[1065] オートファジーによる蛋白質分解は,筋収縮減少の数時間後に起こる蛋白質合成の促進に関与しない
キーワード:筋萎縮, 廃用, 培養細胞
【はじめに,目的】ユビキチン・プロテアソーム系(UPS)とオートファジー系の蛋白質分解機構の亢進は,筋萎縮を引き起こす。ただ,この亢進は筋細胞内アミノ酸プールを増加させる。アミノ酸はmTOR経路を介して蛋白質合成を促進することが明らかになった(Sancak, 2010)。しかし,2つの蛋白質分解がそれぞれ,蛋白質合成の促進に関係しているのかどうかは不明である。我々はこれまでに,電気刺激を用いた筋収縮のコントロールにより,筋管細胞の細くなる培養系筋萎縮モデルを作製した。そこで本研究では,この培養系筋萎縮モデルを用い,オートファジーによる蛋白質分解が,蛋白質合成に及ぼす影響を調べることを目的とした。また,それが筋萎縮時の形態変化や,UPSによる蛋白質分解に及ぼす影響についても調べた。
【方法】対象はニワトリ胚由来の筋管細胞とした。筋管細胞に周期的な電気刺激を与えることで,筋収縮をコントロールした。培養5日目から電気刺激を2日間与えた後,電気刺激を止め,E64dとpepstatin Aを添加する群(inhibitor(+)群)と添加しない群(inhibitor(-)群)とを作製した。このE64dとpepstatin Aは,オートファジーの過程でオートファゴソームが形成された後に起こる,その内容物(蛋白質)の分解を抑制する。その後2日間培養した後,両群の筋管細胞横径を測定した。これに加えて,電気刺激を止めた直後,6,24時間培養した両群の筋蛋白質サンプルを採取した。そのサンプルで,LC3-II(オートファゴソームの数の指標),K48ポリユビキチン鎖(UPS活性の指標)をウエスタン・ブロット法にて解析した。加えて,SUnSET法(非放射性の蛋白質合成量測定法)を用いて,蛋白質合成量を解析した。統計には一元配置分散分析を用い,有意差を認めた場合には,多重比較検定にTukeyの方法を用いた。
【倫理的配慮,説明と同意】本実験は「研究機関等における動物実験等の実施に関する基本指針」および「動物実験の適正な実施に向けたガイドライン」を遵守し,当大学動物実験委員会の承認を得て行った。
【結果】電気刺激を止めた直後の筋管細胞横径(15.9±1.3μm:mean±SD)に比べ,inhibitor(+)群(13.1±1.4μm)とinhibitor(-)群(11.4±1.1μm)の横径は有意に小さかった(p<0.01)。さらに,inhibitor(+)群の横径は,inhibitor(-)群より有意に小さかった(p<0.05)。電気刺激を止めて6,24時間後におけるinhibitor(+)群のLC3-II発現量は,inhibitor(-)群よりも有意に多かった(p<0.01)。電気刺激を止めて6時間後における,inhibitor(+)群のK48ポリユビキチン鎖は,inhibitor(-)群よりも多かった。また,新生ペプチドの発現は,電気刺激を止めた直後に比べ1時間後では多く,両群間に差はなかった。
【考察】本培養系筋萎縮モデルにおける,E64dとpepstatin Aを加えた後のLC3-IIの発現量増加は,オートファゴソームの蓄積を裏付けている。すなわち,このことは,オートファジーによる蛋白質分解が抑制されたことを示している。このような条件下では,筋収縮の減少による筋萎縮をさらに促進させることがわかった。この現象は,in vivoでも起こることがわかっており(Masiero, 2009),本培養系筋萎縮モデルを用いれば,そのメカニズムを解明することが出来ると考える。また,オートファジーを阻害すると,これとは異なる機構であるUPSによる蛋白質分解が亢進することがわかった。オートファジー阻害による筋萎縮の促進には,このUPSによる蛋白質分解の亢進が関係しているかもしれないが,その詳細は不明であり,今後検討する必要がある。一方本研究室では,筋収縮減少の数時間後に起こるUPSによる蛋白質分解が,蛋白質合成を促進させることを報告している。しかし今回,もう一つの分解機構であるオートファジーによる蛋白質分解は,筋収縮減少の数時間後に起こる蛋白質合成の促進に関与しないことが明らかとなった。よって,オートファジーとUPSそれぞれの亢進で起こる筋細胞内のアミノ酸プール増加の役割は異なり,蛋白質合成の促進には主にUPSが関係していると考えられる。しかし,オートファジーの亢進によるその増加の役割については明らかになっておらず,今後さらに研究を進める必要がある。
【理学療法学研究としての意義】加齢やがん・神経変性疾患などの疾病において,オートファジーが抑制されているといわれている。よって,これらの条件下で筋萎縮を誘発する長期臥床やギプス固定などを行うと,通常以上に筋萎縮が促進されると考えられる。本培養系筋萎縮モデルを用いて,このメカニズムのさらなる解明を行うことで,その効果的な抑制方法,回復促進方法などの詳細な検討に萌芽する。
【方法】対象はニワトリ胚由来の筋管細胞とした。筋管細胞に周期的な電気刺激を与えることで,筋収縮をコントロールした。培養5日目から電気刺激を2日間与えた後,電気刺激を止め,E64dとpepstatin Aを添加する群(inhibitor(+)群)と添加しない群(inhibitor(-)群)とを作製した。このE64dとpepstatin Aは,オートファジーの過程でオートファゴソームが形成された後に起こる,その内容物(蛋白質)の分解を抑制する。その後2日間培養した後,両群の筋管細胞横径を測定した。これに加えて,電気刺激を止めた直後,6,24時間培養した両群の筋蛋白質サンプルを採取した。そのサンプルで,LC3-II(オートファゴソームの数の指標),K48ポリユビキチン鎖(UPS活性の指標)をウエスタン・ブロット法にて解析した。加えて,SUnSET法(非放射性の蛋白質合成量測定法)を用いて,蛋白質合成量を解析した。統計には一元配置分散分析を用い,有意差を認めた場合には,多重比較検定にTukeyの方法を用いた。
【倫理的配慮,説明と同意】本実験は「研究機関等における動物実験等の実施に関する基本指針」および「動物実験の適正な実施に向けたガイドライン」を遵守し,当大学動物実験委員会の承認を得て行った。
【結果】電気刺激を止めた直後の筋管細胞横径(15.9±1.3μm:mean±SD)に比べ,inhibitor(+)群(13.1±1.4μm)とinhibitor(-)群(11.4±1.1μm)の横径は有意に小さかった(p<0.01)。さらに,inhibitor(+)群の横径は,inhibitor(-)群より有意に小さかった(p<0.05)。電気刺激を止めて6,24時間後におけるinhibitor(+)群のLC3-II発現量は,inhibitor(-)群よりも有意に多かった(p<0.01)。電気刺激を止めて6時間後における,inhibitor(+)群のK48ポリユビキチン鎖は,inhibitor(-)群よりも多かった。また,新生ペプチドの発現は,電気刺激を止めた直後に比べ1時間後では多く,両群間に差はなかった。
【考察】本培養系筋萎縮モデルにおける,E64dとpepstatin Aを加えた後のLC3-IIの発現量増加は,オートファゴソームの蓄積を裏付けている。すなわち,このことは,オートファジーによる蛋白質分解が抑制されたことを示している。このような条件下では,筋収縮の減少による筋萎縮をさらに促進させることがわかった。この現象は,in vivoでも起こることがわかっており(Masiero, 2009),本培養系筋萎縮モデルを用いれば,そのメカニズムを解明することが出来ると考える。また,オートファジーを阻害すると,これとは異なる機構であるUPSによる蛋白質分解が亢進することがわかった。オートファジー阻害による筋萎縮の促進には,このUPSによる蛋白質分解の亢進が関係しているかもしれないが,その詳細は不明であり,今後検討する必要がある。一方本研究室では,筋収縮減少の数時間後に起こるUPSによる蛋白質分解が,蛋白質合成を促進させることを報告している。しかし今回,もう一つの分解機構であるオートファジーによる蛋白質分解は,筋収縮減少の数時間後に起こる蛋白質合成の促進に関与しないことが明らかとなった。よって,オートファジーとUPSそれぞれの亢進で起こる筋細胞内のアミノ酸プール増加の役割は異なり,蛋白質合成の促進には主にUPSが関係していると考えられる。しかし,オートファジーの亢進によるその増加の役割については明らかになっておらず,今後さらに研究を進める必要がある。
【理学療法学研究としての意義】加齢やがん・神経変性疾患などの疾病において,オートファジーが抑制されているといわれている。よって,これらの条件下で筋萎縮を誘発する長期臥床やギプス固定などを行うと,通常以上に筋萎縮が促進されると考えられる。本培養系筋萎縮モデルを用いて,このメカニズムのさらなる解明を行うことで,その効果的な抑制方法,回復促進方法などの詳細な検討に萌芽する。