[1100] 異なるトレッドミル運動を行った時の乳酸閾値と心拍数について
Keywords:乳酸閾値, 心拍数, トレッドミル
【はじめに,目的】
乳酸閾値(LT)とは,段階的に運動負荷量を増加させた時に,急激に血中乳酸濃度が上昇するときの運動強度である。LTレベルの運動負荷は,耐久性向上を目的とした運動に適しており,身体へのストレスも少ないため高齢者や障がい者に推奨されている。屋内で使用可能なトレッドミルは,速度を段階的に上昇させることで負荷量を増加させることが可能で,LTの決定において有効である。しかし,走行が困難な体力の低下した人たちには不可能な場合がある。近年発売されているトレッドミルは,傾斜角度を変化させることが可能なものもあり,段階的な角度増大によってもLTが出現することが予測される。本研究の目的は,段階的な角度増大による運動負荷時のLTを明らかにすること,および速度上昇もしくは角度増大による運動負荷によって決定されたLT時の心拍数について比較検討することである。
【方法】
対象は健常な学生(男性7名,女性3名),年齢は20.8±0.5歳であった。角度増大による運動負荷として(実験1),トレッドミル速度を4.5km/h,傾斜角度0°でトレッドミル運動を3分間行った。運動後1分間の休憩をとり,耳朶から採血して血中乳酸濃度を測定した。同時に手首式血圧計を用いて心拍数を測定した。休憩後は傾斜角度を1.7°増大させて運動を再開させた。これを13.6°になるまで8回繰り返した。速度上昇による運動負荷として(実験2),トレッドミル傾斜角度0°,速度3km/hでトレッドミル運動を3分間行った。3分間のトレッドミル運動後に1分間休憩して,血中乳酸濃度および心拍数を測定した。休憩後はトレッドミル速度を1.5km/h上昇させて運動を再開した。これを15km/hになるまで8回繰り返した。実験1と実験2は別の日に行い,順番は無作為とした。LTの解析は乳酸値解析ソフトウェアを用いて2点法で行い,有酸素性代謝でエネルギーが供給されるLT1,無酸素性代謝によるエネルギー供給の割合が多くなるLT2を決定した。心拍数は運動強度に比例することが報告されている。そこで,LT1およびLT2前後の心拍数から回帰直線を計算して,LT時の心拍数を決定した。また,決定した心拍数から,カルボーネン法を用いてLT時の運動強度を算出した。統計解析にはIBM SPSS Statistics 21を用いて行い,実験1と2の結果について,正規性の検定後に対応のあるt検定,Wilcoxonの符号付順位検定を行い比較した。また,相関についてPearsonの相関係数またはSpearmanの順位相関係数を用いた。危険率5%未満を有意差有りとした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は,演者所属施設の倫理委員会の承認を得た後に実施した(承認番号:417)。各対象者には事前に本研究の趣旨と目的を文書にて説明した上で協力を求め,同意書に署名捺印を得た。
【結果】
角度増大による運動負荷(実験1)では,LT1の時の傾斜角度は4.2±1.3°,LT2では9.4±1.7°であった。LTの時点での心拍数は,LT1で92.2±13.7bpm,LT2で119.8±19.2bpmであった。また,LTの時点での運動強度は,LT1で15.0±6.0%,LT2で36.6±12.6%であった。一方,速度上昇による運動負荷(実験2)では,LT1の時の速度が6.4±1.0km/h,LT2で10.7±1.6km/hであった。LTの時点での心拍数は,LT1で97.2±20.8bpm,LT2で139.3±24.0bpmであった。また,LTの時点での運動強度は,LT1で15.7±10.8%,LT2で49.8±16.0%であった。実験1および実験2から算出されたLT1の時の心拍数および運動強度に有意な差は認められなかった。さらに,LT2の時の心拍数および運動強度は,実験2と比較して実験1で有意に低かった(P<0.05)。また,実験1と2におけるLT1およびLT2に達した時の心拍数の間に有意な相関はなかった。
【考察】
運動負荷量の増加に角度増大を用いた場合にもLT1およびLT2が認められた。したがって,歩行速度が一定だとしても,角度増大を用いた負荷量の増加によってLTが出現することが明らかとなった。LT2の心拍数および運動強度は速度上昇による運動負荷と比較して角度を増大した運動負荷で有意に低かった。血中乳酸濃度が急上昇する原因として,有酸素性代謝と無酸素性代謝への移行,交感神経活動の亢進,速筋優位な活動などが報告されている。したがって,傾斜角度を増大させると速度を上昇するよりも低い運動強度で上記のいずれかが生じた可能性が考えられる。
【理学療法学研究としての意義】
LTは速度を一定とした歩行でも傾斜角度を増大させることで求められることが明らかとなった。さらに,角度増大によるLT2の心拍数および運動強度は速度上昇時のものより低かった。したがって,走行が困難な人たちのLTを安全に調べることができ,さらにLT程度の運動負荷も従来の方法より身体へのストレスが少なく,効率的な耐久性の向上が可能となることが期待される。
乳酸閾値(LT)とは,段階的に運動負荷量を増加させた時に,急激に血中乳酸濃度が上昇するときの運動強度である。LTレベルの運動負荷は,耐久性向上を目的とした運動に適しており,身体へのストレスも少ないため高齢者や障がい者に推奨されている。屋内で使用可能なトレッドミルは,速度を段階的に上昇させることで負荷量を増加させることが可能で,LTの決定において有効である。しかし,走行が困難な体力の低下した人たちには不可能な場合がある。近年発売されているトレッドミルは,傾斜角度を変化させることが可能なものもあり,段階的な角度増大によってもLTが出現することが予測される。本研究の目的は,段階的な角度増大による運動負荷時のLTを明らかにすること,および速度上昇もしくは角度増大による運動負荷によって決定されたLT時の心拍数について比較検討することである。
【方法】
対象は健常な学生(男性7名,女性3名),年齢は20.8±0.5歳であった。角度増大による運動負荷として(実験1),トレッドミル速度を4.5km/h,傾斜角度0°でトレッドミル運動を3分間行った。運動後1分間の休憩をとり,耳朶から採血して血中乳酸濃度を測定した。同時に手首式血圧計を用いて心拍数を測定した。休憩後は傾斜角度を1.7°増大させて運動を再開させた。これを13.6°になるまで8回繰り返した。速度上昇による運動負荷として(実験2),トレッドミル傾斜角度0°,速度3km/hでトレッドミル運動を3分間行った。3分間のトレッドミル運動後に1分間休憩して,血中乳酸濃度および心拍数を測定した。休憩後はトレッドミル速度を1.5km/h上昇させて運動を再開した。これを15km/hになるまで8回繰り返した。実験1と実験2は別の日に行い,順番は無作為とした。LTの解析は乳酸値解析ソフトウェアを用いて2点法で行い,有酸素性代謝でエネルギーが供給されるLT1,無酸素性代謝によるエネルギー供給の割合が多くなるLT2を決定した。心拍数は運動強度に比例することが報告されている。そこで,LT1およびLT2前後の心拍数から回帰直線を計算して,LT時の心拍数を決定した。また,決定した心拍数から,カルボーネン法を用いてLT時の運動強度を算出した。統計解析にはIBM SPSS Statistics 21を用いて行い,実験1と2の結果について,正規性の検定後に対応のあるt検定,Wilcoxonの符号付順位検定を行い比較した。また,相関についてPearsonの相関係数またはSpearmanの順位相関係数を用いた。危険率5%未満を有意差有りとした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は,演者所属施設の倫理委員会の承認を得た後に実施した(承認番号:417)。各対象者には事前に本研究の趣旨と目的を文書にて説明した上で協力を求め,同意書に署名捺印を得た。
【結果】
角度増大による運動負荷(実験1)では,LT1の時の傾斜角度は4.2±1.3°,LT2では9.4±1.7°であった。LTの時点での心拍数は,LT1で92.2±13.7bpm,LT2で119.8±19.2bpmであった。また,LTの時点での運動強度は,LT1で15.0±6.0%,LT2で36.6±12.6%であった。一方,速度上昇による運動負荷(実験2)では,LT1の時の速度が6.4±1.0km/h,LT2で10.7±1.6km/hであった。LTの時点での心拍数は,LT1で97.2±20.8bpm,LT2で139.3±24.0bpmであった。また,LTの時点での運動強度は,LT1で15.7±10.8%,LT2で49.8±16.0%であった。実験1および実験2から算出されたLT1の時の心拍数および運動強度に有意な差は認められなかった。さらに,LT2の時の心拍数および運動強度は,実験2と比較して実験1で有意に低かった(P<0.05)。また,実験1と2におけるLT1およびLT2に達した時の心拍数の間に有意な相関はなかった。
【考察】
運動負荷量の増加に角度増大を用いた場合にもLT1およびLT2が認められた。したがって,歩行速度が一定だとしても,角度増大を用いた負荷量の増加によってLTが出現することが明らかとなった。LT2の心拍数および運動強度は速度上昇による運動負荷と比較して角度を増大した運動負荷で有意に低かった。血中乳酸濃度が急上昇する原因として,有酸素性代謝と無酸素性代謝への移行,交感神経活動の亢進,速筋優位な活動などが報告されている。したがって,傾斜角度を増大させると速度を上昇するよりも低い運動強度で上記のいずれかが生じた可能性が考えられる。
【理学療法学研究としての意義】
LTは速度を一定とした歩行でも傾斜角度を増大させることで求められることが明らかとなった。さらに,角度増大によるLT2の心拍数および運動強度は速度上昇時のものより低かった。したがって,走行が困難な人たちのLTを安全に調べることができ,さらにLT程度の運動負荷も従来の方法より身体へのストレスが少なく,効率的な耐久性の向上が可能となることが期待される。