[1118] 人工呼吸器装着患者に対するリハビリテーション施行時の安全管理
キーワード:人工呼吸器, 安全管理, インシデント
【はじめに,目的】
当院障害者病棟では,筋萎縮性側索硬化症(Amyotrophic Lateral Sclerosis:ALS)を中心とした侵襲的陽圧換気療法(Tracheostomy Positive Pressure Ventilation:TPPV),非侵襲的陽圧換気療法(Noninvasive Positive Pressure Ventilation:NPPV)導入中の神経筋疾患患者に対し,多職種でのケアやリハビリテーション(リハ),在宅支援を積極的に行ってきた。2011年4月より更なるケアの向上を目標に,障害者自立支援法に基づく療養介護事業20床を開設し,積極的なリハに取り組んでいる。この事業をきっかけに,理学療法(PT)において呼吸器に携わる機会が増えたのと同時に,患者毎に異なる呼吸器機種に対する知識や回路・気管カニューレに対する取り扱いを学習することが重要となった。今回,TPPV・NPPVに関連した,平成23年4月1日から平成25年3月31日の間に発生した人工呼吸器に関するインシデント報告件数および発生状況から,この間に取り組んだ安全対策前後のインシデント発生状況の変化を検証し,人工呼吸器に対する安全管理について検討したので報告する。
【方法】
平成23-24年度の2年間で発生したインシデント報告より,障害者病棟におけるリハスタッフ,病棟スタッフによる各インシデント報告件数と発生状況を調査し,平成24年1月から2月に実施した安全管理対策前後のインシデント報告件数,インシデント発生状況の変化について検討した。
【倫理的配慮,説明と同意】
事故の情報に関しては医療記録およびインシデント報告から個人が特定できないように配慮した。また,今回の発表にあたり当院医療安全管理部およびリスクマネジメント委員会へ発表内容および目的を説明し,本研究に対する同意を得た。
【結果】
対策前のインシデント報告数は,病棟,リハに係わるもので合計82件,内人工呼吸器に係わるインシデントは17件で全体の21.25%を占めていた。インシデント発生状況では,呼吸器本体に係わるもの7件(内訳:リハ5件,病棟2件),気管カニューレ・呼吸器回路に係わるもの10件(内訳:リハ4件,病棟6件)であった。病院リスクマネジメント委員会,病棟スタッフとも協議し,注意喚起および具体的対策として多職種で共通確認できる人工呼吸器チェックシートの運用,ハード面で非常用電源の造設およびロック付コンセントへの変更を行った。結果,対策後のインシデント報告数は,病棟,リハに係わるもの合計60件,内呼吸器に係わるインシデントは5件で全体の8.3%に減少し,インシデント発生状況では,呼吸器本体に係わるもの2件(内訳:リハ0件,病棟2件),気管カニューレ・呼吸器回路に係わるもの3件(内訳:リハ0件,病棟3件)とインシデント発生件数の著明な減少が認められた。
【考察】
当院では,ALSなどTPPV・NPPV導入中の神経筋疾患患者に対し,カフアシスト®などの機械的排痰援助や呼吸器離脱などの呼吸理学療法,人工呼吸器装着下での歩行・坐位練習などのPTを積極的に実施している。調査期間中,幸いにもアクシデント報告は無かったが,インシデントの発生状況からリハスタッフは人工呼吸器を車椅子に搭載し離床する機会が多いことによる電源の入れ忘れなど人工呼吸器本体に係わるインシデント報告が多かった。それに対し,病棟スタッフは,看護,介護面からカニューレや回路に係わるインシデント報告が多いことが明らかとなった。その原因の多くは確認不足が大半を占めており,ハード面,ソフト面での改善が必要である事から,チェック体制の強化,ロック付コンセントへの変更など病院をあげて取り組んだ。結果,リハスタッフのみならず病棟スタッフの意識統一につながり,安全管理に対する意識も向上しインシデント報告件数の減少につながったと考える。また,人工呼吸器を移動した際には,担当者が呼吸器の安全点検を行った後,第3者へのダブルチェックを依頼し,安全管理を徹底するなどの対策を実施した。しかし,安全管理対策後にもインシデント報告が5件報告されており十分とは言えないのが現状である。この原因として,病棟スタッフは人工呼吸器に携わる頻度が多いことや,定期的な注意喚起が必要であること,スタッフの移動や新人職員への周知徹底が出来ていなかったこともインシデント発生の要因として考えられた為,今後の検討課題としたい。
【理学療法学研究としての意義】
近年,医療技術の進歩とともに,呼吸,循環器疾患を含めPTにおいて医療依存度の高い患者へ対応する機会が増えている。平成22年4月30日,厚生労働省医政局長からの通達をもって,理学療法士への気管内吸引が制度として認められるなど,今後,複雑化する医療技術に合わせた知識,技術を習得し,職域を堅持していくためにも医療安全に関する意識の向上は必要不可欠であると考える。
当院障害者病棟では,筋萎縮性側索硬化症(Amyotrophic Lateral Sclerosis:ALS)を中心とした侵襲的陽圧換気療法(Tracheostomy Positive Pressure Ventilation:TPPV),非侵襲的陽圧換気療法(Noninvasive Positive Pressure Ventilation:NPPV)導入中の神経筋疾患患者に対し,多職種でのケアやリハビリテーション(リハ),在宅支援を積極的に行ってきた。2011年4月より更なるケアの向上を目標に,障害者自立支援法に基づく療養介護事業20床を開設し,積極的なリハに取り組んでいる。この事業をきっかけに,理学療法(PT)において呼吸器に携わる機会が増えたのと同時に,患者毎に異なる呼吸器機種に対する知識や回路・気管カニューレに対する取り扱いを学習することが重要となった。今回,TPPV・NPPVに関連した,平成23年4月1日から平成25年3月31日の間に発生した人工呼吸器に関するインシデント報告件数および発生状況から,この間に取り組んだ安全対策前後のインシデント発生状況の変化を検証し,人工呼吸器に対する安全管理について検討したので報告する。
【方法】
平成23-24年度の2年間で発生したインシデント報告より,障害者病棟におけるリハスタッフ,病棟スタッフによる各インシデント報告件数と発生状況を調査し,平成24年1月から2月に実施した安全管理対策前後のインシデント報告件数,インシデント発生状況の変化について検討した。
【倫理的配慮,説明と同意】
事故の情報に関しては医療記録およびインシデント報告から個人が特定できないように配慮した。また,今回の発表にあたり当院医療安全管理部およびリスクマネジメント委員会へ発表内容および目的を説明し,本研究に対する同意を得た。
【結果】
対策前のインシデント報告数は,病棟,リハに係わるもので合計82件,内人工呼吸器に係わるインシデントは17件で全体の21.25%を占めていた。インシデント発生状況では,呼吸器本体に係わるもの7件(内訳:リハ5件,病棟2件),気管カニューレ・呼吸器回路に係わるもの10件(内訳:リハ4件,病棟6件)であった。病院リスクマネジメント委員会,病棟スタッフとも協議し,注意喚起および具体的対策として多職種で共通確認できる人工呼吸器チェックシートの運用,ハード面で非常用電源の造設およびロック付コンセントへの変更を行った。結果,対策後のインシデント報告数は,病棟,リハに係わるもの合計60件,内呼吸器に係わるインシデントは5件で全体の8.3%に減少し,インシデント発生状況では,呼吸器本体に係わるもの2件(内訳:リハ0件,病棟2件),気管カニューレ・呼吸器回路に係わるもの3件(内訳:リハ0件,病棟3件)とインシデント発生件数の著明な減少が認められた。
【考察】
当院では,ALSなどTPPV・NPPV導入中の神経筋疾患患者に対し,カフアシスト®などの機械的排痰援助や呼吸器離脱などの呼吸理学療法,人工呼吸器装着下での歩行・坐位練習などのPTを積極的に実施している。調査期間中,幸いにもアクシデント報告は無かったが,インシデントの発生状況からリハスタッフは人工呼吸器を車椅子に搭載し離床する機会が多いことによる電源の入れ忘れなど人工呼吸器本体に係わるインシデント報告が多かった。それに対し,病棟スタッフは,看護,介護面からカニューレや回路に係わるインシデント報告が多いことが明らかとなった。その原因の多くは確認不足が大半を占めており,ハード面,ソフト面での改善が必要である事から,チェック体制の強化,ロック付コンセントへの変更など病院をあげて取り組んだ。結果,リハスタッフのみならず病棟スタッフの意識統一につながり,安全管理に対する意識も向上しインシデント報告件数の減少につながったと考える。また,人工呼吸器を移動した際には,担当者が呼吸器の安全点検を行った後,第3者へのダブルチェックを依頼し,安全管理を徹底するなどの対策を実施した。しかし,安全管理対策後にもインシデント報告が5件報告されており十分とは言えないのが現状である。この原因として,病棟スタッフは人工呼吸器に携わる頻度が多いことや,定期的な注意喚起が必要であること,スタッフの移動や新人職員への周知徹底が出来ていなかったこともインシデント発生の要因として考えられた為,今後の検討課題としたい。
【理学療法学研究としての意義】
近年,医療技術の進歩とともに,呼吸,循環器疾患を含めPTにおいて医療依存度の高い患者へ対応する機会が増えている。平成22年4月30日,厚生労働省医政局長からの通達をもって,理学療法士への気管内吸引が制度として認められるなど,今後,複雑化する医療技術に合わせた知識,技術を習得し,職域を堅持していくためにも医療安全に関する意識の向上は必要不可欠であると考える。