第49回日本理学療法学術大会

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発表演題 ポスター » 運動器理学療法 ポスター

骨・関節25

Sat. May 31, 2014 2:50 PM - 3:40 PM ポスター会場 (運動器)

座長:淵岡聡(大阪府立大学大学院総合リハビリテーション学研究科)

運動器 ポスター

[1124] 人工膝関節全置換術前後のTimed Up and Go Testの変化について

直江祐樹, 南端翔多 (三重大学医学部附属病院リハビリテーション部)

Keywords:人工膝関節全置換術, TUG, 歩行解析

【はじめに,目的】
歩行能力を含めた移動能力の評価として,Timed Up and Go Test(以下TUG)が行われている。変形性膝関節症に対する人工膝関節全置換術(Total Knee Arthroplasty:以下TKA)前後の移動能力の評価としてTUGが行われ,術後改善するとの報告が多くみられる。しかし,TUGは,立ち上がる,歩く,方向変換,座る,の複数の要素が含まれているため,どの要素が変化したかは全体の時間計測だけではわからない。今回,変形性膝関節症患者のTKA施行前後にTUGをデジタルカメラにて撮影し,その映像を分析した結果について報告する。
【方法】
当院にて平成22年4月~平成25年8月までに変形性膝関節症にてTKAを施行し,術前後にTUGをビデオ撮影した41例(男性9例,女性32例)を対象とした。平均年齢73.1歳±9.5歳,身長151.7±8.7cm,体重61.4±14.1kg,BMI26.7±5.3,術後TUG測定は,術後22.1±5.7日であった。TUGは通常歩行速度にて術前,退院前に実施し,デジタルカメラにて側面から撮影した。
映像はフリーソフト「AviUtl」を使用し,30コマ/秒で取り込み解析した。スタート合図の掛け声の音声が途絶えたフレーム数をスタートフレームとし,0.5m,2.5m,3.5m,5.5mの地点を足尖部が通過したフレーム数をカウントし,時間を計算した。ゴールは,座面に殿部が接地したフレーム数をカウントし,時間を計算した。また,0.5mから2.5mまでの歩行時間,2.5mから3.5mまでの方向変換を含む時間,3.5mから5.5mまでの歩行時間,5.5mからゴールまでの座る動作を含めた時間を計測した。統計解析は,術前・術後で対応のあるt検定を用いて比較し,有意水準を5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
対象者には,歩行映像について,手術前後で比較検討する目的で撮影することを口頭にて説明し,同意を得て実施した。
【結果】
術前の各地点の通過時間は,0.5m2.5秒,2.5m5.7秒,3.5m9.8秒,5.5m12.9秒,ゴール時間は16.2秒,0.5~2.5mの歩行時間は3.2秒,2.5m~3.5mの方向変換時間は4.0秒,3.5m~5.5mの歩行時間は3.1秒,5.5m~ゴール時間は3.3秒であった。同様に術後は,0.5m2.1秒,2.5m5.1秒,3.5m9.0秒,5.5m11.9秒,ゴール時間は15.3秒,0.5~2.5mの歩行時間3.0秒,2.5m~3.5mの方向変換時間3.9秒,3.5~5.5mの歩行時間は2.9秒,5.5m~ゴール時間は3.4秒であった。0.5m,2.5m通過時間で術後の方が有意に速かった。
【考察】
変形性膝関節症患者は,立ち上がり動作時や歩き始めが痛いという訴えが多い。今回スタートから0.5mまでの通過時間と,2.5mまでの通過時間が有意に速くなった。これらのことから,TKA施行と術後理学療法により,立ち上がり,歩き始めるという痛みがあり日常生活上問題となっていた動作が改善したと考えられる。
スタートから0.5m通過時間は,立ち上がりから1歩目で通過しており,立ち上がり1歩目までの時間を表している。変形性膝関節症の椅子からの立ち上がり動作に影響を与える因子として,疼痛と膝関節周囲筋力が関与すると報告されている。当院でのTKAに関する先行研究では,疼痛は術後2週~3週で術前とほぼ同等まで改善し,膝伸展筋力は3週で術前とほぼ同等まで改善すると報告している。今回術後約3週でTUGを測定しており,疼痛,筋力ともに術前と同等になっていると考えられる。このことより,立ち上がり動作自体の速度の改善よりも,1歩目を出すまでの時間が改善したと考えられる。
2.5mの通過時間は,立ち上がり,歩き始めてから加速していく歩行を表していると考えられる。0.5mから2.5mまでの歩行要素だけの比較では有意差が無かったことから,歩き始めの歩行のみが改善したのではなく,立ち上がり歩き始めて加速していくという一連の動作全体として改善したと考えられる。
歩行分析としては,一定速度で歩く定常歩行の分析は多く行われているが,立ち上がり歩き始めるという場面での歩行に関する分析の報告はまだ少ない。今後は,歩き始めの重複歩距離や歩行率などについても映像から分析し,それらがどう変化したのかを検討する必要があると考えている。
【理学療法学研究としての意義】
TUGの測定は比較的容易に実施できる歩行以外の要素を含んだ,複合的な移動能力の評価であるが,改善した場合にどの部分が改善したかわからない。今回,TUGを距離で分けることにより,立ち上がり・座る動作,方向変換と歩行という複合的な要素を分けて検討した。TKA前後のTUGを比較し,どの部分が改善したかを明らかにすることができた。今後理学療法を実施していくうえで,どの部分が改善可能であるのか,どの要素が改善しにくいのかを検討していくための基礎的なデータとなると考えられる。