[1105] 漸増起立負荷による中高年者の運動耐容能測定法の併存妥当性と再現性
キーワード:運動耐容能, 酸素摂取量, 起立動作
【はじめに,目的】運動耐容能の評価には自転車エルゴメーター(以下,CE)やトレッドミルによる心肺運動負荷試験が一般的であるが,それらは高価な機械と熟練を要し,高齢者や運動障害を有する者には実施が困難な場合が少なくない。日常動作である起立動作は座面高や起立頻度を変えることで比較的簡単に運動負荷強度を調整できる。我々はいくつかの起立頻度の定常負荷試験から起立頻度に対して酸素摂取量が直線的に増加することを確認し,漸増起立運動負荷試験(以下,ISTS)のプロトコールを作成した。さらにISTSは若年健常者のAT測定に応用できる可能性が高いことを確認した。そこで本研究の目的は虚弱高齢者への将来的な応用を視野に入れ,中高年者を対象にISTSの運動耐容能測定法としての併存妥当性,再現性を検証することとした。
【方法】心血管系および整形外科的疾患の既往がない40-60代の健常者20名(男性10名,女性10名)を対象とした(平均年齢48.7±6.6歳)。ISTSとCEの施行順はランダム化し,別日に実施した。またISTSの再現性の確認は20名中6名で実施した。反復起立運動は座面高を腓骨頭上縁までの高さとし,上肢でストックを使用しながら実施した。ISTSのプロトコールは最初6回/分の起立頻度から始まり,45秒毎に2回/分ずつ漸増し,最大12分で終了とした。起立頻度はメトロノームの発信音で調整した。CEのプロトコールは15W/分のramp負荷を用いて最大12分で終了とした(最大負荷量は180W)。酸素摂取量(breath by breath法;ml/min/kg),心拍数,心電図は連続的に記録し,血圧,自覚的運動強度と下肢疲労感のボルグスケールは運動負荷直後に測定した。運動負荷の中止は一般的な運動負荷試験の中止基準に準拠し,予測最大心拍数予備能の80%に達した場合,起立動作がメトロノームの発信音から3動作遅れた場合とし,またATを確認し次第,運動負荷は終了した。AT決定はBeaverらの方法に準拠して2名の判定者により実施した。各起立頻度での終了前30秒間の酸素摂取量は平均値,標準偏差を算出し,起立頻度を独立変数,酸素摂取量を従属変数とする回帰分析を行った。両方法のAT-V(dot)O2,AT-HRの関係はPearson積率相関係数を用いて,平均値の差は対応のあるt検定を用いて検定した。ISTSのAT-V(dot)O2,AT-HRの再現性は,級内相関係数(ICC:1,1)にて確認した。
【倫理的配慮,説明と同意】この研究の参加の任意性及び個人情報保護について,文書及び口頭で被験者に説明し,同意を得た。本研究は,当院,信州大学医学部医倫理委員会の承認を得て実施した。
【結果】全ての被験者はAT確認後,ISTS,CEを完了した。運動負荷直後の自覚的運動強度,下肢疲労感のBorg Scaleの中央値(第1四分位点-第3四分位点)はISTSで13(12-13),12(12-13),CEで13(12-13),13(12-13)であった。起立頻度(x)と酸素摂取量(Y)からY=0.40x+4.6という一次回帰直線式が求められた(p<0.01)。ISTSとCEのAT-V(dot)O2(ml/min/kg)の平均値±標準偏差は各々15.8±0.3,16.0±0.4,AT-HR(bpm)は各々113.5±2.3,116.6±3.2であった。ISTSとCEのAT-V(dot)O2,AT-HRの相関係数は各々r=0.74,0.73で有意な相関がみられた。ISTSとCEのAT-V(dot)O2,AT-HRは有意な差はみられなかった。ISTSを2回測定した時のAT-V(dot)O2とAT-HRのICC(1,1)(95%信頼区間)は各々r=0.84(0.32-0.98),0.76(0.09-0.96)であった。
【考察】運動負荷試験の中止基準に該当する者はなく,心拍数や血圧,Borg Scaleからも今回の座面高と起立頻度での運動負荷は中高年者に対して安全な運動負荷強度だったと考えられる。ISTSの酸素摂取量は,起立頻度の増加と共に直線的に増加することが確認され,反復起立運動の起立頻度から酸素摂取量を推定できる可能性が示唆される。また,ISTSのAT-V(dot)O2,AT-HRはCEのAT-V(dot)O2,AT-HRと強い相関が認められ,ISTSは中高年者を対象としたAT測定に用いる運動負荷方法として併存妥当性が高いと考えられる。更に,ISTSとCEのAT-V(dot)O2,AT-HRに差がみられなかったことから両方法の身体に及ぼす負荷量は同程度であったと思われる。以上のことからISTSは運動耐容能を推定するための運動負荷試験として応用できる可能性が示唆された。しかしISTSのATの再現性について,ICCの95%信頼区間が大きかった。その理由として上肢の使用方法の個人差やサンプル数が少ないことが考えられ,今後の検討課題とする。
【理学療法学研究としての意義】今後,ISTSを用いた運動負荷方法の検討の対象を健康高齢者へ広げ,今回と同様の結果が得られれば,運動耐容能の推定に利用できる可能性が高まり,より多くの人に対する運動耐容能評価,適切な運動処方と運動の効果判定に応用できるようになると考えられる。
【方法】心血管系および整形外科的疾患の既往がない40-60代の健常者20名(男性10名,女性10名)を対象とした(平均年齢48.7±6.6歳)。ISTSとCEの施行順はランダム化し,別日に実施した。またISTSの再現性の確認は20名中6名で実施した。反復起立運動は座面高を腓骨頭上縁までの高さとし,上肢でストックを使用しながら実施した。ISTSのプロトコールは最初6回/分の起立頻度から始まり,45秒毎に2回/分ずつ漸増し,最大12分で終了とした。起立頻度はメトロノームの発信音で調整した。CEのプロトコールは15W/分のramp負荷を用いて最大12分で終了とした(最大負荷量は180W)。酸素摂取量(breath by breath法;ml/min/kg),心拍数,心電図は連続的に記録し,血圧,自覚的運動強度と下肢疲労感のボルグスケールは運動負荷直後に測定した。運動負荷の中止は一般的な運動負荷試験の中止基準に準拠し,予測最大心拍数予備能の80%に達した場合,起立動作がメトロノームの発信音から3動作遅れた場合とし,またATを確認し次第,運動負荷は終了した。AT決定はBeaverらの方法に準拠して2名の判定者により実施した。各起立頻度での終了前30秒間の酸素摂取量は平均値,標準偏差を算出し,起立頻度を独立変数,酸素摂取量を従属変数とする回帰分析を行った。両方法のAT-V(dot)O2,AT-HRの関係はPearson積率相関係数を用いて,平均値の差は対応のあるt検定を用いて検定した。ISTSのAT-V(dot)O2,AT-HRの再現性は,級内相関係数(ICC:1,1)にて確認した。
【倫理的配慮,説明と同意】この研究の参加の任意性及び個人情報保護について,文書及び口頭で被験者に説明し,同意を得た。本研究は,当院,信州大学医学部医倫理委員会の承認を得て実施した。
【結果】全ての被験者はAT確認後,ISTS,CEを完了した。運動負荷直後の自覚的運動強度,下肢疲労感のBorg Scaleの中央値(第1四分位点-第3四分位点)はISTSで13(12-13),12(12-13),CEで13(12-13),13(12-13)であった。起立頻度(x)と酸素摂取量(Y)からY=0.40x+4.6という一次回帰直線式が求められた(p<0.01)。ISTSとCEのAT-V(dot)O2(ml/min/kg)の平均値±標準偏差は各々15.8±0.3,16.0±0.4,AT-HR(bpm)は各々113.5±2.3,116.6±3.2であった。ISTSとCEのAT-V(dot)O2,AT-HRの相関係数は各々r=0.74,0.73で有意な相関がみられた。ISTSとCEのAT-V(dot)O2,AT-HRは有意な差はみられなかった。ISTSを2回測定した時のAT-V(dot)O2とAT-HRのICC(1,1)(95%信頼区間)は各々r=0.84(0.32-0.98),0.76(0.09-0.96)であった。
【考察】運動負荷試験の中止基準に該当する者はなく,心拍数や血圧,Borg Scaleからも今回の座面高と起立頻度での運動負荷は中高年者に対して安全な運動負荷強度だったと考えられる。ISTSの酸素摂取量は,起立頻度の増加と共に直線的に増加することが確認され,反復起立運動の起立頻度から酸素摂取量を推定できる可能性が示唆される。また,ISTSのAT-V(dot)O2,AT-HRはCEのAT-V(dot)O2,AT-HRと強い相関が認められ,ISTSは中高年者を対象としたAT測定に用いる運動負荷方法として併存妥当性が高いと考えられる。更に,ISTSとCEのAT-V(dot)O2,AT-HRに差がみられなかったことから両方法の身体に及ぼす負荷量は同程度であったと思われる。以上のことからISTSは運動耐容能を推定するための運動負荷試験として応用できる可能性が示唆された。しかしISTSのATの再現性について,ICCの95%信頼区間が大きかった。その理由として上肢の使用方法の個人差やサンプル数が少ないことが考えられ,今後の検討課題とする。
【理学療法学研究としての意義】今後,ISTSを用いた運動負荷方法の検討の対象を健康高齢者へ広げ,今回と同様の結果が得られれば,運動耐容能の推定に利用できる可能性が高まり,より多くの人に対する運動耐容能評価,適切な運動処方と運動の効果判定に応用できるようになると考えられる。