[1060] 地域高齢者の脊柱可動性と歩行の関係性および歩行指導の即時効果の検討(第2報)
キーワード:地域在住高齢者, 脊柱可動性, 歩行
【はじめに,目的】我々は,地域高齢者の歩行能力の維持改善につなげる目的で,高齢者の歩行と体幹姿勢や脊柱可動性との関係性を調査し,さらには即時効果のある歩行指導の検討を行った結果,脊柱のKyphosisの程度を表す直立角度や後屈角度が歩幅・歩行速度と相関性を示すことや,床反力鉛直成分(以下Fz)の2峰性の出現に歩幅と1歩時間が関係すること,さらに体幹の伸展を意識させる指導を行うだけで,即時的に歩幅,歩行速度,Fzの2峰性が改善することを明らかとし,第48回日本理学療法学術大会にて報告した。
今回は,これらの1年後の経年的変化を評価し,体幹姿勢や脊柱可動性の変化と,歩行や歩行指導の即時効果の変化との関連性を検討した。なお本研究は,日本学術振興会科学研究費の助成を受けて行った(課題番号:23700604)。
【方法】平成23・24年度の高知県室戸市の特定健診に参加し,杖などの歩行補助具を使用せず歩行をしている60歳以上の高齢者の方で,書面にて研究の趣旨を説明の上,署名により同意を得た延べ483名(平成23年度:282名,24年度:201名)中,2年間共に評価が行えた100名を対象とした。男性34名,女性66名,平均年齢69±5歳(61-86)。
脊柱可動性の評価は,Index社製Spinal mouseによって,立位での直立姿勢およびできる限りの前屈・後屈姿勢における脊柱が矢状面にて垂線となす角度を計測した。歩行評価は,ニッタ社製Gait scanを用いて,通常歩行および歩行指導として「胸を張って背筋を伸ばし,前を向いて歩いて下さい」という体幹姿勢を意識させた体幹指導の2条件下における,歩幅,1歩時間,歩行速度,Fzの2峰性の有無を評価した。なお,各評価項目の1年間の経年的変化は,平成23年度から24年度のデータを引いた差で算出した。
【倫理的配慮,説明と同意】本研究は,高知大学医学部倫理審査にて承認を受け,書面にて研究の趣旨を説明の上,署名により同意を得た。取得したデータは連結可能匿名化とし,個人情報の取り扱いに配慮した。
【結果】脊柱の角度の平均(H23/24年度)は,直立2.2±3.9°/3.1±3.3°,前屈97.2±17.0°/104.1±16.0°,後屈21.5±9.5°/24.4±8.5°といずれも対応のあるt検定にて有意差が認められた(直立p<0.05,前後屈p<0.01)。しかし歩行の評価では,全てにおいて有意差は認められなかった。さらに1年間の脊柱の各角度の変化と歩行データの変化の関係をPearsonの相関係数にて検討したが,全てにおいて相関性は認められなかった。
通常歩行時のFzの2峰性の有無(H23/24年度)は,それぞれ19名/18名が消失しており,体幹指導によりその内13名/15名が即時的に改善し,χ2乗検定にて両者の改善度に有意差は無かった。また1年間の変化は,2年共に2峰性が出現していたgreat群67名,23年度消失していたが24年度は出現したgood群15名,23年度出現していたが24年度に消失したpoor群14名,2年共に消失していたbad群4名であった。このうち変化があったgood群とpoor群の脊柱角度と歩行評価の1年間の変化値を対応のないt検定で検討した結果,1歩時間と歩行速度の変化値で有意差が認められ(1歩p<0.05,速度p<0.01),good群では1歩時間が短くなり歩行速度が速くなる傾向を示していた。
【考察】今回1年間の脊柱可動性や歩行能力の変化を検討した。脊柱の角度については全角度において有意差が認められたが,特に歩行と関連する直立・後屈角度に関しては平均約1~3°程度の変化であり,この有意差には意味がなく,角度に変化はないと判断する。また,歩行に関しても1年間で有意な変化は無く,歩行能力は維持されていた。しかし,高齢者の歩行状態を表す力学的指標として有用とされるFzの2峰性がH24年度から出現したgood群と消失したpoor群の比較にて,good群では1年前に比べ1歩時間が短く,歩行速度が速くなる傾向を示し,その変化がpoor群より有意に大きかった。昨年度の我々の検討から2峰性の出現に1歩時間が関係していたことから,good群にて2峰性が出現したのは,特に1歩時間の短縮による影響が考えられるが,今回の結果からはその短縮した因子の究明には至らなかった。
【理学療法学研究としての意義】本研究は,1年間継続して歩行と体幹姿勢や脊柱可動性との関係性を検討し,さらに歩行指導の即時効果を検討した結果,1年間の経年的変化では,体幹姿勢や脊柱可動性,歩行能力はほぼ維持されていることが解ったが,中には歩行能力変化によりFzの2峰性が変化するグループの存在も明らかとなった。今後はその原因を究明することで,より高齢者の歩行能力の維持改善に寄与するものと考える。
今回は,これらの1年後の経年的変化を評価し,体幹姿勢や脊柱可動性の変化と,歩行や歩行指導の即時効果の変化との関連性を検討した。なお本研究は,日本学術振興会科学研究費の助成を受けて行った(課題番号:23700604)。
【方法】平成23・24年度の高知県室戸市の特定健診に参加し,杖などの歩行補助具を使用せず歩行をしている60歳以上の高齢者の方で,書面にて研究の趣旨を説明の上,署名により同意を得た延べ483名(平成23年度:282名,24年度:201名)中,2年間共に評価が行えた100名を対象とした。男性34名,女性66名,平均年齢69±5歳(61-86)。
脊柱可動性の評価は,Index社製Spinal mouseによって,立位での直立姿勢およびできる限りの前屈・後屈姿勢における脊柱が矢状面にて垂線となす角度を計測した。歩行評価は,ニッタ社製Gait scanを用いて,通常歩行および歩行指導として「胸を張って背筋を伸ばし,前を向いて歩いて下さい」という体幹姿勢を意識させた体幹指導の2条件下における,歩幅,1歩時間,歩行速度,Fzの2峰性の有無を評価した。なお,各評価項目の1年間の経年的変化は,平成23年度から24年度のデータを引いた差で算出した。
【倫理的配慮,説明と同意】本研究は,高知大学医学部倫理審査にて承認を受け,書面にて研究の趣旨を説明の上,署名により同意を得た。取得したデータは連結可能匿名化とし,個人情報の取り扱いに配慮した。
【結果】脊柱の角度の平均(H23/24年度)は,直立2.2±3.9°/3.1±3.3°,前屈97.2±17.0°/104.1±16.0°,後屈21.5±9.5°/24.4±8.5°といずれも対応のあるt検定にて有意差が認められた(直立p<0.05,前後屈p<0.01)。しかし歩行の評価では,全てにおいて有意差は認められなかった。さらに1年間の脊柱の各角度の変化と歩行データの変化の関係をPearsonの相関係数にて検討したが,全てにおいて相関性は認められなかった。
通常歩行時のFzの2峰性の有無(H23/24年度)は,それぞれ19名/18名が消失しており,体幹指導によりその内13名/15名が即時的に改善し,χ2乗検定にて両者の改善度に有意差は無かった。また1年間の変化は,2年共に2峰性が出現していたgreat群67名,23年度消失していたが24年度は出現したgood群15名,23年度出現していたが24年度に消失したpoor群14名,2年共に消失していたbad群4名であった。このうち変化があったgood群とpoor群の脊柱角度と歩行評価の1年間の変化値を対応のないt検定で検討した結果,1歩時間と歩行速度の変化値で有意差が認められ(1歩p<0.05,速度p<0.01),good群では1歩時間が短くなり歩行速度が速くなる傾向を示していた。
【考察】今回1年間の脊柱可動性や歩行能力の変化を検討した。脊柱の角度については全角度において有意差が認められたが,特に歩行と関連する直立・後屈角度に関しては平均約1~3°程度の変化であり,この有意差には意味がなく,角度に変化はないと判断する。また,歩行に関しても1年間で有意な変化は無く,歩行能力は維持されていた。しかし,高齢者の歩行状態を表す力学的指標として有用とされるFzの2峰性がH24年度から出現したgood群と消失したpoor群の比較にて,good群では1年前に比べ1歩時間が短く,歩行速度が速くなる傾向を示し,その変化がpoor群より有意に大きかった。昨年度の我々の検討から2峰性の出現に1歩時間が関係していたことから,good群にて2峰性が出現したのは,特に1歩時間の短縮による影響が考えられるが,今回の結果からはその短縮した因子の究明には至らなかった。
【理学療法学研究としての意義】本研究は,1年間継続して歩行と体幹姿勢や脊柱可動性との関係性を検討し,さらに歩行指導の即時効果を検討した結果,1年間の経年的変化では,体幹姿勢や脊柱可動性,歩行能力はほぼ維持されていることが解ったが,中には歩行能力変化によりFzの2峰性が変化するグループの存在も明らかとなった。今後はその原因を究明することで,より高齢者の歩行能力の維持改善に寄与するものと考える。