第49回日本理学療法学術大会

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発表演題 口述 » 神経理学療法 口述

発達障害理学療法2

Sat. May 31, 2014 2:50 PM - 3:40 PM 第13会場 (5F 503)

座長:北原エリ子(順天堂大学医学部附属順天堂医院リハビリテーション室)

神経 口述

[1092] 脳性まひ児に対する神経発達学的治療は治療者の経験によって児の機能改善に差を及ぼすのか

鳥瀬義知1, 島恵1, 大橋知行1, 荒井洋2 (1.社会医療法人大道会森之宮病院リハビリテーション部, 2.社会医療法人大道会森之宮病院診療部)

Keywords:脳性麻痺, 無作為化比較試験, 治療者の経験

【はじめに】
2013年,Novakらは脳性まひ(CP)に対する治療法の有効性に関するsystematic reviewの中で,世界的に広く行われている神経発達学的治療(NDT)は無効であり,「行うべきでない」とのrecommendationを出した。その根拠として,1980年代の画一的手法を用いたNDTの有効性がevidence levelが高い無作為化比較試験(RCT)によって否定されたこと,神経生理学を基盤として包括的治療を取り入れた近年のNDTの内容や有効性を客観的な指標で示した論文がないことが挙げられている。一方,このようなreviewで療法士の技能による差が取り上げられることは全くない。
2012年の本学会で我々は,入院による包括的な治療が脳室周囲白質軟化症(PVL)による痙直型両まひ児の粗大運動機能を有意に向上させることを示した。今回は症例数を増やし,療法士のNDTに関する熟練度と治療効果との関係について,粗大運動能力尺度(GMFM)を指標とし,RCTによって検討した。
【目的】
脳性麻痺治療において療法士のNDTに関する経験および熟達度が機能変化に及ぼす影響を調査し,NDTの技術的側面が持つ意味を検討する。
【方法】
粗大運動能力分類システム(GMFCS)level III~IVの4歳~7歳のPVLによる痙直型両まひ児で,研究開始6ヶ月前から研究期間中に整形外科的手術,ボツリヌス毒素療法を行わなかった16例(男5例,女11例)を対象とし,CPに対する治療経験が20年以上の理学療法士(PT)・作業療法士(OT)が治療する群(NDT群)と治療経験が5年以下のPT・OTが治療する群(対照群)とに8例ずつ無作為に振り分けた。治療計画は両群とも担当者に加えて治療経験10年以上の療法士を含む多職種(小児神経科医,小児整形外科医,看護師,臨床心理士)のカンファレンスによって立案し,定期的に修正した。16週間の入院期間中,平日はPT,OTを各1時間,土日はどちらかを1時間施行した。GMFMは入院8週前(開始時),入院時,入院8週後,退院時,退院8週後(終了時)の計5回評価した。評価は本研究に対してblindであるPTが一定期間の研修を受けた後に行った。各期間ならびに開始時から終了時,入院時から退院時におけるGMFM-88,GMFM-66を2群間でt検定によって解析した。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は当院の倫理委員会の承認をうけ,文書にて保護者に説明し,了承を得た上で実施した。
【結果】
NDT群と対照群の間で,男女比,年齢,GMFCS level,開始時のGMFM-88,GMFM-66およびPEDIの点数に有意差はなかった。対象全体では,入院時~入院後8週間におけるGMFM-88総得点およびGMFM-66(カッコ内)の変化が8.14±11.08(2.13±1.54)であり,開始時~入院時の1.14±13.54(0.05±1.40),退院時時~終了時の4.87±11.41(0.44±1.51)と比較していずれも有意に高かった(P<0.05)。
GMFM-88総得点の変化は,開始時~終了時NDT群20.43±9.57,対照群15.00±11.42,入院時~退院時NDT群12.13±7.57,対照群6.00±5.98であり,いずれも両群間に有意差を認めなかった(P=0.42,P=0.13)。GMFM-66についても,開始時~終了時NDT群2.07±2.71,対照群3.23±1.65,入院時~退院時NDT群2.05±2.49,対照群2.62±1.63であり,いずれも両群間に有意差を認めなかった(P=0.40,P=0.63)。また,他のいずれの期間においてもGMFM-88,GMFM-66の点数変化に両群間で有意差を認めなかった。
【考察】
PVLによる痙直型両まひ児に対する短期集中治療において,療法士のNDTに関する経験や技術の差は機能変化に有意な影響を及ぼさなかった。全体的な機能向上はむしろ,治療頻度,包括的な評価に基づく治療方針の選択および多職種による同時介入によってもたらさられたものと考えられる。一方で,運動の質的な変化の差はGMFMによって捉えることが困難で,今後,長期の運動機能予後を比較する中で技術の差が運動の質に与える影響についても検討する必要がある。
【理学療法学研究としての意義】
脳性まひに限らず,リハビリテーション効果の検討は治療方法に対してのみ研究されており,個々の理学療法士のアイデンティティに関わる経験や技術の影響は全く考慮されていない。今回の結果は経験の差をチーム医療がある程度カバーできることを示唆するものであったが,さらにRCTを用いたエビデンスレベルの高い研究を行うことで,理学療法士にとって重要な技能とは何かをより明確にできると考える。