第49回日本理学療法学術大会

Presentation information

発表演題 ポスター » 基礎理学療法 ポスター

身体運動学15

Sat. May 31, 2014 2:50 PM - 3:40 PM ポスター会場 (基礎)

座長:越智亮(星城大学リハビリテーション学部理学療法学専攻)

基礎 ポスター

[1094] 不安定肢位における高齢者の足底内在筋活動と足圧中心の動揺特性との関係

竹内弥彦1, 下村義弘2, 雄賀多聡1, 三和真人1 (1.千葉県立保健医療大学健康科学部リハビリテーション学科, 2.千葉大学大学院工学研究科)

Keywords:高齢者, 足底内在筋, 足圧中心

【はじめに,目的】ヒトの立位姿勢において足底部は唯一,地面と接する身体部位である。ゆえに,ヒトの立位姿勢制御には足底部の機能が重要とされている。なかでも,足底内在筋の活動は足趾を屈曲し床面把握作用を有することから,立位姿勢制御に重要な役割を担っている。加えて,立位姿勢におけるバランス能力を捉えるには,足底部で構成される支持基底面と身体重心を制御する足圧中心(Center of Pressure;COP)との位置関係が重要となる。支持基底面から重心投影線が外れることで転倒がおこると考えると,支持基底面内でCOPを最大限移動した位置における足底内在筋の活動やCOPの動揺特性を捉えていくことが重要と考える。本研究の目的は,COPを最大限移動した位置での立位姿勢を不安定肢位と定義し,不安定肢位における高齢者の足底内在筋活動とCOP動揺特性との関連性を明らかにすることである。
【方法】対象は地域在住高齢者11名(平均年齢69.8±4.4歳,足長21.5±1.1cm,足幅8.9±0.5cm)とした。測定対象筋は足底内在筋として足趾屈曲作用を有する,短母趾屈筋,母趾外転筋,短趾屈筋,小趾外転筋の4筋とした。これら4筋の筋活動を計測するために,インソール型の筋電計を作製した。インソール型筋電計は足底部への接触面積が広くなるようにシリコン素材の薄いシートをベース部とした。さらに,内側縦アーチ部(短母趾屈筋)と電極との接触性を高めるために市販のインソール上に設置した。表面電極には直径1mm,長さ8mmの銀・塩化銀電極を5mm間隔に9本並べたアレイ電極を用い,各筋の解剖学的な走行に合わせシリコンシート上に4列配置した。各筋につき9個の電極を配置し任意の2つの電極間で誘導をおこなうことで,性別による足底部の広さや足アーチ形状の個人差への対応を可能とした。なお,計測対象は右側の足底内在筋とした。COPの計測には重心動揺計(Anima社製G-6100)を用いた。被験者は重心動揺計上に設置したインソール型筋電計上で,立位姿勢を保持した。静止立位姿勢を10秒間保持後,前後左右方向に身体重心を移動し,各方向の最大移動位置で5秒間立位姿勢を保持後,静止立位姿勢に戻る動作を課した。各方向におけるCOPの最大移動位置は各被験者のフットプリントから足長と足幅を計測し,その割合で正規化した。データのサンプリング周波数は筋電計1000Hz,重心動揺計200Hzとし,AD変換時に重心動揺計からの同期信号を取り込んだ。PCにデータを取り込み後,ソフトウエア(MS社製エクセル)上にて,筋電計のデータをリサンプリングしCOPデータと同期した。COP最大移動位置5秒間の中間3秒間について,各筋活動量およびCOPの前後・左右方向における位置変化と速度の実効値(Root Mean Square:RMS)を算出した。なお,筋活動量は静止立位時10秒間のRMS値を100%とする相対値(%RMS)で表した。統計処理はCOPの位置変化と速度を目的変数,足底内在筋の活動量を説明変数として,単回帰分析をおこなった。なお,有意水準は1%とした。
【倫理的配慮,説明と同意】全ての被験者には,実験の趣旨を口頭および書面を用いて説明し,署名にて同意を得た。なお,本研究は本学倫理審査委員会の承認を得て実施した。
【結果】前方向の不安定肢位では前後方向のCOP速度を目的変数とした回帰分析において,母趾外転筋活動で有意な回帰式が得られた(y=0.1x+0.9,R2=0.64)。また,左右方向のCOP速度を目的変数とした回帰分析において,短趾屈筋活動で有意な回帰式が得られた(y=0.4x+0.8,R2=0.56)。左方向の不安定肢位では左右方向のCOP位置変化を目的変数とした回帰分析において,母趾外転筋活動で有意な回帰式が得られた(y=0.7x+0.8,R2=0.66)。後方向および右方向の不安定肢位ではCOP動揺特性と各筋活動量の間に有意な回帰式は得られなかった。
【考察】回帰分析の結果から,前方向の不安定肢位では母趾外転筋活動による母趾の中足指節関節屈曲(床面把握)作用により前後方向にCOPを速く移動し,短趾屈筋活動による第2から第5趾の近位指節関節の屈曲作用により左右方向にCOPを速く移動することで,不安定肢位における身体重心を制御していたことが考えられる。これらの結果から,前方向の不安定肢位におけるCOP制御に関与する足趾の作用として,母趾と第2~5趾の違いが示された。加えて,左方向の不安定肢位における結果から,非荷重側の右母趾外転筋活動による母趾中足指節関節の屈曲作用が,左右方向へのCOP位置変化の制御に関与していたことが示唆された。
【理学療法学研究としての意義】本研究で得た,不安定肢位における足底内在筋活動の知見は,高齢者を対象とした足趾屈曲機能の評価やトレーニングの内容について,より科学的根拠に基づいたものとするための基礎データとして活用可能と考える。