第49回日本理学療法学術大会

講演情報

発表演題 セレクション » 生活環境支援理学療法 セレクション

福祉用具・地域在宅1

2014年5月31日(土) 14:50 〜 16:05 第6会場 (3F 304)

座長:宮田昌司(医療法人社団輝生会本部教育研修局)

生活環境支援 セレクション

[1076] 理学療法士・作業療法士の住宅改善におけるフォローアップに影響を与える要因

角田友紀1, 蛭間基夫2, 中島明子3, 鈴木浩4 (1.沼田脳神経外科循環器科病院, 2.群馬パース大学, 3.和洋女子大学, 4.福島大学)

キーワード:自宅訪問, 地域, 住宅

【はじめに】他領域を含めて住宅改善におけるPT・OTの役割や専門性の重要性が複数報告されている。一方で他領域の専門職から住宅改善におけるPT・OTとの連携の困難さやフォローアップ(以下,FU)に不参加であることも同時に報告されている。このような状況は住宅改善におけるPT・OTのニーズの減少を招き,PT・OTの職域の狭小化に結びつく可能性がある。そこで,本報告ではPT・OTに対する全国調査から住宅改善後のFUや自宅訪問に影響する要因を明らかにするものである。
【方法】対象は日本理学療法士協会及び日本作業療法士協会の各名簿(09年度)に掲載されていた中から自宅会員を除いて無作為に抽出したPT3,795人,OT2,094人である。調査の期間は2010年8月初めから2ヶ月で,質問紙によるアンケート調査を実施し,調査票を郵送にて配布,回収した。有効回収数はPT1,529人(回収率40.3%),OT785人(同率37.5%)であった。調査結果は住宅改善の介入経験があるPT・OT1,693人(PT1,163人,OT530人)の中でFUの実態が明らかであった1,643人を後述の三群に分け,クロス集計により比較,分析した。
【倫理的配慮,説明と同意】本調査の主旨に理解を得られた場合に調査票を返信して頂くことを記載した依頼文を調査票とともに配布した。また,本研究は和洋女子大学ヒトを対象とする生物学的研究・疫学的研究に関する倫理委員会から承認を受け実施した。
【結果】1.住宅改善後のFUの方法に関して直接対象者の自宅訪問によって行う場合が多いPT・OT295人(訪問群),対象者や他職種から情報収集するだけの場合が多いPT・OT1,061人(聴取群),FUしない場合が多いPT・OT287人(未実施群)に大別された。2.勤務機関は三群とも「病院」(訪問群46.1%,聴取群73.0%,未実施群88.9%)の割合が最も高かった。訪問群では「訪問系機関」の割合が他二群が約1.0%であるのに対して18.0%だった。3.日常業務の主対象者として訪問群は「在宅生活者」(32.2%),聴取群は「回復期患者」(29.2%),未実施群は「急性期患者」(40.1%)の割合が各々最も高かった。4.住宅改善に介入した対象は,それまで治療を「自分が直接担当」した者の割合が三群とも最も高かった(訪問群96.6%,聴取群98.1%,未実施群97.6%)。訪問群では「リハ部門以外の紹介」(19.0%)や「職場以外から紹介」(20.0%)された者の割合が他二群より高かった。5.住宅改善における苦慮,困難事項は「自身の知識・技術不足」(訪問群76.6%,聴取群79.0%,未実施群85.0%),「住宅改善に関する業務時間不足」(訪問群54.2%,聴取群68.6%,未実施群65.2%)の割合が三群とも上位だった。また,「住宅改善の収益が少ない」の割合は訪問群23.4%,聴取群31.4%,未実施群26.8%だった。6.FUの必要性に関する意識は,訪問群は「必ず行う」(73.9%)の割合が最も高かったが,他二群では「対象者に応じて行う」(聴取群53.3%,未実施群65.2%)の割合が最も高かった。7.理想的なFUの方法は三群とも「自宅訪問」(訪問群92.9%,聴取群65.5%,未実施群51.6%)の割合が最も高かった。
【考察】住宅改善後のFUは工事状況の確認とともに,新しい環境における動作や生活指導の重要な支援である。また,PT・OTにとって実施した住宅改善の効果判定の機会でもあり,その具体的方法として実際の状況を直接確認するための自宅訪問の必要性は高い。このような中で住宅改善の経験のあるPT・OTにおいてFUを自宅訪問により行うことが多い訪問群は17.4%に留まっている。調査結果から三群ともFUの実施やその際の自宅訪問を重視することは明らかになったが,その意識に格差もある。また,聴取群及び未実施群では現在実施しているFUの方法と理想とするFUの方法に乖離が生じている。これらの差や乖離の背景として,訪問群は勤務機関が訪問系機関が多く,主対象者が在宅生活者が中心で,周囲から住宅改善の紹介が多いといった勤務環境に特徴を有している。調査に示された苦慮,困難事項が三群とも同傾向にある中では,訪問群が他二群と比較すると住宅改善以外の地域や在宅における支援に介入しやすい条件がFUの実態に影響を及ぼしていることが示唆された。従って,自らがFUの実施や具体的方法に制約があるPT・OTでは支援の質を担保するために,訪問群と連携できる環境整備が求められる。ただし,FUは効果判定を通してPT・OTの住宅改善における知識や技術の向上の機会となるため,他の方法でどのようにこれらに対応するのかといった事項に関しては今後の検討課題となった。また,このようなPT・OTの実態に関して他領域に啓発する具体的な方法についても今後の課題となった。
【理学療法学研究としての意義】住宅改善におけるFUの実施に影響を与える要因を明らかにし,今後のこれらの促進について検討する視点を明らかにした。