[1129] 肩関節可動域の年齢と利き手の影響
Keywords:肩関節可動域, 年齢, 利き手
【はじめに,目的】
肩関節は大きな可動性と円滑な運動能力を有することで,日常生活やスポーツ動作において手指の能力を十分に発揮させることができる。肩関節可動域の標準値は加齢変化や利き手の影響を受けると報告されているが,測定の方法や種類は様々であり,その標準値については一致した見解が得られていない。
そこで今回,肩関節可動域の年齢と利き手の影響を明らかにすることを目的に調査研究を実施した。
【方法】
当院とフィットネスジムにて40歳以上の対象者を募集し,肩関節に愁訴のない40歳から89歳の健常成人199名(男性74名,女性125名・平均年齢64.3±11.7歳)を対象とした。対象者を40歳から49歳(40代),50歳から59歳(50代),60歳から69歳(60代),70歳から79歳(70代),80歳から89歳(80代)に分類した。
測定項目は,屈曲(Flex),外転(Abd),下垂位外旋(ER1),外転位外旋(ABER),外転位内旋(ABIR),屈曲位内旋(IRF),水平内転(H.Add),水平外転(H.Abd)の8項目とし,自動運動を左右両側ともに,一人の検者が関節角度計を用いて測定した。Flex,Abd,ER1,H.Add,H.Abdは日本整形外科学会の定めた関節可動域測定方法に準じて測定を行った。ABERとABIRは外転90度位での外旋および内旋可動域を,IRFは屈曲90度位での内旋可動域を測定した。測定肢位は,背もたれのない椅子に,足底を接地した椅坐位とした。
統計学的検討は利き手と非利き手の関係を比較するためにWilcoxonの符号付き順位検定を行った。各年代間のそれぞれ利き手を比較するため,Kruskal-Wallis検定を行い,さらに,Tukeyのhonestly significant difference post hoc testを行った。全ての検定の統計学的有意水準は5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は当院倫理委員会により承認を受けた上で実施した。全対象者に対し,事前に十分な説明を行い,研究参加への同意と同意書への署名を得た。
【結果】
利き手の影響について,男性,女性それぞれABERは利き手の関節可動域が有意に大きかったが,ABER以外の7項目では利き手の関節可動域が小さく,Flex,ABIR,IRF,H.Add,H.Abdにおいて有意差を認めた。
年代による特徴として,男性において,各年代間の比較を行った場合,Flex,Abd,ER1,ABERに年代による有意な差を認め,80代はその他全ての年代に比べて有意な低下を示した。また,FlexやAbdでは70代も40代に比べて有意な低下を示した。ABIR,IRF,H.Add,H.Abdについては各年代間で有意な差を認めなかった。女性において,Flex,Abd,ER1,ABER,H.Addで70代や80代は,その他の年代より有意に低下していた。ABIRとIRFは,40代がその他の年代と比べて有意に低値を示した。
【考察】
本研究では40歳以上の各年代の男性と女性において,肩関節可動域の年代的特徴,また利き手の影響を明らかにした。利き手はABERが大きく,ABIRやIRF,H.Addが小さいことから,上腕骨後捻角の左右差に加えて,後方関節構成体の柔軟性低下が利き手に出現する可能性が高いことが考えられた。その結果,肩甲上腕関節内で骨頭の後方への滑りが必要とされるFlexでも利き手の関節可動域が小さかったのではないかと考えられた。本研究で男性の80代は8項目の関節可動域の低下を認め,70代ではFlexとAbdが40代に比べて有意に低下していた。70代から肩甲上腕関節のみならず,肩甲胸郭関節の可動性の制限が出現し始める可能性が考えられた。一方,女性の40代において後方関節構成体の柔軟性を反映するABIRやIRFが有意に低値を示す結果となった。後方関節構成体の柔軟性低下は,その他の肩関節可動域を制限し,種々の肩関節疾患の要因になると報告されており,40代でのABIRやIRFの低下は,肩関節周囲炎の前駆症状である可能性が考えられた。
【理学療法学研究としての意義】
肩関節可動域の年齢や利き手の影響を明らかにすることで,標準値となりうる有用な結果であるとともに,生理的な加齢変化や疾患による病的変化の鑑別評価に資するものと考えられる。
肩関節は大きな可動性と円滑な運動能力を有することで,日常生活やスポーツ動作において手指の能力を十分に発揮させることができる。肩関節可動域の標準値は加齢変化や利き手の影響を受けると報告されているが,測定の方法や種類は様々であり,その標準値については一致した見解が得られていない。
そこで今回,肩関節可動域の年齢と利き手の影響を明らかにすることを目的に調査研究を実施した。
【方法】
当院とフィットネスジムにて40歳以上の対象者を募集し,肩関節に愁訴のない40歳から89歳の健常成人199名(男性74名,女性125名・平均年齢64.3±11.7歳)を対象とした。対象者を40歳から49歳(40代),50歳から59歳(50代),60歳から69歳(60代),70歳から79歳(70代),80歳から89歳(80代)に分類した。
測定項目は,屈曲(Flex),外転(Abd),下垂位外旋(ER1),外転位外旋(ABER),外転位内旋(ABIR),屈曲位内旋(IRF),水平内転(H.Add),水平外転(H.Abd)の8項目とし,自動運動を左右両側ともに,一人の検者が関節角度計を用いて測定した。Flex,Abd,ER1,H.Add,H.Abdは日本整形外科学会の定めた関節可動域測定方法に準じて測定を行った。ABERとABIRは外転90度位での外旋および内旋可動域を,IRFは屈曲90度位での内旋可動域を測定した。測定肢位は,背もたれのない椅子に,足底を接地した椅坐位とした。
統計学的検討は利き手と非利き手の関係を比較するためにWilcoxonの符号付き順位検定を行った。各年代間のそれぞれ利き手を比較するため,Kruskal-Wallis検定を行い,さらに,Tukeyのhonestly significant difference post hoc testを行った。全ての検定の統計学的有意水準は5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は当院倫理委員会により承認を受けた上で実施した。全対象者に対し,事前に十分な説明を行い,研究参加への同意と同意書への署名を得た。
【結果】
利き手の影響について,男性,女性それぞれABERは利き手の関節可動域が有意に大きかったが,ABER以外の7項目では利き手の関節可動域が小さく,Flex,ABIR,IRF,H.Add,H.Abdにおいて有意差を認めた。
年代による特徴として,男性において,各年代間の比較を行った場合,Flex,Abd,ER1,ABERに年代による有意な差を認め,80代はその他全ての年代に比べて有意な低下を示した。また,FlexやAbdでは70代も40代に比べて有意な低下を示した。ABIR,IRF,H.Add,H.Abdについては各年代間で有意な差を認めなかった。女性において,Flex,Abd,ER1,ABER,H.Addで70代や80代は,その他の年代より有意に低下していた。ABIRとIRFは,40代がその他の年代と比べて有意に低値を示した。
【考察】
本研究では40歳以上の各年代の男性と女性において,肩関節可動域の年代的特徴,また利き手の影響を明らかにした。利き手はABERが大きく,ABIRやIRF,H.Addが小さいことから,上腕骨後捻角の左右差に加えて,後方関節構成体の柔軟性低下が利き手に出現する可能性が高いことが考えられた。その結果,肩甲上腕関節内で骨頭の後方への滑りが必要とされるFlexでも利き手の関節可動域が小さかったのではないかと考えられた。本研究で男性の80代は8項目の関節可動域の低下を認め,70代ではFlexとAbdが40代に比べて有意に低下していた。70代から肩甲上腕関節のみならず,肩甲胸郭関節の可動性の制限が出現し始める可能性が考えられた。一方,女性の40代において後方関節構成体の柔軟性を反映するABIRやIRFが有意に低値を示す結果となった。後方関節構成体の柔軟性低下は,その他の肩関節可動域を制限し,種々の肩関節疾患の要因になると報告されており,40代でのABIRやIRFの低下は,肩関節周囲炎の前駆症状である可能性が考えられた。
【理学療法学研究としての意義】
肩関節可動域の年齢や利き手の影響を明らかにすることで,標準値となりうる有用な結果であるとともに,生理的な加齢変化や疾患による病的変化の鑑別評価に資するものと考えられる。