第49回日本理学療法学術大会

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発表演題 口述 » 運動器理学療法 口述

骨・関節9

2014年5月31日(土) 14:50 〜 15:40 第11会場 (5F 501)

座長:林典雄(中部学院大学リハビリテーション学部)

運動器 口述

[1081] 変形性膝関節症患者と健常若年者の歩行時膝衝撃吸収能力の違い

和田治1, 飛山義憲1,2, 川添大樹1, 中北智士1, 浅井剛3 (1.あんしん病院リハビリテーション科, 2.神戸大学大学院人間発達環境学研究科人間行動学専攻, 3.神戸学院大学総合リハビリテーション学部)

キーワード:膝衝撃吸収能力, 変形性膝関節症, 歩行速度

【はじめに,目的】
踵接地時の衝撃は変形性膝関節症(膝OA)の発症要因の1つとして考えられている。歩行時の衝撃は歩行速度の増加に比例してすることが分かっているが,この衝撃の増加を膝関節がどの程度吸収しているかは不明である。さらに,この膝関節衝撃吸収能力は膝OA患者において変化している可能性がある。臨床上,膝OA患者は矢状面だけでなく,前額面や水平面上での歩容異常も呈するため,衝撃吸収能力を検討する際には3軸での検討が必要であると考えられるが,現在までの研究では床反力の立ち上がりや膝関節内転モーメントなど一軸性の検討がほとんどである。
そこで,本研究の目的は,健常者における膝関節衝撃吸収能力と歩行速度との関連性を調べること,および膝OA患者における衝撃吸収能力を3軸上で検討することとした。
【方法】
対象は下肢に整形外科的疾患のない健常若年男性11名(年齢25.2±3.1歳,身長172.7±6.7cm,体重64.8±7.2kg)と末期膝OA患者50名(男性9名,女性41名,年齢72.0±7.0歳,身長152.7±9.3cm,体重61.0±8.2kg,測定側gradeIV45名/gradeIII5名)とした。対象者の10m歩行を計測し,その際に患側の腓骨外果3cm近位(下腿)および大腿骨外側上顆(大腿)に3軸加速度センサ(サンプリング周波数500z)をベルクロにて貼付した。10m歩行時の測定条件は,健常若年者は最大遅歩,遅歩,通常歩行,速歩,最大速歩の5条件,膝OA患者では通常歩行のみとした。波形の安定した8歩行周期のデータ用い,大腿/下腿のそれぞれの3軸上のRoot Mean Square(RMS)の合計を算出した。膝関節の衝撃吸収能力(CoA)を得られたRMSの値を用いて算出した;CoA=100×(1-大腿RMS/下腿RMS)。
統計学的解析では,健常者CoAと歩行速度との関連性の検討にはPearsonの相関分析および反復測定一元配置分散分析を用いた。膝OA患者のCoAと健常者のCoAの比較には対応のないt検定を用いた。有意水準は5%とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
すべての対象者に本研究の趣旨と内容,データの利用に関する説明を行い,書面にて同意を得た。本研究はヘルシンキ宣言に基づいて計画され,当院倫理委員会にて承認を得た。
【結果】
健常者のCoAと歩行速度は負の相関関係を示した(p<0.001)。加えて,反復測定一元配置分散分析の結果,遅歩-速歩(p<0.01),通常歩行-速歩(p<0.05),最大遅歩-最大速歩(p<0.01),遅歩-最大速歩(p<0.01),通常歩行-最大速歩(p<0.01)で有意な差が認められた,さらに,膝OA患者のCoAは健常者の同程度の歩行速度でのCoAと比較して有意に低い結果となった(p<0.01)。
【考察】
本研究結果より,歩行速度の増加に伴い膝関節の衝撃吸収能力は低下することが示された。先行研究では,歩行速度の増加に伴い関節のstiffnessが高まり,さらに関節のstiffnessの増加は衝撃吸収能力の低下につながることが示されており,本研究も同様の結果となったと考えられる。一方で,膝OA患者は健常者と比較し膝関節衝撃吸収能力が低下する結果となった。この原因として,関節軟骨の摩耗に加え,膝OA患者の多くが呈する大腿四頭筋を含めた筋力低下により,歩行時の衝撃を十分に吸収できない事が予想される。しかしながら,本研究では膝OA患者との比較に健常若年者を用いているため,衝撃吸収能力に対する加齢の影響を除外出来ていない。したがって,今後は健常高齢者を対象とした研究が必要になると考えられる。
【理学療法学研究としての意義】
現在まで,膝OA患者の衝撃吸収能力に関する研究では,床反力の立ち上がりや膝関節内転モーメントなど,1軸性の衝撃を検討したものがほとんどであり,3軸の総和としての衝撃吸収能力を検討した報告は見当たらない。本研究は,膝OA患者における衝撃吸収能力1軸性だけでなく,3軸の総和としても低下していることを示した点で非常に意義深いと考えられる。