[1082] 小型3軸加速度計を用いた全人工膝関節置換術後の歩行解析
キーワード:人工膝関節置換術, 加速度計, ラテラルスラスト
【はじめに,目的】
変形性膝関節症(以下,膝OA)は両側罹患例が多く,進行すると除痛目的に全人工膝関節置換術(以下,TKA)が施行されることが多く,その術後臨床成績は良好とされている。しかし,TKA施行後に非術側に疼痛の出現及び憎悪などの症状を来す患者を散見することがあり,術後理学療法は非術側を含めた評価と治療の必要性があると思われる。
歩行の定量的解析に加速度計が臨床現場で実用性のある評価機器として,膝関節ラテラルスラスト(以下,LT)や重心動揺の評価に使用され,我々も昨年の本学会においてその有用性を報告した。
そこで本研究においては,加速度計を用い,TKA術前後での非術側膝のLTを計測し,その変化を比較検証しTKAによる非術側への力学的な影響を検討する事を目的とした。
【方法】
対象は2012年9月~2013年8月に当院でTKA施行した患者28名(男性5名,女性23名,平均年齢76.5±6.3歳)であった。除外基準は独歩不能・慢性関節リウマチ・非術側にTKAの既往がある者とした。
測定はTKA術前(以下,術前)とTKA術後5週(以下,術後)に実施した。歩行評価の測定は裸足での自由歩行とし,被験者に「普通に歩いてください」と口頭指示し,同時に10m歩行時間(以下,歩行時間)を計測した。加速度評価は3軸加速度計(MA3-04Acマイクロストーン社製)を下腿は木藤ら(2004)の方法を参考に腓骨頭直下(以下,膝部),足関節外果直上(以下, 足部)に,重心は山田ら(2006)の方法を参考に第3腰椎にバンドで固定し,加速度波形をサンプリング周波数100Hzにて導出した。足部の垂直成分の波形から踵接地を同定し,膝部の波形で下腿の外側加速度を算出した。歩行開始時の加速,終了時の減速の影響を考慮し,各試行中の6歩・8歩・10歩目から得られた加速度波形を分析した。測定は各歩行条件で2回行い計6歩行周期を解析対象とした。重心の側方加速度は各歩行条件の6歩目から10歩目間の波形にroot mean square(以下,RMS)を行い解析した。各パラメーターの平均値を被験者の代表値とした。FTAは電子カルテ(ソフトウェアサービスニュートン)で臥位のX-Pより計測した。統計解析は術前と術後のFTA・歩行時間・膝部外側加速度(以下,膝加速度)・側方重心加速度のRMS(以下,重心RMS)の比較に対応のあるt検定を用いた。いずれの検定も,統計学的有意水準は5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
当院の倫理委員会より承諾を得て,被検者には研究の目的を説明し同意を得た。
【結果】
歩行時間は術前12.4±2.9秒,術後13.2±2.7秒で有意な差は認めなかった。FTAは術前180.5±3.4度,術後175.8±1.9度で術後が有意に減少した(p<0.05)。重心RMSは術前1.7±0.6,術後1.5±0.3で術後が有意に減少した(p<0.05)。膝加速度の術側では術前9.6±5.3m/s2,術後7.4±3.6m/s2で術後が有意に減少した(p<0.05)。非術側では術前8.5±5.1m/s2,術後11.1±5.1m/s2で術後が有意に増加した(p<0.05)。
【考察】
桜井ら(2010)は,規定速度と自由速度を比較し自由歩行が良好な再現性を示したため,今回の指示を自由歩行とした。また,本研究では術前後での歩行時間に有意な差が認められなかったことから,今回比較する体幹および膝の加速度には歩行速度は影響しないと思われた。
山田ら(2006)はRMS値が大きいほど動揺性の大きい歩行と述べている。今回,術後の重心RMSは減少していた。これは術後5週で術前より安定した歩容が獲得できたことを示していると考えられる。
膝加速度において術前に比べ術後の術側は有意に減少した。これはTKAにより術側はFTAが改善し靭帯バランスが整ったため,膝加速度は軽減したと思われる。しかし非術側は有意に増加した。これは歩容の安定や術側とは反する結果であった。非術側における報告でMartinら(2010)は三次元動作解析装置にてHTO術前と術後で比較し,術側の膝関節内反モーメントは減少し,非術側の膝関節内反モーメントは増大したと報告しており,本研究のTKAを対象とした膝加速度と一致した。
これらのことから術後5週で歩容は安定し,術側のLTは軽減しているが非術側のLTは増加し,膝OAの進行に影響を及ぼしていると考えられた。そのことから,TKA術後の理学療法では非術側膝の状態を含めた評価と治療が必要であることが示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
TKA術後の術側・非術側の膝加速度を明らかにした。TKA後,非術側の膝加速度が増大した。このことからTKAにより非術側のLTが増大し,非術側の膝OA進行を助長させる可能性があることが危惧された。そのため非術側の予防も行う必要性があると思われる。
変形性膝関節症(以下,膝OA)は両側罹患例が多く,進行すると除痛目的に全人工膝関節置換術(以下,TKA)が施行されることが多く,その術後臨床成績は良好とされている。しかし,TKA施行後に非術側に疼痛の出現及び憎悪などの症状を来す患者を散見することがあり,術後理学療法は非術側を含めた評価と治療の必要性があると思われる。
歩行の定量的解析に加速度計が臨床現場で実用性のある評価機器として,膝関節ラテラルスラスト(以下,LT)や重心動揺の評価に使用され,我々も昨年の本学会においてその有用性を報告した。
そこで本研究においては,加速度計を用い,TKA術前後での非術側膝のLTを計測し,その変化を比較検証しTKAによる非術側への力学的な影響を検討する事を目的とした。
【方法】
対象は2012年9月~2013年8月に当院でTKA施行した患者28名(男性5名,女性23名,平均年齢76.5±6.3歳)であった。除外基準は独歩不能・慢性関節リウマチ・非術側にTKAの既往がある者とした。
測定はTKA術前(以下,術前)とTKA術後5週(以下,術後)に実施した。歩行評価の測定は裸足での自由歩行とし,被験者に「普通に歩いてください」と口頭指示し,同時に10m歩行時間(以下,歩行時間)を計測した。加速度評価は3軸加速度計(MA3-04Acマイクロストーン社製)を下腿は木藤ら(2004)の方法を参考に腓骨頭直下(以下,膝部),足関節外果直上(以下, 足部)に,重心は山田ら(2006)の方法を参考に第3腰椎にバンドで固定し,加速度波形をサンプリング周波数100Hzにて導出した。足部の垂直成分の波形から踵接地を同定し,膝部の波形で下腿の外側加速度を算出した。歩行開始時の加速,終了時の減速の影響を考慮し,各試行中の6歩・8歩・10歩目から得られた加速度波形を分析した。測定は各歩行条件で2回行い計6歩行周期を解析対象とした。重心の側方加速度は各歩行条件の6歩目から10歩目間の波形にroot mean square(以下,RMS)を行い解析した。各パラメーターの平均値を被験者の代表値とした。FTAは電子カルテ(ソフトウェアサービスニュートン)で臥位のX-Pより計測した。統計解析は術前と術後のFTA・歩行時間・膝部外側加速度(以下,膝加速度)・側方重心加速度のRMS(以下,重心RMS)の比較に対応のあるt検定を用いた。いずれの検定も,統計学的有意水準は5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
当院の倫理委員会より承諾を得て,被検者には研究の目的を説明し同意を得た。
【結果】
歩行時間は術前12.4±2.9秒,術後13.2±2.7秒で有意な差は認めなかった。FTAは術前180.5±3.4度,術後175.8±1.9度で術後が有意に減少した(p<0.05)。重心RMSは術前1.7±0.6,術後1.5±0.3で術後が有意に減少した(p<0.05)。膝加速度の術側では術前9.6±5.3m/s2,術後7.4±3.6m/s2で術後が有意に減少した(p<0.05)。非術側では術前8.5±5.1m/s2,術後11.1±5.1m/s2で術後が有意に増加した(p<0.05)。
【考察】
桜井ら(2010)は,規定速度と自由速度を比較し自由歩行が良好な再現性を示したため,今回の指示を自由歩行とした。また,本研究では術前後での歩行時間に有意な差が認められなかったことから,今回比較する体幹および膝の加速度には歩行速度は影響しないと思われた。
山田ら(2006)はRMS値が大きいほど動揺性の大きい歩行と述べている。今回,術後の重心RMSは減少していた。これは術後5週で術前より安定した歩容が獲得できたことを示していると考えられる。
膝加速度において術前に比べ術後の術側は有意に減少した。これはTKAにより術側はFTAが改善し靭帯バランスが整ったため,膝加速度は軽減したと思われる。しかし非術側は有意に増加した。これは歩容の安定や術側とは反する結果であった。非術側における報告でMartinら(2010)は三次元動作解析装置にてHTO術前と術後で比較し,術側の膝関節内反モーメントは減少し,非術側の膝関節内反モーメントは増大したと報告しており,本研究のTKAを対象とした膝加速度と一致した。
これらのことから術後5週で歩容は安定し,術側のLTは軽減しているが非術側のLTは増加し,膝OAの進行に影響を及ぼしていると考えられた。そのことから,TKA術後の理学療法では非術側膝の状態を含めた評価と治療が必要であることが示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
TKA術後の術側・非術側の膝加速度を明らかにした。TKA後,非術側の膝加速度が増大した。このことからTKAにより非術側のLTが増大し,非術側の膝OA進行を助長させる可能性があることが危惧された。そのため非術側の予防も行う必要性があると思われる。