第49回日本理学療法学術大会

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発表演題 ポスター » 内部障害理学療法 ポスター

呼吸8

Sat. May 31, 2014 2:50 PM - 3:40 PM ポスター会場 (内部障害)

座長:宮崎慎二郎(KKR高松病院リハビリテーションセンター)

内部障害 ポスター

[1107] 女性で後天的にデュシェンヌ型筋ジストロフィー(manifesting carrier)を発症した症例の呼吸機能と歩行,握力からみた報告

指方梢1, 高橋利幸1, 後藤健太1, 大塚雅恵1, 長尾稔1, 眞子晶太郎1, 岡本麻亜子1, 佐藤颯1, 鷲崎一成2 (1.医療法人財団順和会山王病院リハビリテーションセンター, 2.医療法人財団順和会山王病院神経内科)

Keywords:デュシェンヌ型筋ジストロフィー, manifesting carrier, 呼吸機能

【目的】
症例は,64歳に歩行の動揺から発症した女性で,デュシェンヌ型筋ジストロフィー(以下:DMD)のmanifesting carrierである。発症後1年半程して,当院の外来理学療法を始め,現在も電動車椅子で通院している。両肘手関節と両膝足関節の筋力があり,環境制限はあるが椅子からの起立や,両手に杖を使った歩行が可能である。厚生労働省研究班のDMD機能分類はステージ3に当たる。当初はバスで通院し,バスのステップを辛うじて見守り下で昇降し,ステージ1にあった。
小児のDMDから予想する呼吸不全,心不全,歩行能力低下を予防すべく理学療法を行なうが,既に高齢期の症例が同様であるか,先行症例や類似文献がなく独自的である。症例は,近位筋から筋変性し,仮性筋肥大があり,呼吸筋の萎縮も予想される。既に拡張型心筋症は診断されている。
症例の呼吸機能や歩行を定期的に計測し,追従してきた。これらから若干の知見がみられたので報告する。
【方法】
症例は体調不良や所用等を除き,週2回理学療法を続けている。2010年3月から2013年10月まで1ヶ月ごと定期的に,呼吸機能と10m歩行,握力を測定した。測定はすべて同一検者が実施し,毎回方法を説明した。
10m歩行は最速歩行で4回の計測を基本としたが,体調により4回継続できない回もあり,2回以上計測できたものまでを含めた。
握力は,左右各々2回計測し,最大値を用いた。
呼吸機能は,ミナト医科学社製オートスパイロAS-407を使用し,肺活量(以下:VC)と努力性肺活量(以下:FVC)を計測し,1秒量,最大呼気流量(以下:PEFR),%肺活量(以下:%VC),%1秒量と1秒率を算出した。VCとFVCは各々2~3回計測し,最大値を用いた。計測の間は十分に休息を取らせた。
計44回の計測の内,体調不良等で呼吸機能が未計測だった回を除外し,29回分を用いた。
理学療法開始からの日数(以下:経過日数),1日当りの歩行数(1ヶ月平均値),10m歩行から歩行速度の最速値,最遅値,平均値,また,最速値と最遅値の差(以下:速度差),及び握力と各呼吸機能(VC,FVC,1秒量,PEFR,%VC,%1秒量,1秒率)を各々ピアソンの相関係数を求め,有意に相関を認めたもので重回帰式をみた。統計はjstat130を用い,有意水準は5%未満とした。
【倫理的配慮】
症例へ本研究の目的,方法,不利益性等を書面と口頭で説明し,同意書の署名を以って研究参加を確認した。本研究は当院倫理委員会の承認を受けて実施した。
【結果】
経過日数は,歩行速度の最遅値(r=-0.48)と速度差(r=0.62)で有意に相関した(共にp<0.01)。また,経過日数と呼吸機能では,FVC(r=-0.40,p<0.05)と一秒量(r=-0.55,p<0.01)と%一秒量(r=-0.44,p<0.05)で有意な相関となった。
経過日数は,歩行速度の平均値,最速値,呼吸機能のVC,%VC,一秒率とPEFRとは相関がなかった。また,歩行速度と1日当りの歩行数,握力,呼吸機能は,いずれも相関性はなかった。
有意に相関した最遅値,速度差,FVCと一秒量を,経過日数をyとして重回帰式を求めたところ(%一秒量は一秒量と強相関のため除外),速度差(x1)と一秒量(x2)が採択された(y=173.37x1-1768.88x2+2204.12)。決定係数はR2=0.50で有意となった(p<0.01)。
【考察】
臨床上,10m歩行時の速度差が徐々に広くなる印象はあった。事実,相関性も有意であった。対して,最速値で相関がなく,運動開始時に一時的,瞬間的に発揮する力は残存し,これは握力も同様の理由で残存した。しかし,最遅値は有意に相関し,歩行距離が増すにつれ徐々に疲労が出現しやすくなっており,持久性が低下していると言える。
DMDは骨格筋萎縮と筋力低下が進行し,肺コンプライアンスが低下した拘束性換気障害を呈す。症例は,VCに経時変化はなかったが,%VCはほぼ毎回80%を下回り,拘束性換気障害を示していた。重回帰式で速度差と共に一秒量が採択され,これは胸郭周辺筋力が低下してきていることを表し,中でも下部体幹の呼気筋力低下を表現していると考える。
症例は理学療法の開始当初から胸郭可動性維持等の呼吸機能にも着目し,これまでの限りではVCの低下を防いでいた。今後は持久性や筋力低下の変化を観察し,適切な介入が常にできるよう努めていきたい。
【理学療法学研究としての意義】
神経筋疾患患者の理学療法は,症状進行に伴う身体機能をよく注視し,それは運動機能だけでなく,呼吸機能や心機能にも着目し,その人に見合う治療介入が望まれる。
また,DMD治療の最前線はエクソンスキップ治療が臨床治験段階にある。症例はエクソン51欠失か未精査だが,それ以前にmanifesting carrierは除外対象とされている。現況,機能維持が治療の主体で,このことからも様々な相互関係を評価し,データ追跡することは重要と考える。