第49回日本理学療法学術大会

講演情報

発表演題 セレクション » 生活環境支援理学療法 セレクション

福祉用具・地域在宅1

2014年5月31日(土) 14:50 〜 16:05 第6会場 (3F 304)

座長:宮田昌司(医療法人社団輝生会本部教育研修局)

生活環境支援 セレクション

[1077] 要支援から要介護状態への移行に影響を及ぼす運動機能の検討

波戸真之介1, 鈴川芽久美2, 林悠太1, 今田樹志1, 小林修1, 秋野徹1, 島田裕之3 (1.株式会社ツクイ, 2.人間総合科学大学, 3.国立長寿医療研究センター)

キーワード:要介護, 縦断研究, 運動機能

【はじめに,目的】
我が国の介護保険は要介護者への介護給付に加えて,「予防」の概念を取り入れた要支援者に対する予防給付を導入している。理学療法士として介護予防を推進するうえで,運動療法が適用される機会は多く,どのような運動機能が要介護状態に陥る原因として重要か明らかにする必要性は高い。牧迫らによって,地域在住の後期高齢者における歩行速度は将来の新規要介護認定の発生に影響を与えることなどが報告されているが,現場ではすでに要支援認定を受けた高齢者の運動機能が要介護認定といった重度化への移行に及ぼす影響が十分明らかになっていない。そこで本研究の目的は,2年間の追跡調査によって要支援から要介護への移行に影響を与える運動機能を検討することとした。
【方法】
対象は2006年9月から2011年9月の間で全国のデイサービスを利用し,その後2年間の追跡調査が可能であった要支援高齢者1218名(平均年齢82.1±6.2歳,男性311名,女性907名)とした。ベースラインにおける調査は,握力,Chair Stand Test- 5 times(CST),開眼片脚立ち時間,6m歩行速度,Timed Up and Go(TUG)を測定した。また,ベースラインより2年間,毎月の要介護度を追跡調査した。統計学的解析は,要支援から要介護への移行に各調査項目が及ぼす影響を検討するため,Cox比例ハザード回帰分析を実施した。独立変数はベースラインにおける年齢,性別,要介護度,握力,CST,開眼片脚立ち時間,歩行速度,TUGとした。要介護への移行に有意に影響を与えるとして抽出された変数に関してはハザード比を算出した。また,各運動機能検査の結果について四分位を基準として4群に分類し,要介護への移行率曲線を群間で比較するため,Log-rank検定を実施した。なお,各解析における有意水準は5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
対象者にはヘルシンキ宣言に沿って研究の主旨および目的の説明を行い,同意を得た。なお本研究は国立長寿医療研究センター倫理・利益相反委員会の承認を受けて実施した。
【結果】
2年間の追跡調査期間で,要支援から要介護に移行したのは558名(46%)であった。Cox比例ハザード回帰分析により,要支援から要介護への移行に有意に影響を及ぼす変数として抽出されたのは,性別(HR:0.51,95%CI:0.41-0.65),ベースラインにおける要介護度(HR:1.36,95%CI:1.15-1.62),握力(HR:0.96,95%CI:0.95-0.98),TUG(HR:1.02,95%CI:1.01-1.03)であった。握力とTUGに関して,四分位を基準として結果が良好な順にIからIV群に分類し,Log-rank検定により要介護移行の発生率曲線について群間の比較をしたところ,握力が最も低下しているIV群(男性:21kg未満,女性:12kg未満)はそれよりも高いI~III群と比べて,要介護度への移行率が有意に高いことが示された。また,I~III群間ではいずれの組み合わせにおいても有意差が認められなかった。TUGは,最も低下しているIV群(男性:17.1秒以上,女性:19.1秒以上)はI群(男性:11.1秒未満,女性11.6秒未満)およびII群(男性11.1秒以上13.4秒未満,女性:11.6秒以上14.3秒未満)と比べ有意に要介護への移行率が高いことが認められた。また握力同様,I~III群間ではいずれの組み合わせにおいても有意差が認められなかった。
【考察】
要支援から要介護への移行に影響を及ぼす要因として,運動機能は握力とTUGが抽出された。握力は身体活動や将来のADLの変化との関連性が先行研究において報告されており,同様に要支援から要介護への移行にも影響を及ぼしたと考えられる。TUGは単純な歩行だけではなく,立ち座りや方向転換といった要素を含み,日常生活における実用的な歩行能力である。そのため,歩行速度が抽出されない中でTUGが将来の要介護への移行に影響することを示したと考えられる。Log-rank検定の結果より,握力とTUGの両者において四分位で最も低下していたIV群が,それよりも高い群と比べて要介護への移行率が高いことを示した。一方で,その他の群間では有意差が認められなかった。そのため,運動機能が顕著に低下している群は要介護への移行率が高く,特に運動機能に関するアプローチを必要としている可能性が示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
本研究の結果より,握力やTUGといった簡便に実施出来る評価結果が,要支援から要介護への移行に影響することが明らかになったため,病院や施設等における要支援から要介護への移行リスクの評価としても積極的に測定をするべきであることが確認出来た。また,要支援及び要介護高齢者における大規模集団を対象とした縦断的研究は少なく,本研究結果は貴重な情報と言える。