第49回日本理学療法学術大会

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発表演題 ポスター » 基礎理学療法 ポスター

運動生理学1

2014年5月31日(土) 14:50 〜 15:40 ポスター会場 (基礎)

座長:解良武士(日本医療科学大学保健医療学部リハビリテーション学科理学療法学専攻)

基礎 ポスター

[1103] 心肺運動負荷試験を用いた筋内酸素動態と呼吸循環動態の回復特性について

中村朋博1,2, 山本裕晃1, 伊良部諒馬1, 森田正治2 (1.特定特別医療法人弘医会福岡鳥飼病院リハビリテーション科, 2.国際医療福祉大学大学院医療福祉学研究科)

キーワード:心肺運動負荷試験, 近赤外線分光法, 酸素動態

【はじめに,目的】運動療法を実施する際に,嫌気性作業閾値の登場で定量的な負荷強度を設定できるようになり,運動量の調節や患者と治療者側のリスク管理も容易になった。しかし,運動療法後に対象者の呼吸数・心拍数の乱れがなくとも,筋疲労の訴えは妥当な時間を越えて残存することがある。従来,筋疲労の研究は組織侵襲を伴う手法であり,測定部位の組織を破壊することを多少なりとも考慮すれば,生理的環境を反映しない可能性がある。そこで近年,近赤外分光法(Near Infrared Spectroscopy,以下NIRS)が用いられるようになり,筋電図では得ることができなかった運動中の局所筋を酸化的代謝の面から評価できるようになっている。NIRSは,近赤外領域の特定波長でのヘモグロビンとミオグロビンに対する吸光度特性を利用することにより,組織での酸素化レベルの変化を測定しようとするものである。また機器の妥当性として,薬剤投与から全身運動に至るまで,多くの研究がなされており,幅広く有用性は示されている。今回,20歳以上の男性を対象に,心肺運動負荷試験を用いて最大運動時点まで運動負荷し,筋内酸素動態と呼吸循環動態の運動後回復の変化量について検討することとした。
【方法】対象は20歳以上の男性7名(年齢26.4±4.3歳,身長171.0±4.1体重63.3±2.0cm,BMI21.6±1.0)であった。対象筋は利き足側の外側広筋(以下VL)とし,NIRS(Spectratech inc.社製OEG-16)のプローブを1組取り付けた。呼気ガス分析には携帯型呼気ガス代謝モニターMeta Max@3B(CORTEX社製)を用い,breath-by-breath法にて1呼吸ごとに連続的に測定し,心電図も同時に測定した。ペダリング動作は,フクダ電子社製の自転車エルゴメーター使用し,ペダルの高さを下死点で膝屈曲角度30°になるように設定した。運動負荷プロトコールは安静3分から開始し,1分間毎に15W漸増するramp負荷法を用いて,被験者が一定のペダル回転数(60rpm)を保てなくなる時点まで運動負荷を行った後に10分間の安静座位をとった。データ処理は,運動後の外側広筋の酸素化ヘモグロビン(以下⊿Coxy・D)のピーク値を0%,安静時平均の⊿Coxy・Dを100%として,回復量の30秒毎の平均値を求め,それに相当する酸素摂取量(以下%VO2rest),心拍数(以下%HRrest)の回復量を5分間比較した。統計処理は,JSTATにてKruskal-Wallis検定と多重比較を用いて危険率5%未満を有意水準として3群間の検討を行った。
【倫理的配慮,説明と同意】対象者全員に対して書面を用いて口頭にて説明し,研究に参加する同意書の取り交わしを行った。なお,本研究は国際医療福祉大学の倫理審査委員会の承認を得て研究を開始した(承認番号:13-Io76)。
【結果】全対象者において,運動負荷プロトコールを完遂することなく運動は中止した。主な中止理由として大腿部の筋疲労が原因であった。NIRSから得られた外側広筋の⊿Coxy・Dの波形は,運動開始直後から下降を始め,運動終了まで継続した。運動終了後の⊿Coxy・Dは,2~3分程度でピーク値となり安静値へと回復していくが,2名を除いて安静座位10分間経過しても運動前の⊿Coxy・Dに近似することはなかった。⊿Coxy・Dのピーク値から5分間の回復量と%VO2rest,%HRrestとの比較では,⊿Coxy・Dは30~300秒全区間で%VO2restの回復量に対して有意に低値を示した(p>0.01)。なお,⊿Coxy・Dと%HRrestの間に有意差は認めなかった。
【考察】本研究ではVO2の回復量に対してVL酸素動態が低値を示すことから,双方の回復量に解離が生じることを確認した。この結果から,必ずしもVO2の回復は局所筋肉の回復を反映するものではなく,また対象者7名中5名は,運動終了後10分経過しても安静時の⊿Coxy・Dに近似しない特徴があるため,高負荷運動後の筋内酸素動態の回復には比較的時間を要する可能性がある。NIRSでの局所筋疲労の評価については未だ確立には至っていないが,筋疲労には酸化的代謝が深く関わっているため,その検出ツールとしてNIRSは有用であると考えられる。
【理学療法学研究としての意義】理学療法において,運動後の休息時間の設定には曖昧な点があり,対象者の呼吸数や心拍数などの客観的指標に重きを置かれている。本研究の結果から筋内酸素動態と一致しない恐れもあり,2次障害を予防するための一指標として期待できる。