[1080] 変形性膝関節症患者における自由歩行速度での床反力垂直分力波形の特徴
Keywords:床反力, 身体機能, 立位バランス
【はじめに】正常歩行における床反力垂直分力は二峰性波形を示し,歩行速度の減少や下肢屈曲位での歩行によって二峰性波形が減衰することから,床反力垂直分力の波形は,身体の支持能力や歩行効率を反映すると考えられる。変形性膝関節症(膝OA)では,関節構造の破綻によって歩行立脚期に生じる床反力の制御が困難となり,著しい歩行障害を呈する。膝OA患者の歩行速度に座位バランスが関連することが報告されていることからも,膝OA患者の歩行分析では,下肢関節機能に加え,体幹機能も含めたバランス機能の影響を検討する必要がある。しかし,膝OA患者における歩行時の床反力波形の変化が,どのような身体機能やバランス機能の影響を受けるかは明らかにはされていない。本研究の目的は,膝OA患者の自由歩行速度における床反力垂直分力の二峰性波形に立位バランスを含めた身体機能がどのように関与しているのかを明らかにすることである。
【対象と方法】対象は,人工膝関節置換術施行予定の両側性内側型膝OA患者21名(男性3名,女性18名)とした。片側手術施行予定者では手術予定側を術側,両側手術施行予定者では膝関節伸展筋力の弱い側を術側,反対側を非術側と定義した。平均年齢,身長,体重はそれぞれ72.1±8.9歳,152.0±8.8cm,61.3±9.4kgであった。測定項目は,自由歩行速度での床反力,身体機能(疼痛,関節可動域,下肢筋力),立位バランスとした。床反力は,靴型下肢加重計(アニマ社製,ゲートコーダMP-1000)を用いて約15mの歩行路を歩行させ,自由歩行速度,床反力垂直分力,一歩行周期に占める立脚時間,両脚支持時間の割合(単脚立脚期,両脚立脚期)を算出した。床反力波形における二峰性の同定の可否によって,それぞれ二峰性群,非二峰性群として分類した。疼痛は,歩行時の膝関節痛として,Visual Analogue Scaleを用いた。関節可動域は,ゴニオメーターを使用し,股関節伸展角度,膝関節伸展角度を計測した。筋力は徒手筋力測定器(アニマ社製,ミュータスF-100)を使用し,股関節外転,膝関節伸展,足関節底屈の最大等尺性筋力を2回測定し,最大値を採用した。股関節,膝関節,足関節の筋力のアーム長は,それぞれ大転子から腓骨外果の5cm近位,膝関節中心から腓骨外果の5cm近位,足長とし,筋力測定値との積をさらに体重で除して算出した値を下肢筋力として用いた。立位バランスの評価は,両側足底部へのラバーマット挿入の有無による2条件(ラバーマットあり条件,ラバーマットなし条件)とし,プレート式下肢加重計(アニマ社製,ツイングラビコーダGP-6000)を用いて,30秒間の開眼静止立位(足幅10cm)を測定し,姿勢制御の有効性の指標となる単位軌跡長,実効値面積を算出した。統計解析は,2群間の各パラメータをWilcoxonの符号付き順位検定を用いて検定し,統計学的有意水準は5%とした。
【倫理的配慮,説明と同意】対象者には検査の内容を十分に説明し,理解が得られたのち同意を得て実施した。
【結果】床反力波形から,二峰性群9名,非二峰性群12名に分類された。非二峰性群のうち片側のみ二峰性が消失していた3名は解析対象から除外した。2群間の比較では,両脚立脚期(二峰性群18.0%,非二峰性群21.3%および二峰性群15.4%,非二峰性群20.6%;p<0.05),単脚立脚期(術側:二峰性群65.9%,非二峰性群68.7%;p<0.05,非術側:二峰性群67.7%,非二峰性群73.2%;p<0.01),ラバーマットあり条件の実効値面積(二峰性群2.0cm2,非二峰性群4.5cm2;p<0.05)で有意差を認めた。歩行速度,身体機能,ラバーマットなし条件の実効値面積,単位軌跡長では,2群間で有意差を認めなかった。
【考察】ラバーマットあり条件のような不安定面上で立位姿勢を高度に制御する機能は,歩行場面においても時々刻々と変化する末梢からの感覚情報を統合し,調節する機能としても重要となる。二峰性が消失するような膝OA患者では,立脚期における床からの抗力を管理する必要性から終期両脚立脚期を延長し,倒立振子モデルによる歩行の効率性よりも,身体を安定させる歩行戦略を適用していることが推察された。膝OA患者における床反力垂直分力の二峰性波形の出現には,歩行能力の基盤となるバランス機能の保持が必要であることが示唆された。
【理学療法研究としての意義】本研究により,膝OA患者の自由歩行における床反力垂直分力の二峰性波形出現に立位バランス機能が影響することが明確になった。本研究は,膝OA患者の歩行機能の維持,改善において重要な情報を提供するものと考えられる。
【対象と方法】対象は,人工膝関節置換術施行予定の両側性内側型膝OA患者21名(男性3名,女性18名)とした。片側手術施行予定者では手術予定側を術側,両側手術施行予定者では膝関節伸展筋力の弱い側を術側,反対側を非術側と定義した。平均年齢,身長,体重はそれぞれ72.1±8.9歳,152.0±8.8cm,61.3±9.4kgであった。測定項目は,自由歩行速度での床反力,身体機能(疼痛,関節可動域,下肢筋力),立位バランスとした。床反力は,靴型下肢加重計(アニマ社製,ゲートコーダMP-1000)を用いて約15mの歩行路を歩行させ,自由歩行速度,床反力垂直分力,一歩行周期に占める立脚時間,両脚支持時間の割合(単脚立脚期,両脚立脚期)を算出した。床反力波形における二峰性の同定の可否によって,それぞれ二峰性群,非二峰性群として分類した。疼痛は,歩行時の膝関節痛として,Visual Analogue Scaleを用いた。関節可動域は,ゴニオメーターを使用し,股関節伸展角度,膝関節伸展角度を計測した。筋力は徒手筋力測定器(アニマ社製,ミュータスF-100)を使用し,股関節外転,膝関節伸展,足関節底屈の最大等尺性筋力を2回測定し,最大値を採用した。股関節,膝関節,足関節の筋力のアーム長は,それぞれ大転子から腓骨外果の5cm近位,膝関節中心から腓骨外果の5cm近位,足長とし,筋力測定値との積をさらに体重で除して算出した値を下肢筋力として用いた。立位バランスの評価は,両側足底部へのラバーマット挿入の有無による2条件(ラバーマットあり条件,ラバーマットなし条件)とし,プレート式下肢加重計(アニマ社製,ツイングラビコーダGP-6000)を用いて,30秒間の開眼静止立位(足幅10cm)を測定し,姿勢制御の有効性の指標となる単位軌跡長,実効値面積を算出した。統計解析は,2群間の各パラメータをWilcoxonの符号付き順位検定を用いて検定し,統計学的有意水準は5%とした。
【倫理的配慮,説明と同意】対象者には検査の内容を十分に説明し,理解が得られたのち同意を得て実施した。
【結果】床反力波形から,二峰性群9名,非二峰性群12名に分類された。非二峰性群のうち片側のみ二峰性が消失していた3名は解析対象から除外した。2群間の比較では,両脚立脚期(二峰性群18.0%,非二峰性群21.3%および二峰性群15.4%,非二峰性群20.6%;p<0.05),単脚立脚期(術側:二峰性群65.9%,非二峰性群68.7%;p<0.05,非術側:二峰性群67.7%,非二峰性群73.2%;p<0.01),ラバーマットあり条件の実効値面積(二峰性群2.0cm2,非二峰性群4.5cm2;p<0.05)で有意差を認めた。歩行速度,身体機能,ラバーマットなし条件の実効値面積,単位軌跡長では,2群間で有意差を認めなかった。
【考察】ラバーマットあり条件のような不安定面上で立位姿勢を高度に制御する機能は,歩行場面においても時々刻々と変化する末梢からの感覚情報を統合し,調節する機能としても重要となる。二峰性が消失するような膝OA患者では,立脚期における床からの抗力を管理する必要性から終期両脚立脚期を延長し,倒立振子モデルによる歩行の効率性よりも,身体を安定させる歩行戦略を適用していることが推察された。膝OA患者における床反力垂直分力の二峰性波形の出現には,歩行能力の基盤となるバランス機能の保持が必要であることが示唆された。
【理学療法研究としての意義】本研究により,膝OA患者の自由歩行における床反力垂直分力の二峰性波形出現に立位バランス機能が影響することが明確になった。本研究は,膝OA患者の歩行機能の維持,改善において重要な情報を提供するものと考えられる。