[1127] 人工膝関節全置換術後患者における術後入院期間予測のノモグラム
キーワード:人工膝関節全置換術, 入院期間, ノモグラム
【目的】
人工膝関節全置換術(以下,TKA)術後のクリニカルパスは,治療の効率化を図る上で多くの施設で導入されている。当院においても理学療法スケジュールとして使用し,術後1週でのT-cane歩行自立,3週での自宅退院を設定している。しかしながら,クリニカルパスからのバリアンスがみられることがあり,入院期間の長期化や関連病院等への転院(以下,リハ転院)となるケースも散見される。転院の基準を明確にし,そのような症例を把握することは,理学療法のゴールを設定し円滑に治療をすすめる上で有用であると考える。本研究の目的は,TKA術後の入院期間長期化に影響を及ぼす術前予測因子(身体機能ならびに患者因子)を検討することによって,入院期間の予測指標の1つを作成することである。
【方法】
対象は2011年1月から2013年7月までに当院で片側または両側の初回TKAを施行した者とした。原因疾患診断名は変形性膝関節症,大腿骨内顆骨壊死症,リウマチ性膝関節炎とし,年齢,性別は不問とした。術前身体機能因子は,膝関節可動域(屈曲,伸展),等尺性膝伸展筋力体重比,WOMACスコア(疼痛,身体機能),歩行能力(自立または困難・介助)とした。患者因子は,年齢,性別,BMI,罹患側(片側または両側),整形外科的既往の有無(膝関節,股関節,足関節,脊椎),内科的疾患の有無(高血圧,糖尿病,心疾患),脳血管疾患,悪性腫瘍,神経疾患,精神疾患それぞれの既往の有無,家庭環境(独居または同居)とした。また,術後因子として,荷重制限の有無,DVTの有無,術後1週歩行レベルを加えた。予備研究として術後入院期間に関連のある因子を分析し,最も関連の高かった術後1週歩行レベルを従属変数とした。その従属変数をT-cane歩行または独歩自立群と,歩行非自立群の2群に分けた後,術前身体機能因子,患者因子,術後1週歩行レベルを除いた術後因子を予測変数としたロジスティック回帰分析を行った。そして,抽出された因子による予測モデルのノモグラムを作成した。さらに,Receiver Operating Characteristic(以下,ROC)曲線を用いて判定精度を評価した。
【説明と同意】
ヘルシンキ条約に則り,対象者には研究の主旨を説明し,同意を得た。
【結果】
265名が基準を満たしたが,術後入院期間が22日から28日となる患者は退院日調整による社会的入院を考慮して除外した。解析対象は141名(男性25名,女性116名),平均年齢(標準偏差)72.0(8.9)歳,BMI26.2(4.3)kg/m2,術後入院期間25.1(7.2)日となった。分析の結果,WOMAC身体機能スコア,罹患側,脳血管疾患既往の有無,年齢,家庭環境,内科的疾患の合計数,膝関節屈曲可動域が予測因子として抽出された。作成したノモグラムによるROC曲線の曲線下面積は0.80,95%信頼区間は0.72~0.87,的中率は74.6%であった。
【考察】
TKA術後の入院期間は,海外においては4~7日との報告もあるが,日本においては平均35.1日との報告もある。これは,日本国内だけでも各施設の設定するクリニカルパスの違いや使用の有無があり,さらに回復過程の個人差が存在するためと考えられる。クリニカルパスにおけるバリアンスの原因は,患者や家族によるもの,医師やスタッフによるものなど様々な要因が考えられ,医学的アウトカムや入院期間に影響すると報告されている。本研究においても,これら要因に関連する社会的入院を考慮せざるを得ず,術後入院期間を従属変数とする予測モデルを作成することは困難であった。予測因子に関しては,身体機能因子である膝関節伸展可動域,等尺性膝伸展筋力体重比,WOMAC疼痛スコアは抽出されなかった。これらの原因として,術後は侵襲により筋出力や疼痛は様々で,個人差が大きいことが考えられる。ノモグラムは,多数の因子を同時に考慮して簡便に予後を予測することが可能な図表である。今回作成された本研究のノモグラムは,術後1週でのT-cane歩行自立の可否を中等度の精度で判断することができるという結果となった。故に,術後入院期間と最も関連があり,ADL自立の指標の1つである術後1週歩行レベルを従属変数とした本研究のノモグラムは,術後入院期間の長期化を予測することが可能な指標の1つとなると考える。今後,このノモグラムを実際に用いた外的妥当性の評価を,当院だけでなくTKAを施行している他院においても実施されることが望まれる。
【理学療法学研究としての意義】
本研究で作成されたノモグラムは,術後1週の歩行レベルを判断基準として術後入院期間長期化となる患者の予測が可能となるであろう。このノモグラムを用いて理学療法のゴールを設定することは,治療の効率化ならびにリハ転院を目的とした関連病院との連携を円滑に進める上でも有用なものとなると考える。
人工膝関節全置換術(以下,TKA)術後のクリニカルパスは,治療の効率化を図る上で多くの施設で導入されている。当院においても理学療法スケジュールとして使用し,術後1週でのT-cane歩行自立,3週での自宅退院を設定している。しかしながら,クリニカルパスからのバリアンスがみられることがあり,入院期間の長期化や関連病院等への転院(以下,リハ転院)となるケースも散見される。転院の基準を明確にし,そのような症例を把握することは,理学療法のゴールを設定し円滑に治療をすすめる上で有用であると考える。本研究の目的は,TKA術後の入院期間長期化に影響を及ぼす術前予測因子(身体機能ならびに患者因子)を検討することによって,入院期間の予測指標の1つを作成することである。
【方法】
対象は2011年1月から2013年7月までに当院で片側または両側の初回TKAを施行した者とした。原因疾患診断名は変形性膝関節症,大腿骨内顆骨壊死症,リウマチ性膝関節炎とし,年齢,性別は不問とした。術前身体機能因子は,膝関節可動域(屈曲,伸展),等尺性膝伸展筋力体重比,WOMACスコア(疼痛,身体機能),歩行能力(自立または困難・介助)とした。患者因子は,年齢,性別,BMI,罹患側(片側または両側),整形外科的既往の有無(膝関節,股関節,足関節,脊椎),内科的疾患の有無(高血圧,糖尿病,心疾患),脳血管疾患,悪性腫瘍,神経疾患,精神疾患それぞれの既往の有無,家庭環境(独居または同居)とした。また,術後因子として,荷重制限の有無,DVTの有無,術後1週歩行レベルを加えた。予備研究として術後入院期間に関連のある因子を分析し,最も関連の高かった術後1週歩行レベルを従属変数とした。その従属変数をT-cane歩行または独歩自立群と,歩行非自立群の2群に分けた後,術前身体機能因子,患者因子,術後1週歩行レベルを除いた術後因子を予測変数としたロジスティック回帰分析を行った。そして,抽出された因子による予測モデルのノモグラムを作成した。さらに,Receiver Operating Characteristic(以下,ROC)曲線を用いて判定精度を評価した。
【説明と同意】
ヘルシンキ条約に則り,対象者には研究の主旨を説明し,同意を得た。
【結果】
265名が基準を満たしたが,術後入院期間が22日から28日となる患者は退院日調整による社会的入院を考慮して除外した。解析対象は141名(男性25名,女性116名),平均年齢(標準偏差)72.0(8.9)歳,BMI26.2(4.3)kg/m2,術後入院期間25.1(7.2)日となった。分析の結果,WOMAC身体機能スコア,罹患側,脳血管疾患既往の有無,年齢,家庭環境,内科的疾患の合計数,膝関節屈曲可動域が予測因子として抽出された。作成したノモグラムによるROC曲線の曲線下面積は0.80,95%信頼区間は0.72~0.87,的中率は74.6%であった。
【考察】
TKA術後の入院期間は,海外においては4~7日との報告もあるが,日本においては平均35.1日との報告もある。これは,日本国内だけでも各施設の設定するクリニカルパスの違いや使用の有無があり,さらに回復過程の個人差が存在するためと考えられる。クリニカルパスにおけるバリアンスの原因は,患者や家族によるもの,医師やスタッフによるものなど様々な要因が考えられ,医学的アウトカムや入院期間に影響すると報告されている。本研究においても,これら要因に関連する社会的入院を考慮せざるを得ず,術後入院期間を従属変数とする予測モデルを作成することは困難であった。予測因子に関しては,身体機能因子である膝関節伸展可動域,等尺性膝伸展筋力体重比,WOMAC疼痛スコアは抽出されなかった。これらの原因として,術後は侵襲により筋出力や疼痛は様々で,個人差が大きいことが考えられる。ノモグラムは,多数の因子を同時に考慮して簡便に予後を予測することが可能な図表である。今回作成された本研究のノモグラムは,術後1週でのT-cane歩行自立の可否を中等度の精度で判断することができるという結果となった。故に,術後入院期間と最も関連があり,ADL自立の指標の1つである術後1週歩行レベルを従属変数とした本研究のノモグラムは,術後入院期間の長期化を予測することが可能な指標の1つとなると考える。今後,このノモグラムを実際に用いた外的妥当性の評価を,当院だけでなくTKAを施行している他院においても実施されることが望まれる。
【理学療法学研究としての意義】
本研究で作成されたノモグラムは,術後1週の歩行レベルを判断基準として術後入院期間長期化となる患者の予測が可能となるであろう。このノモグラムを用いて理学療法のゴールを設定することは,治療の効率化ならびにリハ転院を目的とした関連病院との連携を円滑に進める上でも有用なものとなると考える。