[1072] 入院期慢性心不全患者における臥床期間が退院時歩行能力に与える影響
キーワード:心不全, 臥床, 急性期
【はじめに,目的】
慢性心不全(CHF)患者は,CHFの増悪により入院加療となった際に,退院時の歩行能力が入院前と比較して低下する症例が多く存在する。我々は先行研究において,入院時腎機能障害の程度や理学療法開始時に得られた下肢筋力値が退院時の歩行能力と関連することを報告した(2012年)。一方で,高齢者では入院期間中の臥床により著しい下肢筋力や運動耐容能の低下を示すことが知られている。しかし,急性増悪にて入院加療となったCHF患者においてCHF加療中の臥床期間が退院時歩行能力に与える影響については明らかにされていない。本研究の目的は,急性増悪にて入院となったCHF患者の臥床期間が退院時歩行能力に与える影響を明らかにすることである。
【方法】
対象は,2009年1月から2011年6月までにCHFの増悪で入院加療となり,各診療科より理学療法依頼のあった連続254症例のうち,除外基準を満たさないCHF患者101症例である(76.7±11.4歳)。除外基準は,歩行障害の原因となる整形外科疾患もしくは中枢神経疾患,不安定狭心症,コントロールされていない重症不整脈,入院前に歩行が自立していない症例,および指示動作困難な認知症を有する場合とした。
我々は,年齢,入院時脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP),左室駆出率(LVEF),入院時推算糸球体濾過量(eGFR),入院からトイレ歩行獲得までの日数を臥床期間として診療録より後方視的に調査した。
さらに我々は,退院時の歩行能力より,連続500m歩行が可能であり介助無しで病棟内歩行が自立したものを自立群,自立不可能であったものを非自立群として,2群に分類した。
統計解析は,自立群であることを目的変数とする単変量ロジスティック回帰分析を,年齢,性別,BNP,LVEF,eGFRおよび臥床期間を説明変数として行った。その後に,単変量ロジスティクス回帰分析の結果,P<0.2であった説明変数を用いて,自立群であることを目的変数とする多変量ロジスティック回帰分析を行った。さらに,多変量ロジスティック回帰分析でP<0.05未満であった連続変数を用いてreceiver operating characteristic(ROC)曲線による分析を行い,感度,特異度,およびカットオフ値を算出した。統計ソフトにはSPSS ver.12.0Jを用いた。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は,当院の生命倫理委員会の承認(承認番号326号)を得て実施された。また,ヘルシンキ宣言に従って,対象者には研究の趣旨,内容および調査結果の取り扱いについて説明し同意を得た。
【結果】
自立群を目的変数とする単変量ロジスティック回帰分析の結果から,年齢(P<0.01),性別(P<0.05),eGFR(P<0.10)および臥床期間(P<0.01)が選択された。また,これらの説明変数を用いた多変量ロジスティック回帰分析の結果,性別(女性=1,P<0.01,オッズ比0.289,95%信頼区間:0.11-0.74),eGFR(P<0.05,オッズ比1.02,95%信頼区間:1.01-1.04)および,臥床期間(P<0.01,オッズ比0.86,95%信頼区間:0.78-0.94)が自立群であることを予測する因子として抽出された。
自立群であることを状態変数とするROC曲線から得られたカットオフ値は,eGFRは59.3 mL/min/1.73m2(曲線下面積0.65,P<0.01,感度63.6%,特異度34.8%),臥床期間は4.5日(曲線下面積0.76,P<0.01,感度82.2%,特異度40.0%)であった。なお,性別,eGFR,臥床期間を用いた多変量によるROC曲線から得られたカットオフ値は,-1.241×性別(女性=1)+0.020×eGFR-0.156×臥床期間+0.775=0.34(曲線下面積0.81,P<0.01,感度76.4%,特異度22.2%)であった。
【考察】
急性増悪にて入院となったCHF患者では,加療による臥床期間が独立した退院時の歩行能力の規定因子であることが明らかとなり,トイレ歩行までにおよそ5日以上を要した場合は,退院時の歩行自立度が制限される可能性が高まることが示された。さらに,臥床期間のみならず,入院時の腎機能障害の程度や性別を加味することにより,より高い感度で退院時の歩行自立度が予測できることが明らかとなった。以上より,入院期の理学療法プログラム作成する際には臥床期間が長期となった症例に対する対策を講じる必要性が示された。
【理学療法学研究としての意義】
CHF患者の退院時の歩行能力に関連する因子ついて,入院期の理学療法プログラムおよびゴール設定の上で有用な知見が得られた研究である。
慢性心不全(CHF)患者は,CHFの増悪により入院加療となった際に,退院時の歩行能力が入院前と比較して低下する症例が多く存在する。我々は先行研究において,入院時腎機能障害の程度や理学療法開始時に得られた下肢筋力値が退院時の歩行能力と関連することを報告した(2012年)。一方で,高齢者では入院期間中の臥床により著しい下肢筋力や運動耐容能の低下を示すことが知られている。しかし,急性増悪にて入院加療となったCHF患者においてCHF加療中の臥床期間が退院時歩行能力に与える影響については明らかにされていない。本研究の目的は,急性増悪にて入院となったCHF患者の臥床期間が退院時歩行能力に与える影響を明らかにすることである。
【方法】
対象は,2009年1月から2011年6月までにCHFの増悪で入院加療となり,各診療科より理学療法依頼のあった連続254症例のうち,除外基準を満たさないCHF患者101症例である(76.7±11.4歳)。除外基準は,歩行障害の原因となる整形外科疾患もしくは中枢神経疾患,不安定狭心症,コントロールされていない重症不整脈,入院前に歩行が自立していない症例,および指示動作困難な認知症を有する場合とした。
我々は,年齢,入院時脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP),左室駆出率(LVEF),入院時推算糸球体濾過量(eGFR),入院からトイレ歩行獲得までの日数を臥床期間として診療録より後方視的に調査した。
さらに我々は,退院時の歩行能力より,連続500m歩行が可能であり介助無しで病棟内歩行が自立したものを自立群,自立不可能であったものを非自立群として,2群に分類した。
統計解析は,自立群であることを目的変数とする単変量ロジスティック回帰分析を,年齢,性別,BNP,LVEF,eGFRおよび臥床期間を説明変数として行った。その後に,単変量ロジスティクス回帰分析の結果,P<0.2であった説明変数を用いて,自立群であることを目的変数とする多変量ロジスティック回帰分析を行った。さらに,多変量ロジスティック回帰分析でP<0.05未満であった連続変数を用いてreceiver operating characteristic(ROC)曲線による分析を行い,感度,特異度,およびカットオフ値を算出した。統計ソフトにはSPSS ver.12.0Jを用いた。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は,当院の生命倫理委員会の承認(承認番号326号)を得て実施された。また,ヘルシンキ宣言に従って,対象者には研究の趣旨,内容および調査結果の取り扱いについて説明し同意を得た。
【結果】
自立群を目的変数とする単変量ロジスティック回帰分析の結果から,年齢(P<0.01),性別(P<0.05),eGFR(P<0.10)および臥床期間(P<0.01)が選択された。また,これらの説明変数を用いた多変量ロジスティック回帰分析の結果,性別(女性=1,P<0.01,オッズ比0.289,95%信頼区間:0.11-0.74),eGFR(P<0.05,オッズ比1.02,95%信頼区間:1.01-1.04)および,臥床期間(P<0.01,オッズ比0.86,95%信頼区間:0.78-0.94)が自立群であることを予測する因子として抽出された。
自立群であることを状態変数とするROC曲線から得られたカットオフ値は,eGFRは59.3 mL/min/1.73m2(曲線下面積0.65,P<0.01,感度63.6%,特異度34.8%),臥床期間は4.5日(曲線下面積0.76,P<0.01,感度82.2%,特異度40.0%)であった。なお,性別,eGFR,臥床期間を用いた多変量によるROC曲線から得られたカットオフ値は,-1.241×性別(女性=1)+0.020×eGFR-0.156×臥床期間+0.775=0.34(曲線下面積0.81,P<0.01,感度76.4%,特異度22.2%)であった。
【考察】
急性増悪にて入院となったCHF患者では,加療による臥床期間が独立した退院時の歩行能力の規定因子であることが明らかとなり,トイレ歩行までにおよそ5日以上を要した場合は,退院時の歩行自立度が制限される可能性が高まることが示された。さらに,臥床期間のみならず,入院時の腎機能障害の程度や性別を加味することにより,より高い感度で退院時の歩行自立度が予測できることが明らかとなった。以上より,入院期の理学療法プログラム作成する際には臥床期間が長期となった症例に対する対策を講じる必要性が示された。
【理学療法学研究としての意義】
CHF患者の退院時の歩行能力に関連する因子ついて,入院期の理学療法プログラムおよびゴール設定の上で有用な知見が得られた研究である。