[1064] 短時間の筋収縮停止はタンパク質分解とともに筋収縮構成タンパク質の合成を亢進させる
キーワード:筋萎縮, 廃用, 培養細胞
【はじめに,目的】
筋収縮低下はADL低下につながる筋萎縮を引き起こす。理学療法士にとって筋萎縮の予防は重要な課題であるが,そもそも筋収縮低下と筋萎縮との関係が十分に分かっていない。特に筋収縮低下の直後における現象は不明である。我々はこれまでに,筋細胞を電気刺激により周期的に収縮させた状態で培養し,刺激停止により収縮を除くと筋の横径が細くなる筋萎縮モデルを作製した。本研究の目的は,我々の作製した培養系筋萎縮モデルを用いて,筋収縮停止後のタンパク質分解や合成の変化を明らかにすることである。
【方法】
12日目ニワトリ胚の胸筋から採取した筋芽細胞を,コラーゲンコートをした培養皿に播種した。筋芽細胞が筋管細胞まで分化し,多くの横紋構造が観察できるようになる分化開始5日目の時点で電気刺激を加え,筋管細胞を周期的に収縮させた状態で培養した。二日後,電気刺激を中断し筋収縮を止めた状態でさらに培養を続け,これを筋萎縮モデルとした。なお,本モデルで48時間後には有意な筋の横径の減少を確認している。筋収縮停止から0,1,3,6,24時間後に筋管細胞をcell lysis bufferにより回収し,電気泳動法及びウエスタン・ブロット法を用い,ユビキチン・プロテアソーム系のタンパク質分解の指標となるk48ポリユビキチン鎖,オートファジー系のタンパク質分解の指標となるLC3-IIの発現量の変化を経時的に調べた。また,定量的リアルタイムPCR法により,筋を構成するTroponin-T,筋萎縮に関わるMuRF1,Atrogin-1のmRNA発現を,筋収縮停止から0,1,3,6,24時間後に調べた。タンパク質合成はSUnSET法を用いて調べた。
【倫理的配慮,説明と同意】
本実験は「研究機関等における動物実験等の実施に関する基本指針」および「動物実験の適正な実施に向けたガイドライン」を遵守し当大学の動物実験委員会の承認を得て行った(承認番号:024-030)。
【結果】
電気刺激による筋収縮停止から,わずか1時間後にはK48ポリユビキチン鎖,LC3-IIの発現上昇がみられ,ユビキチン・プロテアソーム系とオートファジー系のタンパク質分解の両方が亢進した。また,同時期に新生ペプチドの発現も上昇し,継続的な筋収縮中の1時間よりも,筋収縮停止後の最初の1時間において,タンパク質合成が上昇した。このタンパク質合成の上昇は,ユビキチン・プロテアソーム系によるタンパク質分解を抑制するE1抑制剤の添加によって抑えられた。筋収縮停止から24時間後には,タンパク質分解・合成ともに筋収縮中のレベルに戻る傾向がみられた。筋収縮停止後のmRNA発現を調べたところ,筋収縮停止から1時間では筋構成タンパク質であるTroponin-Tの発現が上昇する一方で,筋萎縮に関与するMuRF1,Atrogin-1には変化が見られなかった。一方,24時間後のTroponin-Tの発現は刺激停止直後のレベルまで低下し,6時間・24時間後のMuRF1,Atrogin-1は上昇する傾向がみられた。
【考察】
筋は萎縮する際,筋細胞内のタンパク質が分解されることが知られている。よって,筋萎縮の本質はタンパク質分解である。一方,分解されたタンパク質とは細胞にとってアミノ酸の供給でもある。アミノ酸はタンパク質を構成する原材料となるだけでなく,タンパク質の合成自体を促進することが報告されている(Sancak, 2010)。本研究において,我々の筋萎縮モデルでも,筋収縮停止から1時間で見られるユビキチン化を介したタンパク質分解が,同時期におこるタンパク質合成を促進させることがわかっている。これは,タンパク質分解による細胞内へのアミノ酸の供給が原因であると考えられるが,これを証明するにはさらなる研究が必要である。また,調べたmRNAのうち,筋収縮停止によって,まず筋構成タンパクのTroponin-Tの発現上昇がみられた。筋萎縮に関わるmRNAであるMuRF1,Atrogin-1の発現は,その後の継続的な筋収縮停止によって遅れて上昇がみられた。このことより,長期の筋収縮停止が,よく知られているように筋萎縮につながることを確認した一方で,筋収縮停止後早期に見られるタンパク質分解の上昇は,筋萎縮にかかわるよりもむしろ,筋構成タンパクの新生に関わっている可能性を示唆する結果となった。
【理学療法学研究としての意義】
筋収縮停止やそれによって引き起こされるタンパク質分解は,適度な時間であれば筋細胞の維持にとって陽性的に働くことが示唆された。本研究結果は,「適度な休憩」が筋細胞の維持にとって実際に有効であるということを分子レベルで証明する一助となる。
筋収縮低下はADL低下につながる筋萎縮を引き起こす。理学療法士にとって筋萎縮の予防は重要な課題であるが,そもそも筋収縮低下と筋萎縮との関係が十分に分かっていない。特に筋収縮低下の直後における現象は不明である。我々はこれまでに,筋細胞を電気刺激により周期的に収縮させた状態で培養し,刺激停止により収縮を除くと筋の横径が細くなる筋萎縮モデルを作製した。本研究の目的は,我々の作製した培養系筋萎縮モデルを用いて,筋収縮停止後のタンパク質分解や合成の変化を明らかにすることである。
【方法】
12日目ニワトリ胚の胸筋から採取した筋芽細胞を,コラーゲンコートをした培養皿に播種した。筋芽細胞が筋管細胞まで分化し,多くの横紋構造が観察できるようになる分化開始5日目の時点で電気刺激を加え,筋管細胞を周期的に収縮させた状態で培養した。二日後,電気刺激を中断し筋収縮を止めた状態でさらに培養を続け,これを筋萎縮モデルとした。なお,本モデルで48時間後には有意な筋の横径の減少を確認している。筋収縮停止から0,1,3,6,24時間後に筋管細胞をcell lysis bufferにより回収し,電気泳動法及びウエスタン・ブロット法を用い,ユビキチン・プロテアソーム系のタンパク質分解の指標となるk48ポリユビキチン鎖,オートファジー系のタンパク質分解の指標となるLC3-IIの発現量の変化を経時的に調べた。また,定量的リアルタイムPCR法により,筋を構成するTroponin-T,筋萎縮に関わるMuRF1,Atrogin-1のmRNA発現を,筋収縮停止から0,1,3,6,24時間後に調べた。タンパク質合成はSUnSET法を用いて調べた。
【倫理的配慮,説明と同意】
本実験は「研究機関等における動物実験等の実施に関する基本指針」および「動物実験の適正な実施に向けたガイドライン」を遵守し当大学の動物実験委員会の承認を得て行った(承認番号:024-030)。
【結果】
電気刺激による筋収縮停止から,わずか1時間後にはK48ポリユビキチン鎖,LC3-IIの発現上昇がみられ,ユビキチン・プロテアソーム系とオートファジー系のタンパク質分解の両方が亢進した。また,同時期に新生ペプチドの発現も上昇し,継続的な筋収縮中の1時間よりも,筋収縮停止後の最初の1時間において,タンパク質合成が上昇した。このタンパク質合成の上昇は,ユビキチン・プロテアソーム系によるタンパク質分解を抑制するE1抑制剤の添加によって抑えられた。筋収縮停止から24時間後には,タンパク質分解・合成ともに筋収縮中のレベルに戻る傾向がみられた。筋収縮停止後のmRNA発現を調べたところ,筋収縮停止から1時間では筋構成タンパク質であるTroponin-Tの発現が上昇する一方で,筋萎縮に関与するMuRF1,Atrogin-1には変化が見られなかった。一方,24時間後のTroponin-Tの発現は刺激停止直後のレベルまで低下し,6時間・24時間後のMuRF1,Atrogin-1は上昇する傾向がみられた。
【考察】
筋は萎縮する際,筋細胞内のタンパク質が分解されることが知られている。よって,筋萎縮の本質はタンパク質分解である。一方,分解されたタンパク質とは細胞にとってアミノ酸の供給でもある。アミノ酸はタンパク質を構成する原材料となるだけでなく,タンパク質の合成自体を促進することが報告されている(Sancak, 2010)。本研究において,我々の筋萎縮モデルでも,筋収縮停止から1時間で見られるユビキチン化を介したタンパク質分解が,同時期におこるタンパク質合成を促進させることがわかっている。これは,タンパク質分解による細胞内へのアミノ酸の供給が原因であると考えられるが,これを証明するにはさらなる研究が必要である。また,調べたmRNAのうち,筋収縮停止によって,まず筋構成タンパクのTroponin-Tの発現上昇がみられた。筋萎縮に関わるmRNAであるMuRF1,Atrogin-1の発現は,その後の継続的な筋収縮停止によって遅れて上昇がみられた。このことより,長期の筋収縮停止が,よく知られているように筋萎縮につながることを確認した一方で,筋収縮停止後早期に見られるタンパク質分解の上昇は,筋萎縮にかかわるよりもむしろ,筋構成タンパクの新生に関わっている可能性を示唆する結果となった。
【理学療法学研究としての意義】
筋収縮停止やそれによって引き起こされるタンパク質分解は,適度な時間であれば筋細胞の維持にとって陽性的に働くことが示唆された。本研究結果は,「適度な休憩」が筋細胞の維持にとって実際に有効であるということを分子レベルで証明する一助となる。