[1067] 不活動に伴う酸化ストレス障害に対する荷重運動と抗酸化サプリメント併用が微小血管障害に及ぼす予防効果
Keywords:栄養サポート, 荷重, 毛細血管
【はじめに,目的】
長期臥床などの不活動は骨格筋における活性酸素種(ROS)の過剰産生を誘発し,筋萎縮や微小血管障害を引き起こす。また,ROSの増加は血管内皮細胞のアポトーシスやミトコンドリア機能障害を惹起するといわれている。我々は先行研究で抗酸化サプリメントであるアスタキサンチン(Ax)摂取による栄養サポートは,不活動による酸化ストレス障害を防ぎ,微小血管障害を予防することを報告した。一方,Ax摂取による栄養サポートのみでは筋萎縮を予防することはできなかった。毛細血管量は筋の活動量及び筋線維サイズに依存すると報告されており,荷重負荷などの運動により筋萎縮を予防することで,筋萎縮のみならず微小血管障害を予防できると考えた。一方,萎縮筋への荷重は炎症を惹起し,酸化ストレスを増加するという可能性がある。そこで,筋萎縮予防のための荷重運動に併用して,抗酸化サプリメントを摂取し,荷重運動による酸化ストレスを軽減することができれば,より効果的に廃用性筋萎縮及び微小血管障害を防ぐことができると仮説を立てた。本研究では廃用性筋萎縮に伴う微小血管障害に対する荷重運動の影響及び荷重運動と抗酸化サプリメントの併用効果について検証した。
【方法】
10週齢の雄性SDラット35匹を対照群,後肢非荷重群(HU),後肢非荷重+アスタキサンチン摂取群(HU+AX),後肢非荷重+間欠的荷重群(HU+IL),後肢非荷重+アスタキサンチン摂取+間欠的荷重群(HU+AX+IL)に区分した。アスタキサンチン(富士化学工業)は100mg/kg/日を経口投与し,荷重は1時間/日とした。2週間後にヒラメ筋を摘出し,ATPase染色から筋線維横断面積と筋線維タイプ比率,共焦点レーザー解析で毛細血管容積を測定した。また,酸化ストレスの指標として骨格筋内のROSとSOD-1を測定し,血管内皮細胞増殖因子(VEGF),及びVEGFの発現促進に関与し血管新生を誘導するとされるPGC-1αのタンパク質発現量をウェスタンブロッティングにより測定した。また,ミトコンドリア活性の指標としてコハク酸脱水素酵素(SDH)活性を分析した。得られた測定値の統計処理には一元配置分散分析とTukey法による多重比較検定を用い,有意水準は5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
全ての実験は所属施設における動物実験に関する指針に従い,動物実験委員会の承認を得たうえで実施した。
【結果】
HU群とHU+AX群の筋線維横断面積は対照群と比較して有意に低値を示したが,間欠的荷重を行ったHU+IL群とHU+AX+IL群はHU群と比較して有意に高値を示した。ROSとSOD-1は,HU群とHU+IL群では対照群と比較して有意に高値を示し,更にHU+IL群ではHU群と比較して有意に高値を示した。一方,Axを摂取したHU+AX群とHU+AX+IL群は対照群との間に有意差を認めなかった。毛細血管容積は,HU群とHU+IL群では対照群と比較して有意に低値を示し,血管退行を認めたが,HU+AX群とHU+AX+IL群は対照群との間に有意差を認めなかった。タイプI筋線維比率でも毛細血管容積の結果と同様の傾向を示した。PGC-1αの発現量は,HU群とHU+IL群では対照群と比較して有意に低値を示したが,Axを摂取したHU+AX群とHU+AX+IL群は対照群同様の発現を維持した。また,VEGFの発現量はAxを摂取したHU+AX群とHU+AX+IL群が,その他3群と比較して高値を示した。SDH活性は対照群と比較してHU群,HU+AX群,及びHU+IL群で低値を示した。一方,間欠的荷重とAx摂取を併用したHU+AX+IL群でのみ対照群同様に活性が維持された。
【考察】
不活動により骨格筋の酸化ストレスは増加し,筋萎縮と微小血管障害を生じた。1日1時間の荷重運動は筋萎縮を抑制したが,酸化ストレスの増加及びPGC-1α発現の減少を抑制できなかった。その結果,筋線維サイズの減少を抑制したにも拘らず微小血管障害が生じたと示唆される。一方,Ax摂取を併用することで,不活動に伴う酸化ストレスの増加を抑制し,PGC-1α発現が増加した。その結果,VEGF発現の増加及び血管形成が促されたと考えられる。また,PGC-1αはミトコンドリア機能に関与し,遅筋線維への移行を促すことから骨格筋代謝及びタイプI筋線維比率が維持された。これらの結果から荷重運動にAx摂取を併用することで,筋萎縮の抑制だけでなく骨格筋代謝を維持し,更に微小血管障害を予防したことが示された。
【理学療法学研究としての意義】
荷重にAx摂取を併用することで筋萎縮と微小血管障害を効率的に予防した本研究結果は,抗酸化サプリメントによる栄養サポートが運動療法の補助的手段になり,効果的な運動療法を行えることを示唆している点で意義があると考える。微小血管障害の予防は,骨格筋における酸素供給を維持し,筋持久力を維持するために重要であると考える。
長期臥床などの不活動は骨格筋における活性酸素種(ROS)の過剰産生を誘発し,筋萎縮や微小血管障害を引き起こす。また,ROSの増加は血管内皮細胞のアポトーシスやミトコンドリア機能障害を惹起するといわれている。我々は先行研究で抗酸化サプリメントであるアスタキサンチン(Ax)摂取による栄養サポートは,不活動による酸化ストレス障害を防ぎ,微小血管障害を予防することを報告した。一方,Ax摂取による栄養サポートのみでは筋萎縮を予防することはできなかった。毛細血管量は筋の活動量及び筋線維サイズに依存すると報告されており,荷重負荷などの運動により筋萎縮を予防することで,筋萎縮のみならず微小血管障害を予防できると考えた。一方,萎縮筋への荷重は炎症を惹起し,酸化ストレスを増加するという可能性がある。そこで,筋萎縮予防のための荷重運動に併用して,抗酸化サプリメントを摂取し,荷重運動による酸化ストレスを軽減することができれば,より効果的に廃用性筋萎縮及び微小血管障害を防ぐことができると仮説を立てた。本研究では廃用性筋萎縮に伴う微小血管障害に対する荷重運動の影響及び荷重運動と抗酸化サプリメントの併用効果について検証した。
【方法】
10週齢の雄性SDラット35匹を対照群,後肢非荷重群(HU),後肢非荷重+アスタキサンチン摂取群(HU+AX),後肢非荷重+間欠的荷重群(HU+IL),後肢非荷重+アスタキサンチン摂取+間欠的荷重群(HU+AX+IL)に区分した。アスタキサンチン(富士化学工業)は100mg/kg/日を経口投与し,荷重は1時間/日とした。2週間後にヒラメ筋を摘出し,ATPase染色から筋線維横断面積と筋線維タイプ比率,共焦点レーザー解析で毛細血管容積を測定した。また,酸化ストレスの指標として骨格筋内のROSとSOD-1を測定し,血管内皮細胞増殖因子(VEGF),及びVEGFの発現促進に関与し血管新生を誘導するとされるPGC-1αのタンパク質発現量をウェスタンブロッティングにより測定した。また,ミトコンドリア活性の指標としてコハク酸脱水素酵素(SDH)活性を分析した。得られた測定値の統計処理には一元配置分散分析とTukey法による多重比較検定を用い,有意水準は5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
全ての実験は所属施設における動物実験に関する指針に従い,動物実験委員会の承認を得たうえで実施した。
【結果】
HU群とHU+AX群の筋線維横断面積は対照群と比較して有意に低値を示したが,間欠的荷重を行ったHU+IL群とHU+AX+IL群はHU群と比較して有意に高値を示した。ROSとSOD-1は,HU群とHU+IL群では対照群と比較して有意に高値を示し,更にHU+IL群ではHU群と比較して有意に高値を示した。一方,Axを摂取したHU+AX群とHU+AX+IL群は対照群との間に有意差を認めなかった。毛細血管容積は,HU群とHU+IL群では対照群と比較して有意に低値を示し,血管退行を認めたが,HU+AX群とHU+AX+IL群は対照群との間に有意差を認めなかった。タイプI筋線維比率でも毛細血管容積の結果と同様の傾向を示した。PGC-1αの発現量は,HU群とHU+IL群では対照群と比較して有意に低値を示したが,Axを摂取したHU+AX群とHU+AX+IL群は対照群同様の発現を維持した。また,VEGFの発現量はAxを摂取したHU+AX群とHU+AX+IL群が,その他3群と比較して高値を示した。SDH活性は対照群と比較してHU群,HU+AX群,及びHU+IL群で低値を示した。一方,間欠的荷重とAx摂取を併用したHU+AX+IL群でのみ対照群同様に活性が維持された。
【考察】
不活動により骨格筋の酸化ストレスは増加し,筋萎縮と微小血管障害を生じた。1日1時間の荷重運動は筋萎縮を抑制したが,酸化ストレスの増加及びPGC-1α発現の減少を抑制できなかった。その結果,筋線維サイズの減少を抑制したにも拘らず微小血管障害が生じたと示唆される。一方,Ax摂取を併用することで,不活動に伴う酸化ストレスの増加を抑制し,PGC-1α発現が増加した。その結果,VEGF発現の増加及び血管形成が促されたと考えられる。また,PGC-1αはミトコンドリア機能に関与し,遅筋線維への移行を促すことから骨格筋代謝及びタイプI筋線維比率が維持された。これらの結果から荷重運動にAx摂取を併用することで,筋萎縮の抑制だけでなく骨格筋代謝を維持し,更に微小血管障害を予防したことが示された。
【理学療法学研究としての意義】
荷重にAx摂取を併用することで筋萎縮と微小血管障害を効率的に予防した本研究結果は,抗酸化サプリメントによる栄養サポートが運動療法の補助的手段になり,効果的な運動療法を行えることを示唆している点で意義があると考える。微小血管障害の予防は,骨格筋における酸素供給を維持し,筋持久力を維持するために重要であると考える。