第49回日本理学療法学術大会

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発表演題 ポスター » 基礎理学療法 ポスター

運動生理学1

Sat. May 31, 2014 2:50 PM - 3:40 PM ポスター会場 (基礎)

座長:解良武士(日本医療科学大学保健医療学部リハビリテーション学科理学療法学専攻)

基礎 ポスター

[1104] 換気性作業閾値レベルの律動的運動時における音楽リズムの影響

野口真由美1, 亘菜津美1, 大塚祐真1, 江口勝彦2 (1.群馬パース大学保健科学部理学療法学科生, 2.群馬パース大学保健科学部理学療法学科)

Keywords:運動-呼吸同調, 音楽-運動同調, 引き込み現象

【はじめに,目的】
律動的な運動時,呼吸リズムが運動リズムに引き込まれる現象があり,両者が同期した場合を運動-呼吸同調(locomotor respiratory coupling)又はEntrainmentという。この発生メカニズムはまだ明らかではないものの,四肢運動と呼吸運動を同調させることで,両運動の機械的効率を高めているといわれている。
一方,近年では,ウォーキングやランニング等を行う際においても音楽を聴きながら行う人が増えている。音楽を聴きながら運動することで不安状態が軽減する,交感神経活動が抑制される,主観的運動強度が減少する等の報告があるものの,そのメカニズムも不明である。
我々は昨年,本学会において「音楽を聴きながら律動的運動を行う事により,音楽リズムに運動リズムが引き込まれる現象」を報告したが,運動負荷強度が低かったことから呼吸リズムの引き込みは確認できなかった。
本研究の目的は,先行研究では個別に示されている音楽を聴きながら律動的運動を行った時の“音楽リズムと運動リズム”と“運動リズムと呼吸リズム”の同調が,同時に起こるか否かを明らかにする事である。
【方法】
対象は若年健常成人15名(男性7名,女性8名,平均年齢21.2歳)であった。盲検法とするために,実験前は真の目的を隠し,「音楽が自転車エルゴメータ運動におけるエネルギー効率に及ぼす影響についての実験を行います」と説明した。実験終了後,真の目的を説明し同意を得た。
実験方法は,まず自転車エルゴメータ(75XLII,コンビ)を用いた漸増運動負荷試験を実施し,呼気ガス分析器(AE-100i,ミナト医科学)により換気性作業閾値を求めた。
得られた換気性作業閾値の強度で自転車エルゴメータによる一定負荷の運動を実施した。音楽は,同一の曲でテンポが異なる2条件(条件A:原曲のテンポ168bpm,条件B:少し速いテンポ173bpm)を設定した。各条件での測定は日をかえて行った。
音楽リズムは曲に同期させた電子メトロノーム信号を使用した。運動リズムは,自転車エルゴメータにペダル1/2回転毎に反応するスイッチを取り付けサイクリング運動を行わせた。呼吸リズムは呼気ガス分析装置を用いて呼吸フローにより測定した。実際の呼吸と呼気ガス分析装置データとの間には16msの遅延が発生することから,得られた値を補正して使用した。すべての信号はA/D変換器(PowerLab)を経由しパーソナルコンピュータに取り込み解析した。
運動実施時間は,定常状態におけるデータ採集を目的に,前後に各2分間のウォーミングアップとクーリングダウンを設けた5分間の一定負荷運動とした。データ分析には,5分間の運動時間のうち最後の1分間の値を用いた。リズムの同調発生率は,「音楽・運動同調発生率(%)=音楽リズムと同調したペダル数/全ペダル数×100」「運動・呼吸同調発生率(%)=運動リズムと同調した呼吸数/全呼吸数×100」「音楽・運動・呼吸同調発生率(%)=音楽-運動に同調した呼吸数/全呼吸数×100」の式により算出し,各条件の同調発生率の平均値を求めた。
【倫理的配慮,説明と同意】
ヘルシンキ宣言に基づき,本研究の目的,方法,参加による利益と不利益などの説明を十分に行い,同意を得た。対象者は全員自らの意思で参加した。また,本研究は本学研究倫理委員会の規定に基づき,卒業研究倫理審査により承認され実施した。
【結果】
音楽リズムと運動リズムの同調発生率は,条件Aが58.9±8.53%,条件Bが58.0±8.12%であった。運動リズムと呼吸リズムの同調発生率は,条Aが57.0±12.95%,条件Bが58.0±10.01%と共に高率であった。
音楽リズム・運動リズム・呼吸リズム3つの同時同調発生率は,条件Aが42.1±9.31%,条件Bが41.4±6.08%と,個別ほど高率ではなかったが同時に確認できた。
【考察】
「我々の先行研究で音楽リズムと呼吸リズムとの同調が起こらなかった理由は,運動の負荷強度が低く律動的な呼吸の需要が低かったからであろう」という仮説を検証するために,音楽-運動同調発生率が高いとされている換気性作業閾値レベルの運動を用いて,テンポの異なる2条件で実験を行った。先行研究同様,音楽-運動同調発生率は共に高率であった。
音楽・運動・呼吸リズムの同時同調発生率は,個別ほど高率ではなかったが同時に確認された。
今後は被検者のリズム感覚による影響などについても追求したい。
【理学療法学研究としての意義】
音楽を聴きながら行う律動的な運動における音楽-運動-呼吸リズムの関係について明らかにすることで,運動効率の向上やパフォーマンスの向上に結びつく可能性がある。