[1110] ICUから理学療法を介入した重症熱性血小板減少症候群(Severe fever with thrombocytopenia syndrome:SFTS)ウイルス感染症の一症例
Keywords:SFTS, アスペルギルス肺炎, 呼吸理学療法
【はじめに,目的】重症熱性血小板減少症候群(SFTS)は2011年に中国の研究者らによって発表されたブニヤウイルス科フレボウイルス属に分類される新しいウイルスによるダニ媒介性感染症である。2013年1月,日本国内で初めてSFTSウイルスによる感染症患者の発症が厚生労働省を通じて発表された。本疾患は発熱,消化器症状,神経症状,易感染性,呼吸器症状などを呈し,死に至る患者も少なくない。現在までに当院ICUで2名のSFTSウイルス感染症患者が治療され,一例は80歳代の女性で理学療法を介入することなくアスペルギルス肺炎による呼吸不全により死亡した。もう一例はICUから理学療法を実施し,悪化と緩解を繰り返しながら全身状態の改善がみられた。これまでSFTSウイルス感染症患者の理学療法経過に関する報告はない。そこで今回,ICUから理学療法を介入し良好な成績が得られたSFTSウイルス感染症患者の理学療法経過について報告する。
【方法,症例紹介】症例は50歳代女性で,草むしりなどをすることがしばしばあった。38度台の発熱,下痢,嘔気,全身倦怠感,食思不振が出現し,近医を受診した。右鼡径リンパ節腫大,白血球減少,血小板減少,肝機能障害,凝固線溶異常を認めたため同院入院となった。全身CTスキャンで腸管浮腫,右外腸骨から右鼡径リンパ節の腫大を認め,骨髄検査で血球貪食像を認めた。抗生剤,トロンボモジュリン,ステロイドパルス療法が開始されたが,8日目には白血球減少,肝機能障害,凝固線溶異常の改善が乏しく当院ICUへ転院となった。同日,既出の検体からSFTSウイルス陽性が確認された。11日目より呼吸不全,心房細動,血圧低下などを認め,人工呼吸器管理および除細動,循環作動薬が投与された。14日目より全身状態が落ち着き,医師より理学療法の依頼があり,理学療法開始となった。無気肺に対する呼吸理学療法を主に実施し,翌日には改善が得られた。しかし気管支鏡,痰培養およびCT所見にてアスペルギルス肺炎,脳膿瘍と診断された。気管および気管支内に多量の白苔が見られ,また脳膿瘍の影響で意識レベルの低下を認めた。よって理学療法の目的を気道確保および体位管理とし,完全側臥位や前傾側臥位への体位ドレナージやHead up等を施行した。その後痰量が多くなり,体位ドレナージやスクイージングなどでは十分に排痰が困難と判断し,スマートベストを使用した。また抗生剤投与による脳膿瘍のコントロールが良好となり,意識レベルの改善がみられるようになってから目標を離床へ移行し,端座位練習などを実施した。61日目にICUを退室し,一般病棟に転棟となった。その後も病棟担当の理学療法士が介入を継続し,段階的に理学療法をすすめた。その間に意識状態や呼吸状態,感染,多臓器不全などに改善を認め,徐々に人工呼吸器のウィニングが進んだ。75日目には初めて車椅子移乗を施行した。その後,呼吸器を離脱し,立ちあがりや歩行が可能となり転院となった。
【倫理的配慮】当院では入院時,全例とも事前に書面によって匿名での検査データの公表について説明され同意を得ているが,本症例については直接本人および家族より同意を得た。
【考察】SFTSウイルス感染症患者の死亡率は約6.3~50%であり,日本においては平成25年9月で発症者が32名,うち11名の死亡が確認されていることから死亡率は34%程度である。このように死亡率が高い背景には効果的な治療方法がなく,基本的には対症療法であることがあげられる。また発症者が農業をする高齢者が多く,免疫力の低下に伴う合併症に耐え得る全身状態にないこともあげられる。今回,理学療法の経験を得た患者は50歳代と若いことも,合併症に耐えて救命できた要因であると思われる。また,SFTSウイルス感染症によりアスペルギルス肺炎を合併した患者に呼吸理学療法を施行することが呼吸状態の維持および改善を図り,呼吸不全を回避して救命の一助になったと思われる。
本症例を経験して,SFTSウイルス感染症患者の二次的な合併症の病態に対して,特に呼吸不全が予測される場合には理学療法の介入が必要であると思われた。
【理学療法学研究としての意義】SFTSウイルス感染症患者に対して理学療法を介入した報告はなく,今回の報告はICUから継続した理学療法を行うことによりSFTSウイルス感染症患者への理学療法の効果と有効性を示すものである。
【方法,症例紹介】症例は50歳代女性で,草むしりなどをすることがしばしばあった。38度台の発熱,下痢,嘔気,全身倦怠感,食思不振が出現し,近医を受診した。右鼡径リンパ節腫大,白血球減少,血小板減少,肝機能障害,凝固線溶異常を認めたため同院入院となった。全身CTスキャンで腸管浮腫,右外腸骨から右鼡径リンパ節の腫大を認め,骨髄検査で血球貪食像を認めた。抗生剤,トロンボモジュリン,ステロイドパルス療法が開始されたが,8日目には白血球減少,肝機能障害,凝固線溶異常の改善が乏しく当院ICUへ転院となった。同日,既出の検体からSFTSウイルス陽性が確認された。11日目より呼吸不全,心房細動,血圧低下などを認め,人工呼吸器管理および除細動,循環作動薬が投与された。14日目より全身状態が落ち着き,医師より理学療法の依頼があり,理学療法開始となった。無気肺に対する呼吸理学療法を主に実施し,翌日には改善が得られた。しかし気管支鏡,痰培養およびCT所見にてアスペルギルス肺炎,脳膿瘍と診断された。気管および気管支内に多量の白苔が見られ,また脳膿瘍の影響で意識レベルの低下を認めた。よって理学療法の目的を気道確保および体位管理とし,完全側臥位や前傾側臥位への体位ドレナージやHead up等を施行した。その後痰量が多くなり,体位ドレナージやスクイージングなどでは十分に排痰が困難と判断し,スマートベストを使用した。また抗生剤投与による脳膿瘍のコントロールが良好となり,意識レベルの改善がみられるようになってから目標を離床へ移行し,端座位練習などを実施した。61日目にICUを退室し,一般病棟に転棟となった。その後も病棟担当の理学療法士が介入を継続し,段階的に理学療法をすすめた。その間に意識状態や呼吸状態,感染,多臓器不全などに改善を認め,徐々に人工呼吸器のウィニングが進んだ。75日目には初めて車椅子移乗を施行した。その後,呼吸器を離脱し,立ちあがりや歩行が可能となり転院となった。
【倫理的配慮】当院では入院時,全例とも事前に書面によって匿名での検査データの公表について説明され同意を得ているが,本症例については直接本人および家族より同意を得た。
【考察】SFTSウイルス感染症患者の死亡率は約6.3~50%であり,日本においては平成25年9月で発症者が32名,うち11名の死亡が確認されていることから死亡率は34%程度である。このように死亡率が高い背景には効果的な治療方法がなく,基本的には対症療法であることがあげられる。また発症者が農業をする高齢者が多く,免疫力の低下に伴う合併症に耐え得る全身状態にないこともあげられる。今回,理学療法の経験を得た患者は50歳代と若いことも,合併症に耐えて救命できた要因であると思われる。また,SFTSウイルス感染症によりアスペルギルス肺炎を合併した患者に呼吸理学療法を施行することが呼吸状態の維持および改善を図り,呼吸不全を回避して救命の一助になったと思われる。
本症例を経験して,SFTSウイルス感染症患者の二次的な合併症の病態に対して,特に呼吸不全が予測される場合には理学療法の介入が必要であると思われた。
【理学療法学研究としての意義】SFTSウイルス感染症患者に対して理学療法を介入した報告はなく,今回の報告はICUから継続した理学療法を行うことによりSFTSウイルス感染症患者への理学療法の効果と有効性を示すものである。