第49回日本理学療法学術大会

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発表演題 セレクション » 内部障害理学療法 セレクション

循環

Sat. May 31, 2014 2:50 PM - 4:05 PM 第5会場 (3F 303)

座長:渡辺敏(聖マリアンナ医科大学病院リハビリテーション部), 木村雅彦(北里大学医療衛生学部リハビリテーション学科理学療法学専攻)

内部障害 セレクション

[1069] 術前のSOFA scoreは心大血管術後の人工呼吸器管理長期化の予測因子となる

亀井健太1, 安竹正樹1, 野々山忠芳1, 鯉江祐介1, 嶋田誠一郎1, 北出一平1, 久保田雅史1, 馬場久敏1, 腰地孝昭2 (1.福井大学医学部附属病院リハビリテーション部, 2.福井大学医学部附属病院心臓血管外科)

Keywords:心臓外科手術, 人工呼吸器, ウィーニング

【はじめに・目的】近年,手術手技や術後管理の向上により,術後の呼吸器離脱やその後の離床は早期から行われるようになってきている。一方で,手術適応患者の拡大や重症化に伴い,呼吸器管理が長期化する症例もみられ,患者の経過は大きく二極化していると考えられる。挿管時間の長期化は,術後の呼吸器合併症やICU滞在日数,入院日数の増加をもたらすとされる。さらに,リハビリテーションプログラムの遅延因子においても,以前は不整脈例が多かったのに対し,近年では長期人工呼吸器管理例の増加が多数報告されている。そのため,挿管時間が長期化する患者の特徴を把握することや,術前の指標から長期化のリスクを評価することは,臨床の一助になると考えられる。そこで,本研究の目的は,心大血管手術後に人工呼吸器管理が長期化する症例の特徴を後方視的に検討すること,および術前の指標の中から,術後人工呼吸器管理の長期化に関する予測因子を抽出し,さらにその因子のカットオフ値を検証することとした。
【方法】対象は2011年1月から2012年11月までに当院心臓血管外科にて開心術および大血管手術を行った124例とした。術後ICU入室24時間以内に挿管チューブを抜管できた群(C群:n=98)とできなかった群(L群:n=26)の2群に分け,カルテより後方視的にその特徴を解析した。検討項目は患者背景,動脈硬化危険因子や術後せん妄の有無,緊急手術か待機手術か,手術時間,カテコラミン投与期間,ICU滞在期間,鎮静期間,術後在院日数,入院時の推定糸球体濾過量(eGFR),左室駆出率(EF),端座位および歩行開始までの日数,転帰,退院時の運動機能と精神機能(厚生労働省による障害老人の日常生活自立度判定基準),血液検査データ,Sequential Organ Failure Assessment(SOFA)scoreとした。これらの項目に対し,Mann-WhitneyのU検定およびχ二乗検定を用いて両群の比較を行った。その中の術前に評価可能な項目で有意であったものに対し,多重ロジスティック回帰分析を行い,影響の強さを検証した。その後,最も影響が強いと考えられる因子について,Receiver Operating Characteristic(ROC)曲線を用いて,選択された項目のカットオフ値を算出した。
【倫理的配慮,説明と同意】本研究はヘルシンキ宣言および疫学研究に関する倫理指針を遵守した。
【結果】L群では有意に,手術時間,カテコラミン投与期間,ICU滞在期間,鎮静期間,術後在院日数,端座位および歩行開始までの日数が長く,また緊急手術や術後せん妄の割合が多かった(P<0.01)。手術前の要因としてL群では,eGFRやEF,白血球,SOFA score,血清クレアチニンが有意に低値(P<0.05)であり,糖尿病や喫煙などの動脈硬化危険因子を多く有していた。しかし,年齢や性別,退院時の運動機能,転帰に有意差は認めなかった。またこれら術前の因子において,多重ロジスティック回帰分析を行った結果,術前のSOFA scoreが最も強いリスクとして抽出され,オッズ比は3.6(95%信頼区間:2.0-6.7)であった。さらにROC曲線から,術前のSOFA score 1.5点(感度:76.9%,特異度:78.6%,AUC:0.84)がカットオフ値として算出された。
【考察】術後24時間以上の人工呼吸器管理を要する患者の特徴として,手術前の腎機能や心機能低下,脂質異常症や糖尿病などの合併症の存在,緊急手術であることが挙げられた。これらを要因として,長期呼吸器管理による全身状態の改善と安定化を必要とし,その結果,術後離床の遅延やせん妄の高い発生率,在院日数の長期化をもたらしたものと考えられた。しかし,退院時の運動機能では両群に有意差を認めておらず,このことは離床は遅れるものの,その後の介入により身体機能は改善する可能性を示すものである。また,SOFA scoreは,身近な項目を用いて重要臓器の障害度を数値化し,スコアの総和で重症度を表すもので,死亡率やICU退出の基準として用いられている。今回の我々の検討でも,術後24時間以上の挿管管理のリスクとして,術前のSOFAスコアが2点以上との結果が得られた。以上より,術前のSOFA scoreを評価することで,呼吸器合併症に対する予防的介入などこれからの臨床における一助になるものと考えられる。
【理学療法学研究としての意義】SOFA scoreは比較的評価の容易な項目が用いられた多臓器不全の重症度を評価するバッテリーであり,臨床での有用度は高い。術前に評価の可能な項目から術後の呼吸器管理の長期化を予測することにより,呼吸器合併症に対する予防的介入や必要な症例に対する重点的かつスムーズな介入が可能になるものと考えられる。