[1053] 大腿骨近位部骨折術後患者の転帰先の調査
Keywords:大腿骨近位部骨折, 低栄養, 転帰
【はじめに,目的】
わが国における大腿骨近位部骨折を受傷する患者は年々増加し,2020年には約25万人に達すると推計される。大腿骨近位部骨折における予後不良因子として,近年では低栄養も因子として挙げられることが多々見られるようになった。特に高齢者は低栄養を認めることが多く,理学療法におけるリハビリテーション(以下,リハ)栄養管理の重要性を示唆している報告もあり,栄養サポートチーム(以下,NST)介入が推奨されている。
周術期管理においても栄養介入により大腿骨近位部骨折患者の死亡率の低下・血中蛋白質の回復・リハ期間の短縮が期待できると報告されているが臨床場面において栄養管理が行き届いていない場面も少なくはない。そのため,リハ栄養の観点から栄養状態などの全身管理の重要性を認識し介入していく必要がある。
今回,当院で大腿骨近位部骨折患者を対象に低栄養がリハ進行状態や転帰に対しどのように影響をきたしているかを後方視的に調査し検証した。
【方法】
2011年4月から2013年3月までの期間に当院に入院しリハを実施した大腿骨近位部骨折患者(頚部・転子部)の中から発症前生活が自宅,移動手段は歩行(T字杖,歩行器含む),観血的整復固定術を施行した98例(男性:17例,女性:81例,平均年齢81.9±10.7歳)を選出し対象とした。なお,入院中の死亡,転院・転科した6例は除外した。対象者を自宅退院した群をA群:80例,施設退院した群をB群:18例の2群に分類し,年齢,Body Math Index(以下,BMI),入院時・術後ヘモグロビン値(以下,Hb),入院時・術後血清アルブミン値(以下,Alb),入院時・術後C反応性タンパク(以下,CRP),歩行開始日,在院日数,発症前・退院時日常生活動作(以下,ADL),発症前・退院時移動手段について後方視的に調査,検討した。ADLは自立-修正自立,軽-中介助,重-全介助の3段階,移動手段は独歩もしくはT字杖,歩行器,車椅子の3段階に分類した。術後Alb,Hbは術後1日目,術後CRPは術後14日目のデータを抽出した。歩行開始日は手術から歩行開始した期間,在院日数は受傷から転帰までの期間を記録した。統計処理は対応のないt検定,U検定を用いた。その他,術後Alb・Hb・CRPを歩行開始日,在院日数,退院時ADL・移動手段を対象に回帰分析,相関係数を用いて解析した。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究を行うにあたり,個人情報の取り扱いは当院の規定に従った。
【結果】
対象を比較検討した結果,年齢(p<0.01),BMI(p<0.05),入院時Hb(p<0.05),術後Hb(p<0.05)は有意差が認められた。入院時Alb(p=0.09)やCRP(p=0.28)は両群間にて有意差が認められなかったが,術後Alb(p<0.05)はHbと同様に侵襲による影響が認められ,B群では術後CRP(p<0.05)が低下せず炎症所見の鎮静化が遅延していることが分かった。歩行開始日(p=0.1)や在院日数(p=0.26)共に両群間で有意差はなかったものの,ADLはA群:25.8%,B群:43.8%が介助量の増大し,移動手段はA群:25.8%,B群:46.9%に歩行能力低下が認められた。
その他,術後Albは歩行開始日(p<0.05,r=-0.25),在院日数(p<0.01,r=-0.33),退院時移動手段(p<0.01,r=-0.25),ADL(p<0.05,r=-0.23),転帰先(p<0.05,r=-0.22),術後CRPは退院時移動手段(p<0.05,r=0.24),ADL(p<0.05,r=0.22),転帰先(p<0.05,r=-0.25)に有意な相関が認められた。
【考察】
A群とB群を比較検討した結果,前述した高齢化による影響が立証され,入院時の栄養状態ではHb以外の項目において有意差が認められなかったことから,侵襲に伴う低栄養の状態によってリハ進行状況や転帰が変化することが分かった。今回,術後14日目以降も持続している炎症所見も全身状態の機能回復が遅延し予後不良となる因子であることが分かった。その他,術後AlbやCRPではリハ進行状況や退院時ADL,移動手段において有意な相関があることから,術後の血液データより予後予測をすることも可能であると考える。
リハ栄養における侵襲の障害期から異化期においては栄養状態の悪化防止が目標とされており,レジスタンストレーニングは禁忌であり,機能維持を目標とし離床や2METs以下の身体活動,日常生活活動を実施することが推奨されている。サルコペニアを伴っている場合が多い高齢者はより早期に侵襲に伴う低栄養を予測していくことやリハプランの検討も重要である。そのため,術前より低栄養が予測される症例に対しNSTにて栄養管理を共有していく必要があると考える。
【理学療法学研究としての意義】
大腿近位部骨折を発症した患者における低栄養によって予後不良とされる項目が明確化した。術前よりリハ栄養の観点から予後予測を行い栄養管理やリハプランの見直しができたことは意義があると考える。
わが国における大腿骨近位部骨折を受傷する患者は年々増加し,2020年には約25万人に達すると推計される。大腿骨近位部骨折における予後不良因子として,近年では低栄養も因子として挙げられることが多々見られるようになった。特に高齢者は低栄養を認めることが多く,理学療法におけるリハビリテーション(以下,リハ)栄養管理の重要性を示唆している報告もあり,栄養サポートチーム(以下,NST)介入が推奨されている。
周術期管理においても栄養介入により大腿骨近位部骨折患者の死亡率の低下・血中蛋白質の回復・リハ期間の短縮が期待できると報告されているが臨床場面において栄養管理が行き届いていない場面も少なくはない。そのため,リハ栄養の観点から栄養状態などの全身管理の重要性を認識し介入していく必要がある。
今回,当院で大腿骨近位部骨折患者を対象に低栄養がリハ進行状態や転帰に対しどのように影響をきたしているかを後方視的に調査し検証した。
【方法】
2011年4月から2013年3月までの期間に当院に入院しリハを実施した大腿骨近位部骨折患者(頚部・転子部)の中から発症前生活が自宅,移動手段は歩行(T字杖,歩行器含む),観血的整復固定術を施行した98例(男性:17例,女性:81例,平均年齢81.9±10.7歳)を選出し対象とした。なお,入院中の死亡,転院・転科した6例は除外した。対象者を自宅退院した群をA群:80例,施設退院した群をB群:18例の2群に分類し,年齢,Body Math Index(以下,BMI),入院時・術後ヘモグロビン値(以下,Hb),入院時・術後血清アルブミン値(以下,Alb),入院時・術後C反応性タンパク(以下,CRP),歩行開始日,在院日数,発症前・退院時日常生活動作(以下,ADL),発症前・退院時移動手段について後方視的に調査,検討した。ADLは自立-修正自立,軽-中介助,重-全介助の3段階,移動手段は独歩もしくはT字杖,歩行器,車椅子の3段階に分類した。術後Alb,Hbは術後1日目,術後CRPは術後14日目のデータを抽出した。歩行開始日は手術から歩行開始した期間,在院日数は受傷から転帰までの期間を記録した。統計処理は対応のないt検定,U検定を用いた。その他,術後Alb・Hb・CRPを歩行開始日,在院日数,退院時ADL・移動手段を対象に回帰分析,相関係数を用いて解析した。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究を行うにあたり,個人情報の取り扱いは当院の規定に従った。
【結果】
対象を比較検討した結果,年齢(p<0.01),BMI(p<0.05),入院時Hb(p<0.05),術後Hb(p<0.05)は有意差が認められた。入院時Alb(p=0.09)やCRP(p=0.28)は両群間にて有意差が認められなかったが,術後Alb(p<0.05)はHbと同様に侵襲による影響が認められ,B群では術後CRP(p<0.05)が低下せず炎症所見の鎮静化が遅延していることが分かった。歩行開始日(p=0.1)や在院日数(p=0.26)共に両群間で有意差はなかったものの,ADLはA群:25.8%,B群:43.8%が介助量の増大し,移動手段はA群:25.8%,B群:46.9%に歩行能力低下が認められた。
その他,術後Albは歩行開始日(p<0.05,r=-0.25),在院日数(p<0.01,r=-0.33),退院時移動手段(p<0.01,r=-0.25),ADL(p<0.05,r=-0.23),転帰先(p<0.05,r=-0.22),術後CRPは退院時移動手段(p<0.05,r=0.24),ADL(p<0.05,r=0.22),転帰先(p<0.05,r=-0.25)に有意な相関が認められた。
【考察】
A群とB群を比較検討した結果,前述した高齢化による影響が立証され,入院時の栄養状態ではHb以外の項目において有意差が認められなかったことから,侵襲に伴う低栄養の状態によってリハ進行状況や転帰が変化することが分かった。今回,術後14日目以降も持続している炎症所見も全身状態の機能回復が遅延し予後不良となる因子であることが分かった。その他,術後AlbやCRPではリハ進行状況や退院時ADL,移動手段において有意な相関があることから,術後の血液データより予後予測をすることも可能であると考える。
リハ栄養における侵襲の障害期から異化期においては栄養状態の悪化防止が目標とされており,レジスタンストレーニングは禁忌であり,機能維持を目標とし離床や2METs以下の身体活動,日常生活活動を実施することが推奨されている。サルコペニアを伴っている場合が多い高齢者はより早期に侵襲に伴う低栄養を予測していくことやリハプランの検討も重要である。そのため,術前より低栄養が予測される症例に対しNSTにて栄養管理を共有していく必要があると考える。
【理学療法学研究としての意義】
大腿近位部骨折を発症した患者における低栄養によって予後不良とされる項目が明確化した。術前よりリハ栄養の観点から予後予測を行い栄養管理やリハプランの見直しができたことは意義があると考える。