与える影響―第2報―
Keywords:発声, 側腹筋, 超音波画像診断
【はじめに,目的】
ことばの音は,肺からの気流を操作することで生成され,発声発語のための動力源は肺からの呼気流によって生ずる力である。呼気を続けていくと,腹直筋,側腹筋(外腹斜筋,内腹斜筋,腹横筋)が働き,腹腔内圧を高め横隔膜を押し上げて呼気を助ける。ステトスンは音声学者としては初めて,発話時に呼吸筋の関与が大切であると述べており,発声の持続時間,声の高さ,強さが増大すると腹部の筋の作用も加わってくることが知られている。
我々は,第48回日本理学療法学術大会において,発声時の声の高さが側腹筋の筋厚にどのように影響を与えるのか超音波診断装置を用いて検証し,高い声を出すことにより,内腹斜筋,腹横筋の筋厚が厚くなる可能性があることを報告した。しかし,被験者数が少なかったことと,方法に一貫性がなかったことが課題として残った。そのため,今回被験者数を増やし,方法を統一して行ったため以下に報告する。
【方法】
対象は腰痛の既往のない健常人10名(男性8名,女性2名),年齢平均26.2±3.97歳で,側腹筋の筋厚は超音波画像診断装置(GE Healthcare社製LOGIQe)およびリニアプローブ(12MHz)を用い,検者間での差が生じないように,検者は1名とした。被験者をベッド上背臥位とし,ベッドから1mの高さに騒音計(サンコー社製小型デジタル騒音計RAMA11O08)を設置し,被験者は騒音計のモニターで声の大きさを確認できる状況で通常の高さでの発声(以下通常時),出来るだけ高音での発声(以下高音),出来るだけ低音(以下低音)での発声を,70dBの大きさで行い,発声開始から5秒時の筋厚(外腹斜筋・内腹斜筋・腹横筋)を測定,比較した。発声の言葉は「あ」,計測する側腹筋は右側,発声の順序はランダムとし,測定部位は腸骨稜と肋骨下縁の間で,床と平行な直線上とした。測定結果の各筋厚の比較には一元配置分散分析を用い,多重比較を行った。
【倫理的配慮,説明と同意】
被験者に対し,実験の目的および方法を十分に説明し,承諾を得た上で検証を行った。
【結果】
1.外腹斜筋
通常時の筋厚は7.15±1.5mm,低音の筋厚は6.88±1.68mm(変化率96.2±10.6%),高音の筋厚は7.26±1.67mm(変化率102.4±16.4%)であった。
2.内腹斜筋
通常時の筋厚は11.01±3.52mm,低音の筋厚は11.32±3.57mm(変化率101.7±9.8%),高音の筋厚は11.51±3.89mm(変化率105.6±20.6%)であった。
3.腹横筋
通常時の筋厚は4.47±1.33mm,低音の筋厚は4.95±1.42mm(変化率111.0±10.4%),高音の筋厚は5.66±1.54mm(変化率128.8±16.4%)であった。
多重比較の結果,すべての筋において通常時,低音,高音での筋厚に有意差は認められなかった。
【考察】
人間の発音や発声は,呼吸器系による空気が声帯ヒダの間を通るときにおこる声帯ヒダの振動によって生じる。音の高さと量は,空気が声帯ヒダを通るときの速度と圧力に左右され,それは呼気筋である腹部の筋の活動に影響を受ける。今回の検証では騒音計を使用し,音の量は一定に設定したため,高い声を出すためには呼気筋である腹部の筋の活動が増加することが予想された。
変化率では,高音での発声において,側腹筋の筋厚は通常時と比較すると増加する傾向があり,特に腹横筋において増加の値が大きくなった。腹横筋は腹部内圧の調整,腰背腱膜の緊張,仙腸関節の圧迫などを介して脊柱の安定化に寄与するとされている。また,脊柱安定化運動の方法は諸家により報告されているが,伊藤は出来る限り表層筋を収縮させず深層筋の単独収縮から動作を開始し,エクササイズの難易度が上昇するにつれて,表層筋の参加による動作の安定性を目指すことが目標となると述べている。これらのことをふまえると,高い声を出すことで深層筋である腹横筋の収縮が得られ,脊柱の安定性が向上することが可能となれば,患者の負担が少なく,容易に行える方法となるのではないかと考えられる。今回の検証の結果,高音,通常時,低音のそれぞれの発声において,有意差は認められなかったものの,継続して検証していく必要があると思われる。
【理学療法学研究としての意義】
今回,発声時の声の高さが側腹筋の筋厚に与える影響について,検査方法を統一し,被験者数を増やして再度検証した。発声により体幹の安定性が向上することが確認されれば,身体的な負担も少なく,容易に行え,患者自身が楽しみながら行える体幹トレーニングの一つとなるのではないかと考える。
ことばの音は,肺からの気流を操作することで生成され,発声発語のための動力源は肺からの呼気流によって生ずる力である。呼気を続けていくと,腹直筋,側腹筋(外腹斜筋,内腹斜筋,腹横筋)が働き,腹腔内圧を高め横隔膜を押し上げて呼気を助ける。ステトスンは音声学者としては初めて,発話時に呼吸筋の関与が大切であると述べており,発声の持続時間,声の高さ,強さが増大すると腹部の筋の作用も加わってくることが知られている。
我々は,第48回日本理学療法学術大会において,発声時の声の高さが側腹筋の筋厚にどのように影響を与えるのか超音波診断装置を用いて検証し,高い声を出すことにより,内腹斜筋,腹横筋の筋厚が厚くなる可能性があることを報告した。しかし,被験者数が少なかったことと,方法に一貫性がなかったことが課題として残った。そのため,今回被験者数を増やし,方法を統一して行ったため以下に報告する。
【方法】
対象は腰痛の既往のない健常人10名(男性8名,女性2名),年齢平均26.2±3.97歳で,側腹筋の筋厚は超音波画像診断装置(GE Healthcare社製LOGIQe)およびリニアプローブ(12MHz)を用い,検者間での差が生じないように,検者は1名とした。被験者をベッド上背臥位とし,ベッドから1mの高さに騒音計(サンコー社製小型デジタル騒音計RAMA11O08)を設置し,被験者は騒音計のモニターで声の大きさを確認できる状況で通常の高さでの発声(以下通常時),出来るだけ高音での発声(以下高音),出来るだけ低音(以下低音)での発声を,70dBの大きさで行い,発声開始から5秒時の筋厚(外腹斜筋・内腹斜筋・腹横筋)を測定,比較した。発声の言葉は「あ」,計測する側腹筋は右側,発声の順序はランダムとし,測定部位は腸骨稜と肋骨下縁の間で,床と平行な直線上とした。測定結果の各筋厚の比較には一元配置分散分析を用い,多重比較を行った。
【倫理的配慮,説明と同意】
被験者に対し,実験の目的および方法を十分に説明し,承諾を得た上で検証を行った。
【結果】
1.外腹斜筋
通常時の筋厚は7.15±1.5mm,低音の筋厚は6.88±1.68mm(変化率96.2±10.6%),高音の筋厚は7.26±1.67mm(変化率102.4±16.4%)であった。
2.内腹斜筋
通常時の筋厚は11.01±3.52mm,低音の筋厚は11.32±3.57mm(変化率101.7±9.8%),高音の筋厚は11.51±3.89mm(変化率105.6±20.6%)であった。
3.腹横筋
通常時の筋厚は4.47±1.33mm,低音の筋厚は4.95±1.42mm(変化率111.0±10.4%),高音の筋厚は5.66±1.54mm(変化率128.8±16.4%)であった。
多重比較の結果,すべての筋において通常時,低音,高音での筋厚に有意差は認められなかった。
【考察】
人間の発音や発声は,呼吸器系による空気が声帯ヒダの間を通るときにおこる声帯ヒダの振動によって生じる。音の高さと量は,空気が声帯ヒダを通るときの速度と圧力に左右され,それは呼気筋である腹部の筋の活動に影響を受ける。今回の検証では騒音計を使用し,音の量は一定に設定したため,高い声を出すためには呼気筋である腹部の筋の活動が増加することが予想された。
変化率では,高音での発声において,側腹筋の筋厚は通常時と比較すると増加する傾向があり,特に腹横筋において増加の値が大きくなった。腹横筋は腹部内圧の調整,腰背腱膜の緊張,仙腸関節の圧迫などを介して脊柱の安定化に寄与するとされている。また,脊柱安定化運動の方法は諸家により報告されているが,伊藤は出来る限り表層筋を収縮させず深層筋の単独収縮から動作を開始し,エクササイズの難易度が上昇するにつれて,表層筋の参加による動作の安定性を目指すことが目標となると述べている。これらのことをふまえると,高い声を出すことで深層筋である腹横筋の収縮が得られ,脊柱の安定性が向上することが可能となれば,患者の負担が少なく,容易に行える方法となるのではないかと考えられる。今回の検証の結果,高音,通常時,低音のそれぞれの発声において,有意差は認められなかったものの,継続して検証していく必要があると思われる。
【理学療法学研究としての意義】
今回,発声時の声の高さが側腹筋の筋厚に与える影響について,検査方法を統一し,被験者数を増やして再度検証した。発声により体幹の安定性が向上することが確認されれば,身体的な負担も少なく,容易に行え,患者自身が楽しみながら行える体幹トレーニングの一つとなるのではないかと考える。