[1078] 脳卒中者の地域における移動性に影響する運動機能とその特徴
キーワード:脳卒中, 移動性, 運動機能
【はじめに,目的】
脳卒中者において移動性の損失は深刻な問題であり,その制限は生活活動の量や自立度,QOLの低下を招くとされる。そのため,地域における移動性の維持,改善は脳卒中者のリハビリテーションにおいて重要な課題である。これまでに脳卒中者において,制限のない地域内歩行が可能となるために歩行速度が重要な要因であることが明らかとなっているが,自立した屋外歩行の可否に影響する要因については明らかでない。これについて,歩行バランスを含めた複数の課題の遂行能力が地域における移動性で重要な要素となりうることが提案されているが,その検証はこれまでに十分されていない。そこで本研究の目的は,脳卒中者の移動性が屋内から近隣,地域へと拡がる上で重要な運動機能について,歩行速度と動的バランスに着目し明らかにすることとした。
【方法】
通所サービスを利用中の自立した歩行が可能な脳卒中者49名(男性27名,女性22名,年齢70.4±9.3歳,発症からの期間72.9±61.7ヶ月)を対象とした。Functional Ambulation Classification of the Hospital at Sagunto(FACHS)を用い,歩行による移動の実行状況から地域における移動性を評価した。運動機能は,10m歩行テストによる快適,最大歩行速度,動的バランスの評価としてmini-Balance Evaluation Systems Test(mini-BESTest)を評価した。統計学的解析は,FACHSで評価された移動性の範囲から屋内歩行群,近隣歩行群,地域内歩行群の3群に分類し,快適・最大歩行速度,mini-BESTestをTukeyの方法で群間比較した。次に,自立した屋外歩行の可否に影響する要因を明らかにする目的で,屋内歩行群と近隣歩行群以上の群の2群に分け,2群を従属変数とし,屋内歩行群と近隣歩行群以上の比較で有意な差が認められた運動機能を独立変数とした多重ロジスティック回帰分析を行った。また,制限のない地域内歩行の可否に影響する要因を明らかにする目的で,近隣歩行群以下と地域内歩行群の2群に分け,2群を従属変数とし,近隣歩行群以下の群と地域内歩行群の比較で有意な差が認められた運動機能を独立変数とした多重ロジスティック回帰分析を行った。さらに,多重ロジスティック回帰分析で抽出された独立変数について,それぞれReceiver Operating Characteristic曲線(ROC曲線)を作成し,ROC曲線下面積(Area Under the Curve,AUC)とカットオフ値を求め,分割表より感度,特異度,陽性的中率,陰性的中率を求めた。有意水準は5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は本学及び研究実施施設の関連施設の倫理委員会にて承認を得て実施した。対象者には事前に研究の趣旨の説明,プライバシー及び個人情報の保護について,口頭及び書面にて説明し,署名にて同意を得た。
【結果】
屋内歩行群は16名,近隣歩行群は19名,地域内歩行群は14名であった。mini-BESTestは,地域内歩行群,近隣歩行群が屋内歩行群と比較して有意に高い値を示した(P<0.05)。また,快適,最大歩行速度は,地域内歩行群が屋内歩行群,近隣歩行群と比較して有意に高い値を示した(P<0.05)。自立した屋外歩行の可否に影響する要因として,多重ロジスティック回帰分析の結果,mini-BESTestが抽出された(P<0.05)。そのカットオフ値は11点であり,AUCは0.819(P<0.05),感度は90.9%,特異度は62.5%,陽性的中率は83.3%,陰性的中率は76.9%であった。また,制限のない地域内歩行の可否に影響する要因として,多重ロジスティック回帰分析の結果,快適歩行速度のみが抽出された(P<0.05)。そのカットオフ値は0.63m/sであり,AUCは0.811(P<0.05),感度は85.7%,特異度は77.1%,陽性的中率は60.0%,陰性的中率は93.1%であった。
【考察】
自立した屋外歩行の可否に影響する要因としてmini-BESTestが抽出された。そのカットオフ値の陽性的中率,陰性的中率ともに比較的高い値を示し,動的バランスが自立した屋外歩行の可否に影響する重要な要因であると考えられた。また,制限のない地域内歩行の可否に影響する要因として快適歩行速度が抽出された。そのカットオフ値の陽性的中率は低かったが,陰性的中率は高く,カットオフ値を下回るもので制限のない地域内歩行が可能であったものは少ないことから,快適歩行速度は制限のない地域内歩行の可否に影響する重要な要因であると考えられた。
【理学療法学研究としての意義】
本研究は,脳卒中者の移動性の範囲が屋内から近隣,地域へと拡がる上で,異なる運動機能が影響することを示した。さらにそのカットオフ値と特徴を明らかにした点で,脳卒中者の地域における移動性の維持,改善を目的とした理学療法に貢献しうるものである。
脳卒中者において移動性の損失は深刻な問題であり,その制限は生活活動の量や自立度,QOLの低下を招くとされる。そのため,地域における移動性の維持,改善は脳卒中者のリハビリテーションにおいて重要な課題である。これまでに脳卒中者において,制限のない地域内歩行が可能となるために歩行速度が重要な要因であることが明らかとなっているが,自立した屋外歩行の可否に影響する要因については明らかでない。これについて,歩行バランスを含めた複数の課題の遂行能力が地域における移動性で重要な要素となりうることが提案されているが,その検証はこれまでに十分されていない。そこで本研究の目的は,脳卒中者の移動性が屋内から近隣,地域へと拡がる上で重要な運動機能について,歩行速度と動的バランスに着目し明らかにすることとした。
【方法】
通所サービスを利用中の自立した歩行が可能な脳卒中者49名(男性27名,女性22名,年齢70.4±9.3歳,発症からの期間72.9±61.7ヶ月)を対象とした。Functional Ambulation Classification of the Hospital at Sagunto(FACHS)を用い,歩行による移動の実行状況から地域における移動性を評価した。運動機能は,10m歩行テストによる快適,最大歩行速度,動的バランスの評価としてmini-Balance Evaluation Systems Test(mini-BESTest)を評価した。統計学的解析は,FACHSで評価された移動性の範囲から屋内歩行群,近隣歩行群,地域内歩行群の3群に分類し,快適・最大歩行速度,mini-BESTestをTukeyの方法で群間比較した。次に,自立した屋外歩行の可否に影響する要因を明らかにする目的で,屋内歩行群と近隣歩行群以上の群の2群に分け,2群を従属変数とし,屋内歩行群と近隣歩行群以上の比較で有意な差が認められた運動機能を独立変数とした多重ロジスティック回帰分析を行った。また,制限のない地域内歩行の可否に影響する要因を明らかにする目的で,近隣歩行群以下と地域内歩行群の2群に分け,2群を従属変数とし,近隣歩行群以下の群と地域内歩行群の比較で有意な差が認められた運動機能を独立変数とした多重ロジスティック回帰分析を行った。さらに,多重ロジスティック回帰分析で抽出された独立変数について,それぞれReceiver Operating Characteristic曲線(ROC曲線)を作成し,ROC曲線下面積(Area Under the Curve,AUC)とカットオフ値を求め,分割表より感度,特異度,陽性的中率,陰性的中率を求めた。有意水準は5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は本学及び研究実施施設の関連施設の倫理委員会にて承認を得て実施した。対象者には事前に研究の趣旨の説明,プライバシー及び個人情報の保護について,口頭及び書面にて説明し,署名にて同意を得た。
【結果】
屋内歩行群は16名,近隣歩行群は19名,地域内歩行群は14名であった。mini-BESTestは,地域内歩行群,近隣歩行群が屋内歩行群と比較して有意に高い値を示した(P<0.05)。また,快適,最大歩行速度は,地域内歩行群が屋内歩行群,近隣歩行群と比較して有意に高い値を示した(P<0.05)。自立した屋外歩行の可否に影響する要因として,多重ロジスティック回帰分析の結果,mini-BESTestが抽出された(P<0.05)。そのカットオフ値は11点であり,AUCは0.819(P<0.05),感度は90.9%,特異度は62.5%,陽性的中率は83.3%,陰性的中率は76.9%であった。また,制限のない地域内歩行の可否に影響する要因として,多重ロジスティック回帰分析の結果,快適歩行速度のみが抽出された(P<0.05)。そのカットオフ値は0.63m/sであり,AUCは0.811(P<0.05),感度は85.7%,特異度は77.1%,陽性的中率は60.0%,陰性的中率は93.1%であった。
【考察】
自立した屋外歩行の可否に影響する要因としてmini-BESTestが抽出された。そのカットオフ値の陽性的中率,陰性的中率ともに比較的高い値を示し,動的バランスが自立した屋外歩行の可否に影響する重要な要因であると考えられた。また,制限のない地域内歩行の可否に影響する要因として快適歩行速度が抽出された。そのカットオフ値の陽性的中率は低かったが,陰性的中率は高く,カットオフ値を下回るもので制限のない地域内歩行が可能であったものは少ないことから,快適歩行速度は制限のない地域内歩行の可否に影響する重要な要因であると考えられた。
【理学療法学研究としての意義】
本研究は,脳卒中者の移動性の範囲が屋内から近隣,地域へと拡がる上で,異なる運動機能が影響することを示した。さらにそのカットオフ値と特徴を明らかにした点で,脳卒中者の地域における移動性の維持,改善を目的とした理学療法に貢献しうるものである。